第七話 ていうか、私達の作戦会議はスムーズに進むはずがない。
「まずは暗黒大陸について、詳しく教えてほしいんだけど」
上陸後の初の夕ご飯を待ちながら、準備に忙しいゴーストメイドに話しかけた。
『あいよ! 何が知りたいんだい?』
……メイドって言うより近所のオバサンだわね……。
「ここの通貨ってどうなってるの? 私達のいた大陸だと、こういう貨幣だったんだけど」
ジャララ!
とりあえず適当に銅貨をテーブルに出す。
『貨幣だね、これで大丈夫だよ』
マジで!?
『この大陸を開拓した先祖が、以前暮らしていた大陸の貨幣をそのまま持ち込んだのさ。だからほとんど同じ。普通に使ったってバレやしないさ』
一応金貨や銀貨も見てもらったけど、やっぱり少しずつは違うものの、よほどまじまじと見ない限りはわからない程度のモノだ。確かにこれなら大丈夫だろう。
「ま、念には念をいれて、早めにお金の交換しちゃった方がいいか。次は民族構成かな」
『民族構成? そうさね……古人族三割、獣人が六割、あと一割がいろいろってとこさね』
やっぱりいたんだ、古人族。
「古人族の見た目って?」
『そんなに人間と変わらないよ。ただ、身体のあちこちに魔術紋様が浮き出てるはずだね』
魔術紋様?
「身体に魔術文字を刺青にして彫り込んで、常時詠唱無しで魔術を発動できるようにするんや。要は魔術のショートカットやな」
「へええ……意外と物知りね」
「意外とが余分や!」
ゴツン! ゴツン!
「ひぎゃ!」「ふみゃ!」
『あんた達! 人の話はちゃんと聞きなさいって、親に言われなかったのかい!?』
「イタタ……私、孤児院出身です」
「イタタ……ウチも似たようなもんや」
『あら! まあまあまあまあ!』
な、何よ今度は。私とエリザを急に抱え込んだわよ!?
『苦労したんだねえ、あんた達! 親がいないだけで、どれだけのハンデを背負ってきたか……想像するだけで涙が出るよ!』
は、はあ……。二度目も似たような人生だから、私はすっかり慣れちゃったけどね……。
「うぅ、おばちゃんわかってくれる? ウチ、ごっつう苦労したんや!」
『そうかいそうかい! 良ければ私の胸で泣いていいんだよ!』
「うん、うん……!」
……何なのよ、この空気は……。
ゴーストメイドとエリザが妙に盛り上がってる(?)ので、作りかけだった夕ご飯は私が引き継いだ。ていうかゴーストメイド、味つけが雑だな……。
「んむ!? おいひい!」
スープを飲んで感動するエリザ。それ、塩が入ってなかったからね。危なかったね。
「このステーキも美味」
分厚いお肉に舌鼓を打つリジー。それはコショウがかかってなかった上に、レア以上にレアでしたから。
『お嬢ちゃん、料理が上手いんだねえ。いいお嫁さんになるよ』
いや、料理が上手かどうかって言う以前の問題ですから! 調味料が入ってないって致命的ですから!
『あたしゃどうも料理が苦手でねえ……』
……料理だけじゃないでしょ。あれだけホコリが積もってたんだから、掃除もろくにしてないでしょ。
「大丈夫や、師匠! 人間には得手不得手があって当たり前や!」
『そう言ってくれるかい。弟子に励まされてるようじゃ、私もまだまだだねぇ』
おい、いつの間に師弟関係を構築した。ていうかメイドとしては、師匠より弟子のほうが遥かにレベル上だからね?
「は、話は逸れたんだけどさ……ここから一番近い町って、歩いてどれくらいかかるかな?」
『ここからだと、灯台四つ分だから……四日はみておいた方がいいね』
四日分か、食料は十分足りるわね。それより。
「ねえ、灯台って言わなかった?」
『言ったよ。この大陸には、街道沿いには必ず灯台があるからね』
………あ、そっか。一日中真っ暗なんだから、灯台がないと進めないわね。
『この塔もその灯台の一つさ。この先にあった村が無くなってからは、お役御免で放置されてたんだ』
あ、なるほど。だから前の持ち主は、ここを魔術工房にしようとしたのか。
『だけどモンスターが多くてねえ、一日の半分はモンスターの撃退に費やされたもんさ』
まっったく魔術工房に向いてない物件だな! 放棄して大正解だよ!
「じゃあ師匠もメイドに集中できなかったんや?」
『私はこう見えて荒事が得意でね。私が外でモンスターを撃退し、ご主人自ら家事全般を担当してたのさ』
……あんた、何でメイドになった?
「ああ、また話が逸れた。向こうの大陸に念話ってできるかな?」
『この塔ならできるよ。ここが一番念波が届くからね』
「……じゃ、じゃあ他では……」
『無理。この塔は前のご主人の趣味で、魔術無線の設備が整ってるからね、アンテナがあるから受信できるんだよ。他じゃ不可能だね』
魔術無線って……アマチュア無線みたいなもんか。ってことは、やっぱりここを拠点に考えた方がいいか。
「大体はゴーストメイドの説明通りだから、ここを拠点にして冒険者を始めるわ。ギルドは当然あるわよね?」
『あるよ。これも向こうから持ち込まれたモノだから、システムもほぼ同じさね』
なら話は早い。
「私達は『近くの村から出てきたばかりの新米』っていう設定でいくわ。絶対に『向こう側の大陸から来た』って知られないようにすること。いい?」
「その方がええわ。どうやって航ってきたか、突っつかれるんがオチやしな」
「面倒な事になるだけで、メリットは一切ないと思われ。賛成」
「異議はないわね。なら解散し「ちょい待ち」……はい、エリザ。何か意見でも?」
「個人の名前を変える必要はないと思う。やけどな……」
な、何か握った拳に、妙に力が入ってるんですけど?
「けどなぁ………パーティ名はどうにかせんとあかんねん!」
どどーん!
おお、バックに波しぶきが。
「ん、私も賛成。流石に船の底抜きは恥ずかしい」
………そうね。新しいパーティメンバーも入ったことだし、向こうの大陸のギルドには知られることもないだろうし。
「……わかりました。ならこの大陸でのパーティ名を考えましょう!」
「「さんせーい!」」
……という感じで、パーティ名変更の会議が始まったんだけど。
「はい! 『リファリスの栄光』で!」
「はい却下!」
「はい! 『皆呪われ隊』で」
「縁起でもない! 却下!」
……という感じで、お互いに勝手な主張を繰り返し、決まるモノも決まらない。
「ほな、否定ばっかするサーチんには、何か良い案があるんやな?」
「さぞかし名案があると思われ」
「何で私に飛び火するかな!?」
……という感じで、ジャッジ役の私も巻き込まれ、さらに会議は混迷を極めた。
それから一時間ほどして。
『難しく考えずに始まりの団でよくないかい?』
「「「それだ!」」」
……ゴーストメイドの鶴の一声で決まった。けど、冷静になってみると……これも何だか……。
みっくみくにしてやんよ!