第一話 ていうか、いよいよ新生パーティが始動!
ヒュウウウ……
青く澄んで、果てしなく広がる青空。背後には、幾千年の月日を越えたであろう、白亜の巨城。
そして、眼下に広がる白い雲と緑の大陸と真っ青な海。
「ああ、私はこの空へと思いを馳せる、儚い一片の花びら……ああ、あああ………」
「……ねえ、リジー。サーチはどうしたん?」
「……たまにトリップする。放置プレイでいいと思われ」
「……まあ、リジーがそういうなら……」
……誰かつっこんでくんないかな。あ〜あ、リルの不在は、あまりにも影響がデカかったなあ……。
「サーチ姉、さっさと中に入ろ?」
「こんなとこでアホなことすんな?」
……せっかく一週間ぶりに晴れたのに。
魔王城はその後、何の問題もなく進み続けた。
ただ。
『おはようございます、マイマスター。本日の天気は大雨と共に暴風と雷。稀に人の頭くらいの雹が降ってきます』
……外には絶対に出られない。
この城はあまり上空に上がると、推進力を得るために必要な魔素を取り込むことができなくなってしまうため、著しくスピードが下がる……らしい。
そのため、雲の中を進むか、やや下辺りを飛んでいるのだが……。
「これだけ嵐が酷ければ、暗黒大陸に船で行くのは無理やな〜……」
最近だんだんと砕けてきたエリザ。しゃべり方もボーイッシュになってきた気が。いや、関西系か?
「おそらく『絶海』の名前の由来は、『絶対に航れない海』の略と思われ」
……相変わらず不思議キャラのリジー。しばらく時代劇口調になってた時期もあったけど、何かしらの影響で口調を変えるらしい。器用というか何というか……。
「暗黒大陸の由来も気になるわね。もし大陸に行ったことがある人が名付けたなら、何か口伝のようなモノが伝わってるかもしんない」
「その可能性はあるわ。見た目からは想像もつかないんやな、サーチの博識ぶりは」
「……あんた、世の中の全てのビキニアーマー装着者を敵に回したわよ」
「……そんなにいないやん」
「秘密の村の女性陣」
「え゛」
「特にヴィーは『軽くて動きやすい』と言って、よく狩りのときは使ってたわよ」
「う、嘘や! ヴィーみたいな可憐な方が!?」
「サーチ姉の言ってる事が正しい。私もよく見た」
ちなみにエリザには、ヴィー達の事情は話してあります。
「あ、う、あ……あ、あの……ヴィーには……」
「ヴィーは別に心配いらないわよ。ちょっと機嫌が悪いと丸飲みされるかもしれないけど」
「ひえっ!?」
「ま、それは冗談。悪くてもクルクルマキの漫才モドキに数時間付き合わされる刑で済むわよ」
「そ、それは私に死ねと言ってるん!?」
実は、この刑の発案者は私だ。それを私から聞いたヴィーが、リファリスに掛け合ってできた刑罰だ。漫才をしたいクルクルマキと、治安の悪化に頭を悩ませていたスケルトン伯爵の思惑が、見事に合致して成立したのだ。ギルド総帥のお気に入りであるクルクルマキを無下にもできなかった……という事情もあったけど、お互いに渡りに船だったらしい。事実、クルクルマキの漫才を聞いた罪人は。
「も、もう勘弁してくれ。別世界に引き込まれそうで怖いんだ。止めてくれ!」
「わ、わかった。更正する。ちゃんと働く。だからあの二人を止めてええ!」
……すごい効き目らしい。提案したヴィーには金一封が授与されたそうで。
……そういう扱いに気がつかず、毎日新しい漫才の創作に意欲的なクルクルマキの二人も……不憫だ。
もう一つ、城の中で問題になっていることがある。
「あんたね、私にケンカ売ってんの!?」
「しゃあないやん! こういう事もあるわ!」
……どうも私とエリザの相性が悪いのだ。今も些細なことだったんだけどね、その、何て言うか……。
「こいつの顔を見てると、無性に殴りたくなるというか、蹴り倒したくなるというか、踏みにじりたくなるというか……」
「な……そ、そこまで言うか!?」
まあ一方的に私が嫌ってるんだけどね。え、何でかって? ビキニアーマーをバカにしたヤツは死、あるのみ。
「サーチ姉、いい加減にして。エリザも喧嘩を買わない」
「だってさ……」
「だってよ……」
「「この格好おかしいでしょ!?」」
お互いにお互いを指差しあい、またにらみ合いになる。
だってさ、エリザって一日中メイド服だよ!? 戦うときも、お出掛けでも、何と寝るときも!
「…………エリザ、あなたの負け」
「な、何で!?」
「というより………そのメイド服、何日目? 臭いよ」
……しかも一着しかないらしく、ずっっっと同じヤツを着てるのだ。それはもう、女の子として失格だよ……。
「というわけで剥ぐ」
「え? き、きいあああああああっ!」
そのままメイド服を脱がされ、『要洗濯要殺菌』の札を付けられ、シロちゃんお預かりとなった。シロちゃんは家事全般こなしてくれるので、洗濯もお手の物なのだ。
「あとは何を着させるかよね……」
私の普段着だとサイズが合わないし、リジーのだと、やや身長が低いから合わないし。
ドサッ
そのとき、魔法の袋の片隅に眠っているモノを発見した。
「……あ、これならどうかな?」
「それは?」
「ずいぶん前に拾った、リジーのドロップアイテム。これはサイズ合う子がいなくって、お蔵入りしてたヤツなのよ」
「一体何なん? それ」
「え〜と……聖者の制服だったかな?」
「聖者の……制服ぅ!?」
一応一級品です。守備力も対魔力も文句なし。
ただ……。
「見た目が……ねえ……」
「な、何やこれ!?」
エリザ……あんたは下着だけの状態なんだから……着るしかないわよ。
「な、な、何てハレンチな……!」
「に、似合ってるわよ……ぶっくくく……!」
「わ、私は無理だけど……クスクスクス」
「わ、笑てるやん! やっぱおかしいんや!」
そ、そりゃそうでしょ……。聖者の制服って、ようは……。
「ていうかね、下着しか付けてないから変なのよ」
聖骸布によって作られた……前掛けなのだ。つまりエリザは今、裸エプロンの一歩手前。
「う〜! 寒いやん、恥ずかしいやん! 誰か何か着るモノ貸して〜や!」
何か関西弁の前に「エセ」が付きそうなしゃべり方ね……。
「エリザ、私のワンピースで良ければ」
「あ、あ、ありがとうリジー! めっちゃいい娘やわあ!」
え? リジーのワンピース?
「ちょっと、それってまさか……」
「うん。血染めの法衣」
バリバリ呪われアイテムじゃん!
「ちょっと、それ着ちゃダメ!」
「え? もう着ちゃった」
「そ、それ着ると、血を吸われる呪いのワンピース……」
「ぐぇっっっ!!」
面白いリアクションするなあ……。よし、こっそりリファリスに見せてみよう。念話水晶で呼び出して……。
『……はいは〜い、どうしたの、さーちゃん』
リファリスが出た。すると。
「は!? 何故かリファリス様の気配が!?」
すげ、何も言ってないのに気づいた。
「リファリス様、エリザでございます!」
そう言って私の念話水晶を奪っていった。
「い、一体何なのよ……」
……三十分後。
「はあ……リファリス様を堪能致しました。サーチ様、ありがとうございました」
サーチ……様?
「お待たせして申し訳ありませんでした。お返し致します」
「えっ……と、エリザ? さっきまでの砕けた感じはどうしたの?」
「はい、私はリファリス様から成分を頂いてメイドフォルムを維持しておりますので」
フォルム!?
「離れている時間が長くなるとフォルムが崩れ、だんだん地が出てくるのです」
そ、そうなんすか……。
このパーティって……変人しかいねえ。
エリザは一週間くらいで元に戻った。
この物語にまともな人がいるわけがない。