第十九話 ていうか、移動手段はラピ○タ!?
「……ざあっつぅ〜♪ ほらあ〜いぞん〜ん♪ ……で、いいのかしら……」
「? 何を言ってるの、サーチ姉?」
「ん? 私が前世で好きだった歌を歌っただけよ」
まんまの歌詞だと著作権が怖いから、適当に英訳しただけ。
え、訳が違う? 知らぬ。
「それにしても……前世で憧れた光景を、この目で見ることになるとはね〜……」
「……アレに憧れた? サーチ姉の前世には無かったの?」
「大体魔術自体が存在しない世界だったからね」
それにしても……遅い。
マーシャンが微かに見えるソレを発見してから……一時間くらいか。ようやく月より大きく見えるくらいになった。
「……文字通り『空飛ぶ要塞』だけどさ……このスピードで進んだら、暗黒大陸に着く前に天寿を全うできそうね……」
……そう言って、私達から『アレ』『ソレ』扱いされる天空の城を眺めるしかなかった。
「ま、魔王城を使う!?」
マーシャンの突飛なアイデアに、私もリジーも呆然とするしかなかった。
魔王城(別名・ソレイユ城)ってのは、旋風の荒野に封印されていた、元最高神の〝知識の創成〟の城だ。今はソレイユの居城なんだけど、金ぴかだったりどピンクだったりと目に痛い外見が災いし、長い間封印されることとなった。
「じゃが絶望の獣封印の弊害で、異空間にあった魔王城は外に弾き出されてしもうたようじゃ」
……念話でヴィーから聞いた話だと、旧帝都は突然現れた空飛ぶ城に、とんでもない大騒ぎになったそうだ。結局リファリスが「ああ、〝知識の創成〟が降臨された」……などというデマを流して、何とか鎮静化させたらしい。ナイスフォローだけど……〝知識の創成〟の信者が増えそうでイヤだなあ。
「で、どピンクな外見を放っておくわけにもいかず、塗装を行ってから適当に浮遊させておいたらしい」
……ようやくまともな外見になったか。
「サーチ、お前は管理人になつかれてなかったか?」
「なつくっていうか……向こうが勝手に『マイマスター』とか言ってるだけよ」
「なら大丈夫じゃろ。念話水晶で呼び出してみるがよい」
……城で移動って……昔のゲームにあったような……?
その後、相変わらずどピンクのシロちゃんが即決で了承して『今すぐ向かいまっす!』となり、冒頭に続くわけなんだけど……。
「……ねえ、リジー。あれって……もっと早く飛べないもんかな?」
「……無理だと思われ。だってあのデカさだよ?」
そうね。空気抵抗ハンパないもんね。
『お、お久しぶりでございます、マイマスター!』
うぅ……相変わらずのどピンクな服装。写真好きな夫婦かっつーの。
「だからマイマスターじゃないっての。あんたのマスターは魔王でしょ?」
『へ? 違いますよ。ソレイユはとっくの昔に出禁です』
おい、魔王様! あんた部下から出禁扱いされてるぞ!
『初対面で「……趣味悪」とか抜かす人をマスター呼ばわりする義理はありません!』
……たぶんここにいる全員が、ソレイユの意見に諸手を挙げて賛同すると思う。
『……何か?』
「何でもありません」
おもいっきり怪しまれてるけど……このままスルーしよう。
「それよりさ、この城ってどれくらいのスピードが出るの?」
『そうですね……風の影響を抜きにすれば、一時間で50kmは進めると思います』
遅いな!
「さ、最高速は?」
「うーん……一時間で70〜80㎞がやっとです」
マジでおっそ! ちょっと足の速い台風並みじゃん!
「……普通に魔術で空飛んだ方が速いのでは……」
『そうかもしれませんが、この城にいる限りは間違いなく安全ですよ?』
「……あ、そうね。絶海っていう超危険地帯を越えなきゃならない以上、空中だって安全とは言えないわね」
『そうですよ。この城の防衛機能があれば、たとえ絶望の獣が攻撃してこようと、楽々撃退できますよ』
「は、はああ!? 絶望の獣を撃退できるって……どんだけ強力な防衛機能なのよ!?」
『どれだけ強力か、と言われましても……目安になるかはわかりませんが、この城の主砲は……』
主砲!? 城に主砲!?
『え〜っと……出力が……9.24×10^14Wですね』
ずどがしゃあ!
『マ、マイマスター!? 突然コケてどうかなさいましたか!?』
「9.24×10^14W!? つまり…………九億と……二千四百万W!? 某天体級要塞の主砲と同じ出力じゃないの!!」
『いえ、厳密に言えば九億二千四百万一Wですので同じじゃありません』
「1Wの差くらいどうでもいいわああ! ていうかそんなの撃ったら、全世界吹っ飛ぶわ!」
『あははは。冗談ですよ、冗談。そんな主砲があるわけないじゃないですか』
……ぶちぃ
「殺す! その目に悪い原色ピンクを血で赤く染めてやる!」
『わ、ちょっと! だ、誰か止めて下さい! すいません! 申し訳ありませんでした!』
ばごっ! どご! めきめきめき、ぐっしゃあ!
『あぎゃああああああ!』
「……暗黒大陸に着くまで全速力だからね?」
『は、はい。マイマスター』
「寝ちゃダメ。食べちゃダメ。当然、休んじゃダメ」
『そ、そんな殺生な!』
「ついでにしゃべるのもダメ。キリキリ働きなさいいっ!!」
『助けてええええっ!』
私がシロちゃんを折檻してるのを遠巻きにしてたリジーが、両手を合わせていた。一応真竜だから、死ぬことはないと思うよ。
「死ぬ心配がないんだったら、死んだ方がマシだったと思えるくらい、ビシビシと働いてもらえるわけか」
『マ、マイマスターが凄く怖い事を呟いてるんですけど!』
ま、こんだけ脅しておけば大丈夫でしょ。このまま旅の準備も押しつけちゃお。
「サーチ姉、シロちゃんを散々脅して、面倒くさい事を押し付けた?」
「あ、わかった?」
「……流石にサーチ姉との付き合いも長いから、ちゃんと悪党だって理解してる」
「……あんたは毎回一言余計なのよ」
「みょーーん」
あら、リジーの頬っぺたも意外とよく伸びるわね。
「でもエイミアには及ばないわね……」
「みょーーん」
「懐かしく感じるわ、あの驚異的な伸び加減……」
「みょーーん」
「……待ってなさい、エイミア。必ず見つけだしてやるから!」
「みょーーん……みょ」
ごすっ
「いったあああい! ……リ、リジー! 人の頭を梯子で殴るとは、どういう了見よ!」
「人の頬っぺたを伸ばしたまま、エイミア姉との思い出に浸ってるサーチ姉には言われたくない」
あ、ごめんなさい。
「それよりサーチ姉、ずっと忘れてた」
「何を?」
「サーチ姉にお客様」
っておい! ずっと待たせてたのかよ!
リジーの頭に拳骨を落としてから、お客さんが待ってる部屋へダッシュする。ていうか、私にお客さんって……誰?
「奥の部屋だって言ってたから……ここね!」
焦ってた私は、ノックするのも忘れてドアを開いた。
「お待たせしてすいませんでした……って、あれ?」
「……一体何時間待たせるのですか」
な、何であんたがいるのよ!?