第十八話 ていうか、久々にソレイユとマーシャンに会ったんだけど……?
リル、ヴィーと別れてから、私とリジーは再び暴風回廊へ向かった。そこでソレイユとマーシャンに会うことになっているのだ。
「でもどうやって暗黒大陸へ行くの?」
「そうよねえ……海を越えるのが難しいなら、空を飛んでいく……とか?」
「……どうやって?」
「ん〜……魔術?」
「それが可能なら、とっくの昔に魔王様は暗黒大陸に到達している、と思われ」
「ま、そうよね……。ていうか、暗黒大陸に関する情報が無さすぎ! どんな種族がいるのかもわかんないって!」
「サーチ姉、誰も辿り着いた事がない大陸の情報、元々あるはずがないのでは?」
「リジー、甘いわ。前人未到とか言われてる場所はね、大体は昔の人達によって到達されてたりするもんなのよ。そういう話が、先祖代々口伝によって残ってるってことは、意外とよくあるモノなのよ」
「……へー」
何よ、そのボタン押したら鳴るような感じの返事は。
「あーくそ、何か情報はないかな……。暗黒大陸にも温泉があるのかないのか、それが重要なのに……」
「……って、そこなの?」
「何よ、めっちゃ重要よ!? 戦いに疲れた身体を癒すため、温泉は絶対に欠かせないのよ!? 中には寿命が一万年近く延びる神秘の湯だって……」
「無い無い。あったら色々おかしいと思われ」
「そ、それはそうね……。ていうかリジー。暗黒大陸には必ず新種の呪いがあるはず」
「さあ行こうすぐ行こう。絶海は泳いででも渡ろう」
……相変わらずわかりやすい子。だけどね、泳いで渡るのは止めようね。
あまり悠長にもしてられないので、途中で音速地竜を借りてスピードアップし、普段の半分の日数で暴風回廊に到着した。白目を剥いて気絶してるリジーをおんぶし、裏門へ回る。
「お、重い……! あんたもいい加減に音速地竜に慣れなさいよ!」
ちょっと飛ばし過ぎだったかもしんないけど、泡吹いて気絶することないじゃない。失禁でもしたら遠慮なく突き落とそうかと思ってたけど、尊厳と命は自身の尿道括約筋によって守られた。
ドンドン
「ソレイユ、着いたわよ〜。開けてちょうだい」
…………シ〜ン
あれ?
「いない……のかな?」
おかしいな、聞き間違えはないと思うけど、実際に「シ〜ン」って音が聞こえた気が……。ま、まあ、とりあえず念話水晶で連絡してみるか……ん? んんん?
「一瞬既視感かと思ったけど……ホントにインターホンだ……」
裏口の壁に、前世ではよく見かけたボタンがあった。
「……そういえば前から付いてたっけ……。あまりにも不釣り合いな光景に、強制的に忘れてたわ……」
ファンタジー感ありありの世界で、裏口にインターホンを付けてるのは、たぶんソレイユくらいだと思う……。ていうか、ラスボスのいるダンジョンにインターホンって、ラストバトル感台無し。
……まあいいや、押すか。
ピンポーン♪
『はいは〜い』
早いな! 待ち構えてたのかよ!
「こら、返事は十回!」
『え!? ……えっと、はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい! これでいいの?』
「一回多い!」
『よく数えてたわね! ってサーチ、随分早かったんじゃない?』
「音速地竜でぶっ飛ばしてきた。ここ、開けて」
『……だからリジーの脈拍が弱いのか。いい加減にしないと、リジーの心臓止まっちゃうわよ?』
む、それはいかん。今度からは加減してやろ。
ていうかリジーの脈拍、こんだけ離れててよく聞こえるな。
未だに失神中のリジーをケンタウルス女医さんに預け、ソレイユと最上階へ向かった。
「そっか。リルとヴィーは故郷へ帰ったのね」
「リルは実家に結婚の話をしに、ヴィーは今後のことを村のみんなと話し合うって」
「ふふ〜ん、寂しいんじゃない?」
「ぶっちゃけ……別れて二日間くらいは泣いてた」
「そうかそうか、泣いてた……って嘘!?」
「ウソって……ちょっと失礼じゃない?」
「あ、ごめんごめん。サーチにも涙腺あったんだ、と思って」
「……涙腺から止めどなく液体を垂れ流されたい?」
「いえ、全力でご遠慮申し上げます」
……たく。
「だけど流石に慣れたわよ。毎晩々々念話もかかってくるし」
「どっちから?」
「二人とも。あんまり多いから『緊急時以外に使うのは止めなさい!』って怒るくらい」
「あははは! あんた達らしいわ!」
一応頻度は減ったけど、それでもたまに念話がある。だからヴィーだけは応答してる。
え、リル? 知らぬ。
「そういえばさ、〝八つの絶望〟は存続させるの?」
「冒険者の皆さんの仕事を奪えないでしょ。だから適度に運用してくよ」
……確かにモンスター討伐が冒険者のメインの仕事だからね。ダンジョンからモンスターが出てこなくなったら、一気に廃業になっちゃうわ。
「……もしかしてギルドの総帥に泣きつかれたとか?」
「ま、そこは持ちつ持たれつってヤツよ」
……変な密約交わしてんじゃねえよ。ギルドの構成員には、口が裂けても言えないわな。
「……ん? 持たれつって……ギルドに何かしてもらってるの?」
「ああ、そうだった。サーチに言わなきゃって思ってたんだった」
「何かあったの?」
「ん、クルクルマキの二人を知ってる?」
「知ってるも何も……いろんな意味で記憶に残ってるわよ」
人前でアレをやる度胸だけは、大したモノだわ。
「やっぱりそうでしょ? あの娘達はすばらしいわ〜」
は?
「だからギルドに頼んで、あの娘達を売り出してもらう事にしたの」
ずどどっ!
「サ、サーチ? 急に階段から落ちてどうしたの?」
「う、う、売り出すですって!? あの二人を!?」
「ええ。ギルドの総帥もあの二人を見て『これは逸材だ』って太鼓判を押してたわよ」
「いやいやおかしいって! ソレイユもギルド総帥もおかしいって!」
「え? そんな事ないよ。以前と比べたら『……別人じゃね?』 っていうくらい面白くなったわよ」
「いやいやいや、以前のレベルがあまりに低すぎて、別人レベルじゃ面白くなり得ないって!」
まさに神様に進化レベルじゃないとムリだよ!
すっげえ気になる話題だったけど、とりあえず置いておく。マジで気になるんだけど、歯軋りしながら置いておく。
「マ、マーシャン! 何なの、このわだかまり! 何なの、この胸のときめき!」
「……何を混乱しておるのじゃ?」
「マーシャンはクルクルマキのことをどう思う!?」
「……成程、あの者共の事か。安心せい、ワシもサーチ達と同じ葛藤を抱いておる」
「やっぱり!? やっぱりそうよね! あーよかった、私の感性が変なのかと思ったわよ!」
「……サーチ、暗黒大陸への移動手段については気にならんのか?」
「………………あ、忘れてた」
「「「忘れるなよ!」」」
ま、何はともあれ。とりあえず移動手段は何とかなりそうなんだけど……。
「……マジで?」
「マジじゃ」
……クルクルマキ、吹っ飛んだわ。
もうすぐ新章。ちなみに、パーティがサーチとリジーの二人だけ、なんてことはあり得ません。ということは……?