第十七話 ていうか……別れのときなんですよね……ぐすっ
「ぎ、議員になるの!?」
「はい、連合院議員になってみようかと。まあ、当選しないとなれないんですけどね」
連合院議員ってのは……まあ、衆議院議員だと思ってもらえれば。あと貴族院ってのもあって、こっちにスケルトン伯爵やリファリスが在席している。あくまで仮のモノで、数年内には無くなる予定らしいけど。
「う〜ん……言っちゃ悪いけど、いきなりヴィーが出ても当選できる確率は……」
「わかっています。この長期間に亘る敵対心は、そう簡単に払拭できるモノではありません。ですから最初のうちは人間の振りをして入り込み、リファリスやスケルトン伯爵の協力を仰いで徐々に味方を増やしていこうと思ってます」
「で、でも! 何の地盤もないヴィーが簡単に当選できるとは……」
「ソサエト侯爵が全面的に支援して下さるので、組織票もバッチリです」
つけ入る隙がないな!
「……つまり、メデューサだってバレない限りは当選確実だと」
「あ、その件についても考えてあります。人間の姿を比較的留めているモンスターについては、獣人の亜種という事で浸透させようかと」
「獣人の亜種かぁ〜……言われてみれば、そうとも言えなくもないわね」
実際にモンスターに分類されてる有翼人や半蛇人は、見方さえ変えれば人魚族となんら変わりはないしね。
「まあ人型のモンスターって案外少ないからね。そういえばダンジョンでも、ゾンビくらいしか人型には遭遇したことないわね」
「そこは魔王様がご配慮下さいまして、ダンジョンからは人型のモンスターが出現しないようになっていました」
「……他のモンスターが可哀想じゃね?」
「そ、そこはまた……複雑な事情が……」
「……聞かない方がいいみたいね」
私からこの話題を打ち切ろうとする。が。
「……待って下さい。これから暗黒大陸に行かれるのでしたら、この話は聞いて頂いた方が、逆によろしいかと
「……その言い方だと……人型じゃないモンスターの秘密の村は、暗黒大陸にあるのかしら?」
「……流石はサーチ。その通りです。彼らは……私達と決別し、暗黒大陸のどこかでひっそりと暮らしているそうです」
「……だからソレイユも場所を知らないのね」
「はい。ですが決別はしましたが敵対はしていません。文を交わす程度ですが、一応交流はしています」
「文を交わすって……どうやって?」
「魔術で信号を送っています。ツートントンみたいな」
モールス信号かよ!
「協力してくれるように、早めに文を出しておきますので、いざという時は頼ってみて下さい」
「ありがと。その『いざ』がないように気をつけるわ」
それからどんどんワインの空き瓶が増えていき、気がつけばヴィーはべろんべろんになっていた。
「だ〜か〜ら〜、今夜はずぇったいにヤりますよ!」
「はいはい、わかったわかった」
……これって絶対にヤバい雰囲気だけど……今日は、いいか。
「……な〜んちゃって」
「は?」
「私はサーチに手を出しましぇん」
「い、一体どうしたの?」
「私はサーチが好きでぇぇす。愛してまぁぁす」
「はいはい、私もよ」
「だけど、エイミアも友達としてだ〜い好きでえぇす!」
……今日は悪酔いね。
「だから。だからこそ! 私はエイミアとは、対等な条件で勝負しまぁす!」
「対等な条件で勝負? 果たし合いの約束でもしてるの?」
「ちーがーいーまーすーぅ。対等な条件での勝負ってのは、サーチを巡る戦いの事です?」
はいい!?
「サーチだって気付いてるんでしょお? エイミアが好意を抱いてる事に」
「………………それは……まあ……薄々」
「だあかあらあ! エイミアを連れ戻して! サーチに告白して! そこからが真剣勝負の開始なんですよおお!」
「……ヴィー……」
「……だから……だから……絶対に連れ戻して下さいね?」
「わかってる」
「絶対に絶対ですよ?」
「わかってるって」
「絶対に絶対に絶対ですよ?」
「……しつこいぞ」
「それと………絶対に帰ってきて下さいね?」
「当たり前じゃない。せっかく絶望の獣を封印したんだし。やりたいことは、まだまだたくさんあるわよ」
「約束ですよぉ……ぐすっ……びええええ」
「……あんたはエイミアかっつーの」
……薄暗いなか、二人の顔のシルエットが重なっていく……。
「……って結局ヤることはヤるんじゃないの! しかも約半日も……! わ、私もう立てないわよ!」
「す、すみませんでした!」
……ヴィーに回復してもらって、ようやく立てるようになったのは、さらに半日後だった……。マジでヤり過ぎだよ!
腰をトントン叩きながらドアを開けると。
「あっ」
「げっ」
「…………あんた達、一体何をしてたのかしら?」
「あ、えっと……その……」
「サーチ姉の喘ぎ声が気になったわけじゃない。ないったらない」
「……極刑」
「「ぎいああああああああああああ!!」」
……真っ赤な夕焼けに照らし出された、物干し竿に吊るされた二体の人影が……風に揺れていた。
「もうこういう事も……最後なんですよね……」
泣きながら「下ろせええっ」と叫ぶリル達を見ながら、ヴィーがしみじみと呟いた。いや、そんな黄昏るような光景じゃないわよ?
「なーに言ってんのよ。ヴィーにもちゃんと働いてもらいますからね」
「え?」
「あのね、私は暗黒大陸に行きっ放しってわけにはいかないの。一ヶ月に一回は温泉に入らないと気がすまないのよ。だからそのときは付き合いなさいよ?」
「はい?」
「だから………その……一ヶ月に一回は帰ってくるっての!」
「あ、あー……は、はい! なら私も、議員を務めながらも冒険者を続けて、新しい温泉地を探訪してみます」
「頼むわよ〜。とびっきりの温泉を探しといてね!」
「はい!」
その夜。
一時的にパーティを離脱するリルとヴィーの送別会、そしてリルの結婚祝いを兼ねての飲み会を開催し、朝方になってもドンチャン騒ぎに明け暮れた。少しの間だとしても、やっぱり別れるのは……ツラい。そんなみんなの心境を反映してか、飲み会はなかなか終わらず……私以外が酔いつぶれるまで続くこととなった。
そして、ついに。
「ここでいいよ。もう少しで横断トンネルだ」
「お見送り、ありがとうございます」
……別れの時。
「そう……ホントに名残惜しいわ」
「私も」
「はは。そう言うなよ。サーチが言った通り、少しの間だ」
「そうですよ」
「……リル! ヴィー! パーティのリーダーとして命令します!」
「「は、はい!」」
「リルは必ず幸せになりなさい! 私達がエイミアを連れ戻してくるまでに、子供の一人は作っておきなさいよ!」
「は、はああ!?」
「で、ヴィー! あんたは必ず当選しなさい。私達が戻ってくるまでに、最低でも首相くらいにはなってなさいよ!」
「え、ええ!?」
「以上、命令よ! わかった!?」
「ム、ムチャ言うなよ………ま、まあ努力はするけど」
「しゅ、首相ですか!? サ、サーチは無茶苦茶言いますね」
「……それと、ヴィー」
「はい」
「…………絶対に……浮気すんじゃないわよ」
「! ……はい」
こうして。
パーティ結成当初からのメンバー、リルと。
パーティの回復役のヴィーが……離脱した。
「……ぐすん」
「リ、リジー……泣くんじゃないわよ」
「サ、サーチ姉だって泣いてる」
「か、花粉症よ!」