第十五話 ていうか、無限の小箱《アイテムボックス》が使えないって、ホントに不便……。
「古人族ですって!? 帝国に滅ぼされたっていう?」
「そう。歴史上では全て虐殺された事になってる古人族だよ」
生き残ってたっていうの!?
「で、でもどうやって? 話を聞く限りだと、生き残る術はなかったように思えるんだけど……?」
「アタシがよく使う聖術ってなーんだ? 最近は使わされたっていうのが正しいんだけど」
最近よく使ってた聖術って……まさか!?
「転移!?」
「あったりー。ギリギリまで追い詰められた古人族の長老が、最後に己の命と引き換えに、生き残ってた古人族を暗黒大陸へ転移させたのよ」
「……てことは、ソレイユやマーシャンが使ってた転移は……元々は古人族のオリジナルだったってこと?」
「そ。アタシもサーシャ・マーシャもかなりアレンジしてるけどね」
何てまあ……こんな身近に古人族の名残があったなんて……。
「おい、それよりよ。何でその古人族が、今さらエイミアを拐っていく必要があんだよ?」
……確かに……今さらよね。
「今さらじゃないんだよね、これが……。一般的には知られてないんだけど、人間と古人族は今でも戦争状態にあるのよ」
今でも!?
「さっきも言った通り、古人族には転移魔術がある。だけどこっち側で使えるのはごく少数。これってどういう事かわかる?」
「…………古人族は攻め放題、人間側はやられ放題よね」
「そうなのよ! それがアタシがあちこち駆けずり回っていた理由よ! あいつら、神出鬼没すぎるのよ!!」
……なるほど。ソレイユが裏で戦ってた相手ってのは、古人族が送り込んでくる刺客だったわけか。
「あの〜魔王様。先程の話だと、古人族の転移は、命と引き換えになる程に大変な魔術だと……」
「あ、その時は万単位の人数を転移させてたはずだから」
そりゃ死ぬわな。
「だからこっちに転移してくるのもモンスターばっかりだよ」
「モンスター?」
「こっち側でいうダンジョン産」
あ、意思のないモンスターか。
「弱いのを大量に送り込んできたり、突然竜を変な場所に転移させたり……」
「変な場所って……市街地とか?」
「んーん。ピンポイントは難しいみたい。最近だとスパミーネ山付近にでたかなー。アタシが討伐する前に冒険者に狩られてたみたいだけど……サーチ、どうかした?」
「な、何でもない……」
……ホワイトヤタのときの竜、古人族の枝テロだったのかよ……。
「おい、それよりも」
「あ、そうね。だったら話は簡単。ソレイユかマーシャンに転移させてもらえば」
「あ、それは無理」
何で!
「どこに転移するにしても、一度でも見た事がある場所じゃないと転移できないの」
「……なら、ソレイユは暗黒大陸には?」
「行った事ないよ」
……この方法は詰んだ。
どちらにしても、ここでアレコレ言ってても仕方ない……ということで。
「一旦、戦後処理しようよ」
……となり、ソレイユは再び転移していった。
私達もこの戦いに協力してくれた人達への対応もある。とりあえずは地上に降りるということで……。
「……って、帰りは徒歩かよ!」
「仕方ないじゃない。脱出用アイテムを持ってたのはエイミアなんだし」
「あ〜……そうだったな。エイミアの無限の小箱に入ってたんだっけ……って違ったか。無限の小箱はもう使えないんだもんな……」
「あ、でもエイミアの荷物は無事だったんじゃなかったっけ?」
余談ではあるが、絶望の獣を封印した影響らしく、私達を含めて全員の無限の小箱が使えなくなった。ソレイユががんばってくれたおかげで、収納されていたモノは外に出てきたけど……突然現れた大量の荷物を前に、私達は呆然とするしかなかった。荷物を漁って、以前に使ってた魔法の袋を探し出したとの感動と言ったらもう……。
それ+炎の真竜に貰った魔法の袋も出てきたのだが、これが超感動モノだった。なぜか付属されていたトリセツによると。
「こ、これ……無限の小箱と同じ運用ができるわ!」
「え、どういう事ですか?」
「ていうか、無限の小箱とほぼ同じ。ステータス欄からアイテムを取り出せるし、容量によって重さが変わるデメリットもない。欠点は……ショートカットがないのと、無限の小箱よりは容量が少ないくらいかな。とはいえ桁違いの容量だけど」
「な、何気に凄い魔法の袋ですね」
「そうなんだけど……重大な欠点がもう一つあったわ」
「え? な、何ですか?」
「……この魔法の袋の正体が、炎の真竜の胃袋ってこと」
「どんな胃袋なんですか!?」
……某RPGの太った鳥が頭をよぎった。
「サーチ姉、私は食料関係をその胃袋に入れるのは、激しく反対する」
「……そうね」
というわけで、胃袋には食料以外のモノを入れ、元々持ってた魔法の袋には食料+リジーの荷物が入ることになった。リジーが「私の呪われアイテムを胃袋に入れるのは、断々固として拒否」と言って聞かなかったので。
さて、話は戻るけど、一度凍結されてしまった無限の小箱の中身は、まず取り出すことができない。そう、作った本人であるソレイユを除いて。実際に凍結された無限の小箱の解凍作業に追われまくってるのだ。
「……うん。で?」
「つまり、解凍されたエイミアの荷物を持ってるのはソレイユ」
「なら、早く魔王様を捕まえて……」
「解凍作業で忙しいソレイユを捕まえられるとでも? 絶対に念話水晶には出ないわよ」
「………………だな」
「………………ですね」
「………………だと思われ」
……ちーん。
「何だ、さーちゃん達は脱出用アイテムを持ってないの? なら先に言いなさいよ」
「い、院長せんせええええっ!!」
「私一人分しかないから。じゃね〜」
シュンッ
「「「「…………」」」」
い……院長せんせええええっ!?
「なあに、さーちゃんは脱出用アイテムの準備してないの?」
「サーチ様も意外と抜けてらして……ププッ」
「リファリス、お願い! どうかお裾分けを……」
「あたし達も二人分しかないんだ。ごめんね〜」
「では失礼致します……ププッ」
シュンッ
「……エリザ、殺す」
このときばかりは、全員の心は一つとなった。
……結局私達は、一週間ほどかけて虚空神殿を脱出した。盛大にリファリス達を呪いながら。
ただ、その一週間の間に院長先生やリファリスが、エイミアに関する情報を集めてくれてることを知ったとき、私達は平謝りした。