第十三話 ていうか、絶望の獣の最後の悪あがき! 結構ヤバめだけど、みんなで協力しあって勝鬨をあげる……?
あれだけ早く傷が回復するのだ、抗体の強さもハンパないだろう。
ガ……グゴ……ゲエエエ!
だからこそアナフィラキシーショックもヒドい症状となる。たとえ顔が七つあろうと、全ての気道を塞いでしまうほどに!
「……OK! 準備できたわよ!」
「え……? ソ、ソレイユ!? 傷は大丈夫なの!?」
何と、包帯だらけのソレイユが背後にいた。
「大丈夫じゃないけど、そんな事言ってらんないっしょ! やっぱアタシが現地で微調整しないとね」
「……わかった。時間がないから急いで!」
アナフィラキシーショックがいつまで続くかわかんないし。
「じゃあ早速いくよーん! 次元の間に広がりし洞の扉を今こそ開かん! 無限の小箱オープン!」
バリ……バリバリ……
ガパア!
かなり大きめの亀裂が空間に現れる。あとはここに収納できれば……!
「う……嘘でしょ!? 入らない! ……な、何て抵抗力なのよ! この大きさの無限の小箱でも小さいっていうの……!?」
「は、はああ!? まさか収納できないとか……言わないよね?」
「そのまさか。少し小箱内を広げるわ。あと五分はもつかな?」
「五分なら……たぶん」
「ごめん、ちょっとの間お願い」
そう言ってソレイユは空間に手をつっこみ、何かゴソゴソし始める。
「……ま、あれだけのアナフィラキシーショックを起こしてるんだから、何もできないよね……ていうか思いたい」
そのとき、念話水晶の呼出音が響いた。誰?
「はい、サーチです」
『さーちゃん、大変よ! 絶望の獣が何か変なのよ!』
え!?
急いで絶望の獣が見える位置に戻ると。
グアアアアア…………!
バキバキ、ギチュ……!
な、何あれ……?
「あ、さーちゃん! 絶望の獣の顔が、段々と身体に取り込まれているみたいなの」
「顔が取り込まれてる?」
……そういえば……真ん中の顔だけ大きくなってきてる? これって以前に、ヴィーの頭の蛇が合体したときに似て…………あ!
「ヤ、ヤバい! 絶望の獣は顔を全部合体させて巨大化し、気道を広げるつもりなんだわ!」
「えっと……つまり、さーちゃんの作戦で塞いだ気道を、広げる為に身体の構造を変えてるわけね?」
「……おそらく」
「なら、相当なエネルギーを消耗するはずだから……もう一度強力な一撃を見舞えば、再生に必要なエネルギーと相殺されて、構造変化が止まるんじゃないかしら!」
「さ………さすが院長先生! ルーデル、もう一発お願ーい!」
『はあ!? 無茶言うなよ! さっきの一撃で精一杯だよ!』
ちっ、ルーデルはガス欠か。
「先生は……」
「流石に無理よ〜。なんならさーちゃんが飛ぶ?」
いえ、≪人間飛剣≫はマジで遠慮します。
「リルは……短槍切れか。うわ、ヤバい! 何か手は……」
ここまで、ここまで来たのに……!
「サーチ姉、もうすぐ完了すると思われ」
「わかってる! わかってるんだけど……! あ゛〜〜〜、誰か何とかしてよおおおっ!」
『……わかりました』
「……ん? 今、誰かしゃべっ……」
…………ォォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!
「な、何あれ!?」
「わ、わかんない! 凄まじい波動が……」
ゴオオオオオオオ!
ズドオオオオンッ!!
「きゃあああ……!」
な、何て威力の炎……! 一体誰が……!
「さ、さーちゃん! あれ!」
え?
「ウ……ウッソオ!? 絶望の獣が半分無くなってる!?」
グチュ! グチュグチュ!
「そ、それでも再生するのかよ!? ソレイユ、もう時間が……!」
「う〜、間に合わない! 仕方ない、これはやりたくなかったけど……無限の世界、全開!!」
ビキビキ! バッカアアアアン!
ソレイユの悲鳴に似た詠唱により、さっきとは比べモノにならない亀裂が開き。
絶望の獣が堕ちていく。
『チクショウ、チクショオオオオ! モウスコシ、モウスコシデセカイヲホロボセタノニィィィ!』
『……あなたの好きにはさせませんよ』
『ダ、ダレダ! オマエガワレヲボウガイシタノカアア!!』
『私、この世界が意外と好きなんです。ですから、あなたは邪魔なんです。そのまま収納されてしまいなさい』
『クソ、クソオオオオ! カラダガイウコトヲキカナイ!!』
『……それにしても、まさか次元の間に閉じ込めるとは……あの娘さん、なかなか面白い発想をしますね』
『キサマ、ゼッタイニユルサナイ! ワレヲボウガイシタコト、ゼッタイニ、ゼッタイニコウカイサセテヤルゾ! ナヲナノレ、コノオロカモノガ!』
『……そうですね。餞として教えてあげましょう。我が名は……嘆きの竜』
『ナ……! ロ、ローレライ!? バカナ! スベテニカンシンヲモタナイオマエガ、ナゼ……』
『だから言ったじゃないですか。私は、この世界が、好きなんです』
『グ……グオオオオ……』
『……さようなら……要の狼よ』
……ォォォォ……
「よし、封印!」
ビキビキビキ……ズズウウウウン……
……し、閉まった。
ソレイユを凝視する。院長先生も、リジーも。
ソレイユは遠くを見るような目で、宙を睨み……やがて満面の笑みで。
「……やったよ。収納完了だああああ!」
「「「……よっしゃあああああああっ!!」」」
……何ごともなかったかのように澄んだ青空に、私達の勝利の雄叫びが響き渡った……。
やがて……。
「リル、やったわよ! 絶望の獣封印作戦、無事に終了! 私達の勝ちよおおおっ!!」
「う、うっしゃあああ!」
喜びの声は……。
「ヴィー、やったわ、やったわよ! 私達の大勝利よ!!」
「……!! 良かったぁぁ、本当に良かったぁぁぁぁ……」
「……なあ、サーチよ。サーシャは……逝ってしまったのか?」
「! ……うん。ごめんなさい、私を庇って……ごめんなさい……」
「いや、サーチが謝る事ではない。番を守って死んだのなら、あれも本望じゃろう」
「マーシャン……」
「それに世界を守って死ねたのじゃ。これ以上の餞はあるまい」
は、はなむけね……。マーシャンには絶対に言えない。
あちこちから響き始め……。
「リファリス、ありがとう! あなたの操作、全く危なげなかったわ!」
『あ、あったりまえでしょ……このリファ姉にお任せ……あれ……』
バタッ
「あ、あれ? リファリス?」
『シーッ、眠ってらっしゃいます』
……そこまでがんばってくれてたんだ。
「エリザもありがとう。見事に勝ったそうじゃない」
『あ、あれは……その……あなたに誉められても嬉しくありません!』
ふふっ、ツンデレ。
……だけど……。
「エイミアもお疲れ様。美徳装備を使いこなしたんだって?」
『…………サーチ』
「あ、あれ? ニーナさん? ………エイミアは……どこですか?」