第六話 ていうか、私の新しい武器登場(呪)
朝、脱ぎ散らかしていたインナーとビキニアーマーを着直し、“不殺の黒剣”と投げナイフ五本、雑用の銅のナイフの手入れをし。
同じく準備を終えたリルと寝起きの悪いエイミアの布団をひっぺがす。
嫌がるエイミアを剥いて強引に着替えさせ。
いよいよ!
「「いただきます!」」
旅館に泊まったときの第二のお楽しみ、朝食なのだ!
……え、ダンジョンに行かないのかって?
まだ開いてないんだよ。営業時間九時からなのよ。
ていうか、ホントに何でダンジョンに営業時間があるのよ……。
「しっかし今回も分が悪いわね。近距離専門の私にはキツいなあ」
「そうだな。私も≪身体弓術≫くらいしか通用しねえな」
「となるとエイミアの≪蓄電池≫頼みね」
上手く使えない箸に悪戦苦闘していたエイミアがにっこりして。
「はい、お任せください!」
くぅ〜、かわいい。あら、リルも萌えてる。そこでエイミアが「こてんっ」と小首を傾げる。あ、リルが萌え転がってる。
「サーチは≪武器投げ≫のスキルありましたよね? ブーメランとかは使えないんですか?」
ブーメランって……簡単に言ってくれるわね。
「あのねえ、エイミア。ブーメラン投げる! 敵を斬り裂く! そして手元に戻る! なんて有り得ないからね」
そんなに便利ならみんな使ってるわよ。
「そうなんですか? 昔いたじゃないですか、投げた武器で山を真っ二つにしてた冒険者」
「……今頃悪ガキ相手に奮闘してるわよ」
“飛剣”のことね。有名ですねえ、院長先生。
「手元に必ず戻ってくるブーメランって確か魔武器であるぜ」
はいっっ!?
「何それ!?」
「風属性がついてるんじゃねえか? ただ投げれば必ず当たるって物でもないから、当然腕は必要だな……てあれ? サーチは?」
「武器屋に飛んでいきましたよ」
箸を諦めてスプーンで味噌汁をすくいながらエイミアが答えた。
あった。
必ず戻ってくるブーメラン!
「いや〜、呪われているから長々と売れなくて困ってたんだ」
……なるほど……呪われてたのね。長さは短剣くらい。持ち手もあって握りやすい。刃は綺麗な赤で、いかにも呪われてるって感じ。
呪いの内容は「投げた人間に戻ってきて命を奪う。避けてもどこまでも追いかけてくる」というもの。
げ、かなりヤバい呪いじゃん……とも思えるが実は抜け道がある。受け止めてしまえば何ら問題はないのだ。おまけに投げた手にわざわざ戻ってきてくれる呪いなのだ。
武器の名前が“逆撃の刃”で通称ストーカーブーメラン。
良いことずくめに見えるけど、難点もある。一度“逆撃の刃”を使ってしまうと、使用者が死ぬかブーメランが壊れるまで捨てられないのだ。これがストーカーブーメランの由来である。
「ほんとに銀貨一枚でいいんですか?」
「おうよ。ビキニアーマーを着て歩く度胸に惚れた。男の夢をありがとよ!」
「は、はは……」
……男ってわからない……。
竜生館に戻りながら“逆撃の刃”を投げてみる。
「スゴい。マジで私の手に帰ってくる」
これは私の欠点でもある長距離攻撃の対策にもなり得る、か。面白くなってブンブン投げていると。
「あ、サーチ」
私を見つけてエイミアが駆け寄ってくる。ブーメランの軌道に。
「エイミア、危な」
すこおおおん!
「はみゃあ!?」
あら、見事にエイミアの後頭部に“逆撃の刃”があたった。
「痛い痛い痛い痛いー!」
そのまま戻ってきた“逆撃の刃”をまじまじと見る。どうやら持ち手側が当たってくれたらしい。敵味方を識別できるのかな。
「あーあ、たんこぶできたな……ププッ」
「リル! 笑わないでください!」
一応、実験。
今度は近くの木へ投げてみる。
スパアンッ!
をを! 気持ちよく斬れた! やっぱり相手を識別してるみたい。ほんとに優しい呪いだわ。
「すごいわ、このブーメラン! ちゃんとエイミアのことわかって持ち手を当てたんだわ!」
「わ、私だってわかってるんなら避けてください!」
……確かに。
「リルありがと。おかげで私も長距離攻撃がなんとかなりそう」
「まあいいけど……サーチって呪い好きなのか?」
そういうわけじゃないんだけど……。
「そのうちビキニアーマーも呪いのにするんですか?」
「……いや、ないでしょ」
「わかりませんよ〜。胸が小さくなる呪いとかあるひゃもいひゃいいひゃい!」
「あ・ん・た・って子はああ!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「……勝手にやってろ」