第十二話 ていうか、みんなの力が結集して、ついに私の作戦が発動する!
「何であんたが三冠の魔狼に選定されてるのよ!?」
『は? 選定? 俺は自分の意思で三冠の魔狼になったんだぞ!』
立候補かよ! ていうか自分の意思でなれるモノなのかよ!
『お、おおお? これが心の声ってヤツか。よく聞こえるぜ「どすっ」ふぎゃひぃ!』
「人の心の声を覗き見するな!」
『て、てめえ! 折角助けに来てやったのに、鼻先に短剣刺してんじゃねえよ!』
「あら? 爪と肉の間がよかったのかしら?」
『深爪は止めろおおおおおおおお!』
……しばらくギャアギャアと言い争いをしてから、話がおもいっきり脱線してることに気がついた。
「たく、肝心な話の途中だってのを忘れかけてたわ……! 何であんたが三冠の魔狼になってんのよ!」
『何でって……お前の為に決まってんだろ』
そう、私のために…………って、はあああああっ!?
「何よ、どういうことよ!?」
『……まあ何て言ったらいいか……俺さ、お前の助けが全然できてなかったんだよ』
「私への助けって……別に私は」
『そんなの望んでないって言いたいんだろ? わかってるさ、これはただの自己満足に過ぎないって』
「…………」
『だけどさ、好きな女の子が命を懸けて戦ってるってのに、男の俺が何もせずに見てるだけなんて……もう嫌なんだよ!』
「……ルーデル……」
『で、魔王に援軍を依頼されて、早速駆けつけた時も』
……ああ、某芸人みたいに私の名前を連呼してたときね。
『戦いの号令をかけようとした途端、何故か身動きが取れなくなって、勝手に身体が動き出して……』
………リファリスの≪女王の憂鬱≫か。
『俺が指揮するよりも統率がとれててさ、見事な指揮でモンスターを粉砕してさ………。俺、マジで自信がなくなったよ……』
……いろんな意味でごめんなさい。
『そんなこんなで魔王の転移で故郷に戻って、出家して僧になろうかな〜って考えた時……』
マジですまなんだ! リファリスを焚き付けたの、私だし。
『サーシャさんに声を掛けられたんだ。「汝、力が欲しくないか」って』
サーシャが?
『身代わり人形を依り代としている俺なら、すぐにでも三冠の魔狼になれるって』
……あ、そういうことか! ルーデルの身体は、身代わり人形が元になって構成されてるんだった!
『一度身代わり人形に乗り移った経験のある俺なら、三冠の魔狼の身体への親和性も高いはずだ、って』
「そ、そうかもしれないけど! あくまで可能性が高いだけであって、100%じゃないのよ! ヘタしたら死ぬ可能性もあったのよ!」
『んな事はわかってるさ! けどな……お前を助けられるなら、自分の命を懸けるくらいどうって事ねえよ!』
「!! ………もう。バカなんだから……」
『何言ってんだよ。お前の方がよっぽど修羅場潜ってんだろが』
……確かに。
「……わかった。ルーデル、力を貸して! もう一度絶望の獣に深手を負わせてほしいの!」
『わかった! サーシャさんから大体の事は聞いてる。さっきと同じ場所でいいんだな?』
「ええ、お願い……っていうか、いつの間にサーシャとそこまで打ち合わせを?」
『あ? さっきだよ。何か「時間が止まった空間」ってヤツに連れ込まれてよ』
「へ、へ〜……」
『何故かそのまま二時間くらい待ちぼうけ食わされて……って、そういえば、女の妙な声が響いてたような……』
あ、あのとき私の近くにいたのかよ!
『……そういえばサーチの声に「忘れなさい」は? 何でだ「忘れなさい」……お前、何を必死に「忘れなさい」……こ、怖いって「忘れなさい」は、はい……』
……サーシャのヤツ、一発ぶん殴ってやればよかった……。
「は、話が逸れたけど、さっきと同じ作戦でいくわよ!」
『おうっ!』
念話水晶で再びリルを呼び出す。
『……サーチか、どうだった?』
「ごめん、もう一発いける?」
『も、もう一発か!? すまん、さっきの反撃で短槍を全部落としちまったんだ!』
「えええ!?」
『……あ、待て。もう一本ある。どっかから飛んできた謎の短槍が』
……ああ、あれね。
「それでいいから、今度は鼻先にでもぶち込んでやって!」
『わかった! すぐに射つぜ!』
……よし、あとは院長先生に。
「先生、リルが短槍をぶち込んだ瞬間に一発お願いします! できれば右側から、真ん中の顔をブッ飛ばしてください!」
「わかったわよ〜! リジーちゃんも覚悟はいい?」
「……………………はい」
……リジー……死して屍、拾う者あるからね。
「で、最後にルーデル。ブッ飛ばされて左側を向いてる隙に……」
『抉るんだな。任せとけ!』
え、抉るんだけど……。ストレートに言われると、少しだけ絶望の獣が可哀想に思える。
そして。
「よし、風向き、方角、全てよし! 食らいやがれ、絶望の獣!」
バシュン!
仲間達の。
『エイミア、リルの矢が来ます。結界の一部解除を!』
「はい!」
思いが。
「よし、今度こそ封印するのじゃ!」
「タイミングを合わせて……せーの!」
『フルパワーでいっくよおおっ!』
連係が。
ドスゥ!
ギャアアアアアア!
「当たった!」
「光線は……不発ですね。では行きますよ。飛んでけリジーちゃん! ≪人間飛剣≫!!」
ぶおんっ!
「あひゃあぁあぁあぁあぁぁぁぁ……」
全てが集結し。
「……エリザ、水を頂戴」
「はい、どうぞ」
「……ここからが正念場ね。必ずさーちゃんを無事に帰す!」
……奇跡を起こす。
ギュルルル……ドゴオッ!
ギィエア!?
「クリーンヒット! 狙い通りに仰け反った! 今よルーデル!」
『おおっ! いくぜ、最終奥義≪暴狼発動≫!!』
ズボオッ!
ギュルルル!!
よし、抉ってる抉ってる。あまりの苦痛に絶望の獣の視線がルーデルに注がれる。今だ!
「これで……終わりよ!」
がぶっ!
どくどくどくっ!
必要なだけの毒を流し込んでから、私は離脱した。さっきの二の舞は御免だし。
『サーチ!』
「ルーデル、全てうまくいったわ。あとは待てばいい」
『待てばいいって……体内に毒でも流し込んだのか?』
「毒じゃないわ。絶望の獣には毒なんだけどね」
『はあ?』
荒れ狂っていた絶望の獣は、やがて動きが鈍りだし。それぞれの顔が苦しそうに口を開け、泡を吹いてもがいていた。
これが私が何回も噛みついて流し込んだ布石。この世界ではあまり知られていない毒。
私が流し込んだのは、小麦・蕎麦・甲殻類・蜂の毒などの有名どころのアレルゲン。ちゃんと二回にわけて注入し、特に反応が激しかったのが甲殻類と蜂の毒だった。それをさらに濃縮した強烈なヤツを今回流し込んでやったのだ。
「ソレイユ、今なら弱ってる+足が止まってるわ! 封印するチャンスよ!」
そう。絶望の獣は、アナフィラキシーショックを起こしているのだ。
ファンタジーにアレルギーを持ち込んでみた。