第十一話 ていうか、最終決戦! サーチの渾身の一撃が決まったが、代償はあまりに大きかった……けど、何で三冠の魔狼いるの!?
『早く離脱しろっ!』
……くっ! あと少しだったのに!
急速に回復してきた絶望の獣の皮膚に押し出される形で、傷口から離脱することになった。お願い、効いて! これで効果が出てくれれば、みんなが救われる!
グギャアア!
『危ない! 避けろぉ!』
……え?
スローモーションで私に迫ってくる、絶望の獣の牙。しまった、間に合わない……!
『させるかああああっ!!』
ズドムッ!
『ぐはあああっ!?』
……この衝撃で、私の意識は暗転した。
――番よ。
………。
――番よ。
……んぅ……。
――これ、番よ。起きぬか。
……ん〜……起きぬきぬきぬおキヌちゃん……すぅ……。
――実力行使。
がぶぅ!
いってええええ!! な、何すんのよ!
――やっと起きたか、番よ。
……夢……かしら? なぜか私の前に、超絶美形の細マッチョが立ってるんですけど。もろ私の好みストライクなんですけど。
――お初にお目にかかるな、この姿では。私が先代の勇者にして、マーシャの夫であるサーシャだ。
マジか。マーシャンのヤツ、意外と面食いだったのね。……ていうかマーシャンの旦那さん? なら……あんた三冠の魔狼!?
――そうだ。だから「この姿では、お初にお目にかかる」と言ったであろうが。
……確かに。
――今、私達がいるのは冥府……の入口辺りになる。
冥府の入口? ってことは、私達死んじゃったの!?
――いや、死んだのは私だけだ。番は気絶しているに過ぎぬ。
そうか、気絶しているに過ぎない……って戦いの途中で!? マジでヤバい! 早く目覚めないと!
――少し待て。この空間は時が止まっている。あと二時間程度は問題ない。
時間が止まってる? 無限の小箱と同じ理屈?
――そう思ってくれ。理屈はややこしい。
……まあいいんだけどね。で、あんただけ死んだってのは?
――はっきりと言ってしまえば、番が絶望の獣に食われそうになったのを庇い、代わりにバッキバキのグッチョグチョに噛み砕かれて死んだ。
マジで!? ていうかそこまで具体的に言うなよ! 罪悪感ハンパないよ!
――いやなに。少しでも罪悪感を植え付けようと、かなりリアルに伝えたまでだ。
………っ……あんた、絶対にSよね……。
――えす?
何でもない。だけど……ホントにごめんなさい。私がドジったばっかりに……。
――気にするな。多少噛み砕かれて、痛くて苦しくて辛くて、本気で死にたいと百回くらい願った程度の事だ。
…………あんた、絶対に根に持ってるわよね……。
――当たり前だ。一番死にたくない方法の一つを、嫌という程に味わう羽目になったのだからな!
ご、ごめんなさい……。
――本当に悪いと思っているのか?
当たり前じゃない! 私の代わりに命を落とした相手に、罪悪感を抱かないわけないじゃない!
――ならば、最後に私の願いを聞いてくれるか?
……まあ……大体のことは……OKかな。
――ならば番らしい事をさせてもらう。
番らしいこと?
――健全な男女の営みだ。
え!? ちょっとそれはむぐぅ!?
……速攻で唇を塞がれた私は、そのまま押し倒された。細マッチョって、意外と力が強いのね……ちくしょう。
………。
――礼を言うぞ、番よ。
………。
――これで思い残す事はない。
………。
――ん? どうした?
……………良かった。
――は?
いいいやいや、何でもない何でもない!
――? ……まあ、別にいいが……。
ていうかさ、あんたナニをしてくれるのよ! 世間一般で言うところのゴーカンよゴーカン!
――何を言うか。あれだけ善がっていた癖にぃうわ、危ないぞ! いきなり剣を向けるでないわ!
……余計なこと言ったらぶった斬るわよ。
――す、すいません。
たく……。
――そう怒るな。私にとっては、何よりの餞となった。
はなむけって……もうこの世にはいられないの?
――皆まで言うな。
そう……。
――但し、三冠の魔狼は地獄門の門番として、絶対に必要な存在。故に再び選定されて現れる。
選定?
――どのような理屈で選定されるかは知らぬ。この世界の住人の誰か、としか言いようがない。
……まあいいわ。まだ先の話なんでしょ?
――いや、もう来ておる。
………はい?
だから、もうここに現れて、絶望の獣と戦っている。
……はあああああっ!?
「……う……」
「あ、気が付いたみたい」
「さーちゃん! さーちゃん、起きて!」
「……ん〜……起きてから大きい手で掟を破る……くぅ」
「……実力行使」
ずびしぃ!
「いてえええっ! な、何すんのよ……って院長先生?」
「院長先生? じゃありません! まだ戦いの途中ですよ?」
………あ、そうだ!
「ケ、三冠の魔狼は!?」
「それがよくわからない。絶望の獣に食われたと思ったら、突然他の場所から現れた」
ゆ、夢じゃなかったんだ。じゃ、じゃあホントに三冠の魔狼は……サーシャは……死んだのね。
「いい勝負をしているけど、あのままだと時間の問題ね〜。ジリジリと押され始めてるわよ〜」
……あ、そうだ! 毒の効果は!?
「ディ、絶望の獣の様子は!? 動きが鈍ったりしてない!?」
「え、動き? ……格別鈍ったようには見えないと思われ」
「さーちゃん、あなたが噛み付いた直後は少し苦しそうだったのよ。だけど、すぐに立ち直った感じだったわね」
少し苦しそうだった……か。なら、効果はある。しかも二度目の方がもっと効き目がある!
「院長先生、リジー。もう一度噛みつけば絶望の獣に決定的な足止めができる。だから力を貸して!」
「……わかったわ。もう一度光線を放つように仕向ければいいのね?」
「はい」
「ならリジーちゃん、もう一度お願いできるかしら?」
「ひえっ!?」
あ、リジーもやっぱり投げられたのか。
「…………………………わかった」
「うん、こっちは何時でもいけるわよ」
よし、あとは……。
「新・三冠の魔狼の協力が得られれば……」
「「……新?」」
そのとき、私の近くに新・三冠の魔狼が吹っ飛んできた。ナイスタイミーング!
「ちょっと、私の声が聞こえたら返事して」
ガルルルル……
……興奮してるか。会話できないかな?
「ほーらワンちゃん、よしよし」
「バカリジー! 火に油を注いでどうするのよ!」
『誰がワンちゃんだ、バッカヤロー!』
………あ、返事があった。リジー、ファインプレー。
「あ、えっと……私と会話しませんか?」
『何を堅っ苦しい事を言ってんだ。普通に話せよ、サーチ』
は……?
「わ、私のことを知ってるの?」
『あ、こんな姿だとわかんねえか。俺だよ、ルーデルだよ』
ル………ルーデルぅぅぅ!?
ついにルーデルの時代が!?