第八話 ていうか、最終決戦! さあ、いよいよラスボス戦です………よね?
ビキッ! バキバキ……
「そ、空に亀裂が……!」
「いけない! 虚空神殿内に張られていた空間干渉聖術が破れかかってます……! 皆伏せて下さい!」
ヴィーの忠告に従って、全員が地面に張りつく。
「一体、な、何が「あんたも急ぎなさい!」 んきゅ!」
立ったままだったエリザを、ムリヤリ引き倒す。そのときに顔から地面に突っ伏したけど、私的には軽くスルーでいいと思う。
バリィィィィン!
やがて、大量のガラスを一気に叩き割ったような轟音が響き、強力な爆風が熱を伴って私達の背中を通過する。
しばらくして爆風がおさまり、周りに警戒しながら立ち上がると……。
「……な、何ですか、あれ……」
半壊しながらもギリギリ宙に浮く虚空神殿の向こう側を見ながら、ヴィーは震えていた。
そこにいたのは、全長30mはあろうかという、巨大な狼。だけど正面に三つの頭を持ち、四本の尻尾の先にも狼の顔がある。
正面は右側から寝顔、無表情、牙を剥きヨダレをダラダラ垂らす顔が並ぶ。尻尾の先の顔も、それぞれに特徴を持っていた。やはり大罪の象徴なのだろう。
狼達の顔が一斉に吠えた。その途端に、青かった空が真っ赤に染まっていく。
―――ナゼダ、ナゼコウナッテシマッタ。ワレガノゾンダノハ、ゼツボウニソマッタニンゲンノカオヲミルコトダッタノニ。
―――ダガ、ソレモカナワヌ。モウスグワレハ、ワレデアッタコトモワスレル。アノオンナガジャマシタセイデ。
―――モハヤ、ワレハシラヌ。ワレヲボウソウサセタシリヌグイ、オマエタチガシロ。ゼツボウニウチフルエ、セカイノオワリヲミトドケルガイイ……………………ガ、ガアアアアア!!
途切れ途切れの念話が止むと同時に、絶望の獣は。
ガアアアアアアアアアア!!
ゴオッ! ズドオオオオン!!
……滅びを開始した。
「シャ、シャレになんない! 何よ、あの破壊力は!?」
絶望の獣が放った光線は、たった一発で近くの島を蒸発させた。無人島とはいえ、かなり大きい島だったわよ……!
「おい、このままだと、あっという間に世界が吹っ飛ぶぞ!」
「わかってるわよ! 一体どうすれば……」
「……ふむ、ならば妾があの光線を封じてみよう」
マーシャン!?
「そ、そんなことが可能なの!?」
「多分な。しかし妾だけでは無理じゃ。ヴィー、力を借りるぞ」
「わ、わかりました!」
「これ、聞いておるならお主を力を貸せよ、ソレイユよ」
『……そうね。アタシが遠隔でフォローするから、メインはサーシャ・マーシャがお願いね』
「無論じゃ。ではサーチ、後は頼む」
そう言ってマーシャンは座り込み、術の詠唱を開始した。
「サーチ……」
ヴィーは私の手を取って、軽く口付け。
「……死なないで」
そう言って身を翻し、マーシャンの元へ向かった。
「わかってるわよ、ヴィー……」
『サーチ、聞こえますか、サーチ!』
ん? この声は……グレートエイミア?
「はい、サーチだけど……ってあれ? グレートエイミアじゃなくなってる?」
『詳しい説明は後です! 私はニーナさんと先程の光線で撃ち抜かれた結界を、再び張り直します。マーシャン達が光線を封じてくれれば、絶望の獣をこの場から逃がさない檻になるはずです!』
あ、そうね。あの巨体でも、逃げ回られたらどうしようもない。
「わかったわ、結界をお願い。あとは私達が何とかする」
『お願いします………サーチ』
「ん?」
『また、一緒に……冒険しましょうね?』
「あったり前じゃない! この件が終わったら、全世界温泉巡りに行くんだからね!」
『サ、サーチらしいですね……では御武運を!』
………とは言ったモノの……。
「……どうやってあの巨体に近づけば?」
「それはあたしが担当するわ」
「え? リファリスが?」
「あたしの軍勢スキル≪女王の憂鬱≫で、さーちゃん達を糸で吊り下げて、宙に浮かせるよ」
「宙に浮かせるって……」
「さーちゃん達の考えを糸を通じて読み取るから、その通りに誘導してあげるよ。どう?」
「……それしかないわね。リファリス、お願い」
「よぅーし。ばっちこーい! あ、エリザ。あたしはさーちゃん達を操作してる間は……」
「完全に無防備なのですね。お任せ下さい、私が必ずリファリス様を守り抜きます」
「任せたわよ。あたしの背後は任せた」
「え!? ……は、はい!」
リファリスが背後を任せるって……私でも言われたことないわよ。
「じゃあリファリスとエリザ、よろしくね!」
「任せときなさい!」
「サーチ様……どうか御武運を」
あと必要なのは……私が絶望の獣に密着する際の援護かな。
「リル、私の援護をお願いできない?」
「よし、なら私とリジーでお前について行って……」
「ちょっと待って」
「な、何だ?」
「今回は遠距離からの援護射撃をお願いしたいのよ」
「え、遠距離? 弓か?」
「そう。私達の中で遠距離射撃ができるのって、リルだけなのよ」
「……わかった。なら私はこの辺りで射撃する。ただ」
「? 何よ」
「……死ぬなよ」
「わかってるわよ!」
リルは親指を立てると、近くの岩場を登っていった。
「……リジー、それと院長先生。一番危険なことをお願いしますけど……いいですか?」
「私達であの絶望の獣の気を逸らせばいいのかな?」
ワ、ワンちゃんって……。
「そ、そうなんですけど……大丈夫ですか?」
「全然大丈夫よ〜。敵の撹乱は私の一番得意な分野だから〜」
「そ、そうなの?」
「元々私のパーティでの役割は、斥候だったから〜」
「……先生の職業って?」
「飛剣士よ。アサシンとレンジャーの中間くらいの職業かな〜」
……なるほど。なら≪気配遮断≫や≪隠蔽≫なんかもできるのか。
「それにリジーちゃんだっけ? あの子を貸してもらえれば更に撹乱度アーップよ」
……は、はあ……。
「わかった。私、ヒルダさんと一緒にサーチ姉を援護する」
「……ありがとう、リジー、院長先生。ただ、一番危険な役回りってことを」
「わかってるわ。私はこんなとこで死ぬわけにはいかないのよ〜」
「以下同文」
「……OK。なら……」
リファリスを見て頷く。それを見たリファリスが頷き、≪女王の憂鬱≫を起動させる。
ふわ……
「あ、浮いた」
手足を糸で絡め取られてる感じだけど、リファリスの言っていた通りだ。自分が考える通りに手足が動かせる。これなら大丈夫だろう。
「リジー、院長先生! 行くわよ!」
「「おう!」」