第六話 ていうか、最終決戦! その六、エリザvs強欲《グリード》
いよいよ、私の将来を賭けた大博打が始まる。
『……で、私の相手はあなただけって事? 随分と甘く見られたモノね……』
目の前の敵……強欲は、フゥッとため息をつくと。
ブアア……ン
額の前に黒い魔力球を作り出した。
『私ね、あなたみたいな娘は好きよ。だけどね、自分の実力を過信して挑んでくる愚か者は……大っ嫌いなのよ』
「……そうですか」
『だから、苦しまないように……一瞬で楽にしてあげる!』
ズギュン!
大砲を放つような音を響かせながら、私に向かって魔力球が迫ってくる。自分の首にかかる盾のアクセサリに魔力を送り……。
グゥン! ズン!
三枚のタワーシールドに戻す。
『な!?』
「三盾流! 流動の舞!」
ズゴン! ギャルルル……
す、凄い威力! このままだと耐えきれないかもしれない……が!
「はああああっ!」
ギャルルルリリリィ! ギュオン!
ヒュゥゥ……ズドオオン……
「……受け切れないのなら、逸らしてしまえば良い。タワーシールドの丸みは、攻撃を受け流す為のモノ。私の盾を突破するのは至難の技と心得なさい」
『…………クク……アッハッハッハ! これは失礼しました。甘く見ていたのは私の方だったわけだ。謝るわ、あなたは私と戦うに相応しい淑女だと認めます』
「……ありがとうございます。ですが、私は主からのお褒めの言葉以外は、雑音と同じ価値しかございませんので、悪しからず」
『んん〜……! 久々にゾクッと来たわ。私はあなたが欲しい。私の強欲が、あなたを求め始めたのよぉ……!』
「……ありがたいお言葉ですが、私の主人はリファリス様、ただ御一人。それ以外の方には死んでもお仕えする気にはなりません」
『ああ……! 更にゾクッと来たわ! 手に入らないとわかっているモノ程、私は求めて止まないのよぉ……! いいわ、あなたの意志なんて関係ない。絶対に、絶対に私のモノにしてやるわあああ!』
「……できるモノならやってみなさい。ウチの盾、突破してみせろやぁ!」
タワーシールドの一枚を背負い、両手に一枚ずつ持って構える。
『いいわ! その盾、私の牙で噛み砕いてやる!』
強欲が牙を剥いて私に迫ってくる。
「……負けない! 絶対に負けられない!」
私も構えたまま走り出し、右のタワーシールドを前に出した。
ガギ!
強欲の牙が私の盾を捉える。
ギギギギギ……!
な、何て力……! このままだと……!
「くぅ……シールドバッシュ!」
ばいんっ!
『くけっ!? ……あ、あはは。まさかタワーシールドでシールドバッシュしてくるとはね……。重量もあるから、威力は中々……だが』
強欲はニィィ……と、不気味な笑みを浮かべる。
『他に武器がない以上、シールドバッシュが最大の攻撃手段のはず。それで私に決定的なダメージを与えられない以上は……あなたの勝ちは薄いわね?』
ちぃ、もうバレたんかいな!
『ならば徹底的に防御に徹し、私のスタミナが切れるのを待つ……ってところかしら? でも私の攻撃で盾に傷が入ったみたいだけど……そのタワーシールド、いつまで耐えられるかしらね?』
……読まれてる……だけど。
「だから何? さっき言ったはずです。私をモノにしたければ、まずは私の盾を突破しなさい、と!」
再び構えてから。
「そういう寝言は私の盾を全て砕いてから言いなさい!」
見栄を切る。
『……あはははは! 精一杯の強がりなのか、何か裏があるのかは知らないけど……いいわ! 付き合ってあげるわよおおお!』
再び私に躍りかかってくる強欲。よし、とりあえず挑発には乗ってくれた。後は……耐えるのみ。
『ほぅら! ほらほらほら! ほぅら……らららららあっ!!』
ギィン! ガンゴンバイン! ガリ……ガリリリリリリ!!
「さ、三盾流、流動連鎖ぁ!」
『あははは……大したテクニックだよ! ちゃんと攻撃が当たる瞬間に、威力をうまく逃がしてるねえ! 確かにその戦い方なら、猪突猛進の暴食くらいなら追い込めたかもな! だが……』
ズド! ザクゥ!
「うぐっ! た、盾を貫通して……!」
『……私には……通用しないんだよおおおっ!』
わ、脇腹を掠めた……!
「くっ……があっ!」
ばぎぃ!
『ぎゃあ!』
盾に前足を突き刺している格好になった強欲を、もう片方のタワーシールドで殴り飛ばす。まだ突き刺ったままの右前足を、盾を支点にして、テコの要領で関節を極める。
『あがああああっ! いだいいだいいだいいい!』
「三盾流、腕ひしぎ……はいっ!」
メキィ!
『ぎゃあああああああああああっ!』
反対方向へ関節が曲がった強欲の右前足を離し、一旦距離をとる。
「イタタ……傷は深くないみたいね。とりあえず薬草で応急処置を……」
傷付いた脇腹の上に薬草を塗布し、スカートを千切って巻き、止血をする。
『ぐぅぅぅ……! た、大したモノだ……! まさか私の腕を折るとは……!』
「私は三盾流の継承者です。盾を貫かれた時の対処法も、当然考えています」
『ふ、ふふふ……面白い! ここまで私を手こずらせるとは思わなかったわ。さあ、戦いはこれからよ!』
「ええ! 私は負けません!」
そう言って私達は再び戦闘状態に入った。
「……はは……あはは……あはははは!」
『はあ……はあ……どうしたのかしら? ついに頭のネジが吹っ飛んだ?』
「失礼ですね……いえね、私だけでもあなたのような強敵と戦えるのだな、と思いまして」
『何言ってんのさ。あんたは十分に一人でも強いよ』
私は……一人でも強い。
「……少しはリファリスに近づけたのでしょうか」
『あんたみたいな強者に慕われている主人は、本当に幸せ者だよ……。だからこそ、私はあんたが欲しい!』
「何度も言いますが、私はあなたに仕えるつもりは更々ありません!」
『いいさ。勝って、無理矢理にでも従わせる』
「やれるモノなら……やってみなさい!」
折れた前足を引き摺りながら、強欲は駆け出した。
『やってやるさ。私の最大の技でな!』
強欲の額に黒い魔力球が浮かび、それが強欲自身を包んでいく。
『いくぜえええ! 最大奥義≪暴狼発動≫!』
魔力球を全身に纏っての突進技! まともに食らえば命はない……!
「三盾流、流動の舞!」
『この技を……受け流せるわけないだろおおおおおお!!』
バキャアアン!!
防御に使ったタワーシールドが粉々に砕け散る。
『な!? い、いない!?』
「……三盾流、流動の舞……」
盾を犠牲にして、私は空高く跳び。
「……変化技、天槌」
ザクザクッ!
二枚の盾の先端を、強欲の身体に突き立てた。
『……あはは……負けちゃった』
「……とても、良い勝負でした」
『ふふ……そう言ってもらえれば、私も……生きた意味があっ…………た……………くふっ』
……果てましたか。
「……どうか、あなたの魂が、良い来世となりますように……」
……リファリス様……勝ちましたが……あなたの隣に並び立つには、まだまだみたいです。