第五話 ていうか、最終決戦! その五、グレートエイミア&ヴィーvs怠惰《スロウス》
「超変身、グレィィィィトエイミア! とおっ! たあっ!」
……ウザい。
言ってはならないのはわかっているんです。わかっているんですが……ウザいです。サーチがずっとグレートエイミアの事を「何もいない。私には見えない」と呟きながら無視していた気持ち、今は痛い程わかります。
「グ、グレートエイミア。そろそろ戦いを開始しませんと……対戦相手の怠惰は待ちくたびれて、さっさと寝てしまいましたよ」
試しに≪石化魔眼≫で睨んでみましたが、全く効果はありませんでした……さすが大罪の一角。
「わかってはいます。ですが、こう、うまく変身ポーズが決まらないと……」
………。
「……あのですね。今は変身ポーズなんかよりも、もっと大切な事があるのですよ? そこはわかってますか?」
「な、なんか!? 変身ポーズなんか!? ………ガーーーーン……」
……何を自分で「ガーーーーン」って言ってるのでしょうか。
「……いいもん、いいもん。どうせ私の変身ポーズはダサいもん……」
今度は拗ねるのですか! 子供ですか、あなたは!?
「拗ねている暇はありません。早く怠惰を倒しますよ?」
「もうどうでもいいもーん。『変身ポーズなんか』なんて言うヴィーの言うことなんか、絶対に聞いてあげないんだもーん」
……イライラ。
「……そんな事言わずに、ほら」
「……ヴィーが謝ってくれたら……」
……イライライライラ。
「はいはい、申し訳ありませんでした。ほら、戦いましょう」
「よおおし! ならば、変身ポーズが完成してから開戦だあ!」
……………まだ我慢しなくちゃならないのでしょうか。
「さあ、私が格好良く戦う為にも、変身ポーズの開発にヴィーも協力して」
ぶちぃ
「いい加減にして下さい! 今は変身ポーズよりも何百倍も重要な事があるのだと、何回言ったらわかるのですか!」
「ヴィ、ヴィー?」
「あなたの余計な拘りが! 意味のない正義への固執が! 私達にどれだけの負担になっていると思っているのですか!」
「意味のない正義への固執ですって!? あなたは、私をどこまで愚弄するのですか……!」
「エイミア! 聞こえているのでしょう、エイミア!!」
「わ、私はエイミアではなくグレート「あなたは黙っていなさい!」……す、すみません……」
「エイミア! 聞こえているでしょうから、ここで言わせて頂きます! あなたのサーチへの想いはそんなモノですか!」
私の声はエイミアに届いているらしく、肩をピクリと動かした。
「あなたはサーチの恩に報いるという理由以上に、サーチと共に生きたい理由があったのではないのですか!!」
「わ、私は……」
「このままあなたがグレートエイミアに押し込まれたままでは、間違いなく私達は負けます! それは即ち、サーチの死を意味するのですよ!!」
「……サーチが……死ぬ……? ……だ……嫌だ……! サーチが死ぬなんて、絶対に嫌だ!」
グレートエイミアの周りを、微かに静電気が音を立てています。これは……!
「ならばエイミア! グレートエイミアに打ち勝ちなさい! その身体を自由に動かしなさい! そうすれば、サーチを助ける事は勿論、世界を救う事だって容易です!」
「……私が……サーチを……助ける!」
「そうです、エイミア! あなたならできます! あなたは……あなたは…………私が唯一認めた恋敵なんですからっ!!」
「ぐ……ぬ……ううぅぅぅ!!」
……私は言いたい事は、全て言いました。ですから、後は……エイミア自身の問題です。
「エイミア、私は戦います。例え、一人でも。サーチの為に……必ず勝ちます!」
そう言って杖を取り出すと、寝転がる怠惰目掛けて聖術を放ちました。
「……はあ、はあ、はあ……」
『……我が眠りを妨げし蛇よ、ここまで我と対等に渡り合った事、素直に称賛しよう』
……対等に……ですって?
すでに私のMPは切れ、杖も折れ。蛇達も半分以上が千切り取られ、左腕も折れている。それに引き換え、怠惰は数ヶ所から血を流しているモノの、ほとんど軽傷だ。どちらに分があるのか、誰でも一目瞭然です。
『しかし相手が悪かったな。嫉妬辺りなら良い勝負だったやもしれぬが……』
怠惰は油断なく構え。
『……我は旧大罪の中では、最強だったのだ』
……私に迫った。喉に牙が突き刺さるのがわかる。申し訳ありません、サーチ……。死ぬな、という約束、守れそうにありません……。
ドゴ!
『うごっ!? な、何奴だ!』
少しだけ切れた喉元を押さえ、見上げると……。
「今まですみませんでした、ヴィー。もう……大丈夫です」
そこには、以前のようなケバケバしいピンクやハートの装飾のない、黄金に輝く美徳戦士の姿があった。
「エ、エイミア……!」
「ヴィー、あなたの言葉、しっかり私の心に刻みました。もう下らない正義に振り回されたりしません!」
エイミアが……グレートエイミアに打ち勝った!
「ヴィー、ありがとうございました。後は私が引き受けますので、まずはご自分の身体を回復して下さい」
「私が引き受けるって……まさか一人で戦うつもりですか!? 無茶ですよ!」
「大丈夫です……。私は今、完全に美徳の力を制御しています。この状態なら……負ける事はあり得ません!」
さっきまでの不安定さが、まるで感じられない……。エイミアの言っている事は、揺るぎない確信の上の言葉です!
「わかりました! どうか御武運を!」
そう言ってから私は、怠惰に気を付けながら、戦いの場から離脱し始めた。
『そう警戒せずとも我は、正々堂々と戦った相手に、背後から奇襲をかけるような外道ではない』
「ぅ……そ、そうですか。それは失礼しました」
『さて……美徳の化身よ、我が相手だ。倒したくば全力で向かって来るが良い!』
「もう……慢心も油断もありません。全身全霊を込めて、あなたを倒す!」
『うおおおおっ!』
「はああああっ!」
激しいぶつかり合いが始まり、凄まじい衝撃波が辺りの地形を変える。
「くうう……!」
全身の痛みに耐えながら、必死に魔力障壁を張って、衝撃波から身を守った。
しばらくその状態が続いていましたが、不意に衝撃波が止み。
『……我の敵う相手ではなかった。が……満足なり………………』
怠惰が崩れ落ち、息耐えました。そして……。
「ヴィー、終わりましたよ」
エイミアが静かに降り立った。
「お帰りなさい、と言うべきでしょうか、エイミア」
「なら……ただいま、ですね」
そう言って悪戯っぽく笑う。ああ、元のエイミアだ。
「それよりヴィー。一つ話しておきたい事があります」
「? ……何ですか?」
「もう躊躇いません。私は、サーチの事が好きです」
「! ……一皮剥けましたね、エイミア」
「だから、ヴィー……負けませんからね」
「……私も、負けませんよ」
そう言って、握手した。この瞬間から、エイミアは私の親友になりました。