第三話 ていうか、最終決戦! その三、リル・リジー連合vs嫉妬《エンヴィー》
「……おい、大丈夫かリジー」
「……何が?」
「いつになく緊張してるみたいだからな。油断するよりはマシだけどよ、肩の力は抜いていけよ?」
そう言われてハッとしたリジーは、腕をぐるぐる回したりして緊張をほぐしていた。まあムリもねえけどな。私だって正直に言えば、このプレッシャーはキツいのだ。
『……逃げたければ、逃げてもいいぞ。背後から斬り裂いてやれるから、楽に死ねる』
ヤだよ。まだ死にたくねえから戦うんだろうが。
「そちらこそ、逃げてもいいですぞ。そうすれば私達も全力で逃げぶぎゅ」
「リジー……お前は何を言ってるんだ?」
「……リル姉も緊張し過ぎ。いつもならこれくらいの冗談を、真正面から受け取ったりしない」
「う……そ、そうか?」
やべえな……私も肩の力を抜かないと。ぐるぐる回して筋肉をほぐした。
『……おい、お前ら』
「な、何だ?」
『二人して何故肩をぐるぐる回しているのだ? 鬱陶しいのだが』
「…………」
「…………」
……私から適当に言っておくからな。
「獣人独自の戦いの儀式だ」
『…………そうか。程々にしておいてくれ』
嫉妬はそう言うと、再び前進を始めた。こいつ、意外とバカらしい。
私とリジーの対戦相手は嫉妬。見た目は巨大な狼で威圧感がハンパないが、全身から発せられる瘴気がさらにハンパない。マーシャンやグレートエイミアは悠然と相手を伴って移動していたけど……あいつらは平気だったのかな。
は? サーチは心配しないのかって? あいつは頭のネジが緩んでるから大丈夫だよ。
『……この辺りならば邪魔は入るまい。障害となる草木も無い故、どれだけでも駆けられるな』
嫉妬に連れられて着いた場所は、森から少し外れた岩場だった。
「……つーか、どんだけ広いんだよ、ここ……」
『虚空神殿内は、空間が歪めてあるらしいからな。外観と内側の広さが釣り合わんだろうさ。どのような魔術を施してあるのかは知らぬが』
「私にもさっぱりわかんねえな。聞きたけりゃ作った魔王に聞けよ」
『そうだな。我より魔王の方が知識を持っているのは忌々しいが……お前達を血祭りにあげてから、聞き出すとしようか』
おっかねえな!
「そう簡単に私達を倒せると思うなよ。窮鼠猫を噛むって言うがな、ネズミが猫を食らうことだって、あり得ないわけじゃないんだぜ?」
「……嫉妬に特大の呪いがあらんことを」
『ふん、呪い頼みとは……お前達の底が知れるな。では始めようか』
……辺り一体は岩だらけとはいえ、障害物がほとんどない平地。地形を利用して戦うのは難しいな。なら……。
「リジー。また盾役を頼めるか?」
「承って候」
……たまにリジーの言うことは意味不明だ。
「それとな……例のあれ、うまくいきそうか?」
「心配御無用。すでに現在進行形」
「現在進行形ってことは……無効にならなかったのか?」
「そのとおおおぉぉり!」
……何も言うまい。
「わかった。じゃあフォーメーションFFでいくぜ!」
「了解!」
さあ……うまくいってくれよ?
『ガアアア!!』
ズガアン!
「くぅっ!」
そのまま突っ込んでくる嫉妬の突進を、リジーが呪われた盾で受け止める。
……が。
ピシ……バキバキ……
「リ、リル姉! 盾が割れた! もう一撃くらったら……」
『どうなるのだ?』
ばきゃあ!
「かはあっ!」
割れた盾の上からさらに重い一撃が加えられ、砕けた盾と一緒にリジーが吹っ飛ぶ。
「リジー! 大丈夫か!?」
『仲間の心配をする前に、まずは己の心配をしたらどうだ?』
「うるせえ! 接近戦なら私に分があるさ!」
『良かろう。ではお前が得意だと抜かす接近戦で勝負してやるわ!』
そう言って私の懐に潜り込もうとしてくる。甘いんだよ、隙だらけだ! フィンガーリングをはめた拳が、嫉妬の顔面に……。
『当たると思ったのか?』
ガブゥ!
「う……うあああああああああっ!」
私の腕に狼の牙が突き立つ。そして。
ぶちぃ
「きゃあああああああ!」
「リ、リル姉ぇぇぇ!!」
『まだまだだ!』
ブォン どすぅ!
「かは……ぐぼっ」
嫉妬の爪が私の腹を抉る。大量の血を吐いて、私はその場に崩れ落ちた。
「よくも……よくもリル姉を! うりゃあああ!」
『そんな大振りな攻撃が我に当たるか!』
ザクッ!
「ぅあ………あああああああっ!」
『どうした、この程度か!?』
ザクザクザクッ! ドシュ!
「…………っ」
ドチャッ
『はははははは! 何と手応えのない! よく我に勝負を挑んできたモノだ!』
「そうかぁ? まだ負けたつもりはないけどな?」
『は?』
どごおっ!
『ぐぼおっ!』
私の拳をもろに食らい、結構遠いところにある大岩まで吹っ飛んでいく。
ヒュウウン……バカン!
そのまま直撃し、大岩が砕けた。
「梯子、ゴー!」
同じく立ち上がったリジーの号令で、梯子が追撃のために飛んでいく。
ズゴオオオン!
「……あた〜り〜」
結構なダメージだと思うが……どうだ?
………ズドン!
『この程度、痒くもないわあああ!』
あ、元気に起き上がった。
『うがああああ!』
げ、速い! あっという間に私達の前に……!
ドス、ドス!
「「ぐほお!」」
『もはや許さん……このまま膓を引き摺り出してやる!』
グジュ!
「ぐふぁ!」
「がぼぅ!」
『はははは、死ね死ね死ね! 今度こそ終わり』
「「な〜んちゃって」」
どがっ! がごっ!
『うごあ!』
まーた騙された。
「ほ〜らほら、ゾンビだぞ〜」
「膓出ても生きてると思われ」
『お、お前らは一体………そうか、狐獣人! 我を化かしたな!』
「今頃気づいたのかよ……」
「というより、狐獣人がいる段階で警戒すべきと思われ」
『うぅぅぐうぅあああああ! 貴様らああああっ!!』
「「おバカさん♪ こちら♪ ここまでおいで♪」」
『殺おおおす! 殺す殺す殺す殺す!! ぶっっ殺おおす!!』
怒りに顔を歪ませた嫉妬が、私達に向かって突っ込んでくる……思うつぼ。
「「ほらほら、おいで♪」」
『殺おおおおおおすぐあっ!? 何だこれはああ!』
当然、嫉妬が狙っていた私達は偽者。で。
『な……うがああああぁぁぁぁ……』
嫉妬が突っ込んだ先も偽物だ。
……ドズゥン! グシャア
「……ここまでうまくいくとはな。見えるか、リジー?」
「……ん。頭がぐちゃあーってなってる」
「なら死んだな。さすがにゾンビでもお陀仏だろ」
私が大袈裟な演技をして誘い込み、リジーが≪化かし騙し≫で地面に見せていた場所は……。
「さすがの嫉妬も、この高さから落ちたら死ぬよな……」
……崖のその先でした。フォーメーションFFのFFは、free fallの略だったわけだ。
「……何とか勝てたな」
……今回は全然戦わなかったなあ……。
まさかの墜落死。