第五話 ていうか、大半素っ裸。
「ダウロ温泉はアルカリ性単純温泉に分類される。微かな硫黄の香りが特徴で病後治療に有効とされる。別名美人の湯とも呼ばれ肌が綺麗になるとも言われる……温泉さえあればね!」
ごちんっ
「はうっ! ご、ごめんなさい〜」
たくっ!
いきなり≪蓄電池≫を暴走させて温泉を電気分解? で蒸発させちゃうなんて!
「けほ……エイミア……てめえ……」
「ご、ごめんなさい」
湯がすっからかんになって素っ裸のまま湯船にいる私達。その周りで元々浸かっていた男性陣が、死屍累々と転がっていた。
湯が蒸発したときに、湯けむりに紛れて私が全員意識を奪っておいた。後半に張り倒した男供が、何故か幸せそうな顔をしてるのは湯けむりがかなり晴れたから。そうだよ見られたんだよこん畜生。
「どうしてくれるのよエイミア! 巨乳の効能どうしてくれるのよ! 温泉返せ! 返せないならそのおっぱいよこせえ!」
「や、いやあ、引っ張らないでー! リル助けてください、サーチが乱心ですー!」
「……私にも……」
「え……き、きゃー! リルまでー!? だ、誰かー!」
そんな乱痴気騒ぎ? を聞き付けたのか、女将のアリアさんが来た。
「お客様どうなさいましたー」
「あ、お、女将さん、ん、た、助けてください!」
「あの〜それよりお湯は?」
………………。
「「こいつです!」」
「ふぇ!? わ、私ですかー!?」
あんた以外に誰がいるのよ!
「あ、心配ありませんすぐに準備いたします」
そう言うと露天風呂の北側にある岩を動かした。う、ウサギの獸人ってこんなに力があるの?
がこんっ
岩を外すと女将さんは瞬間移動並みのスピードで退避した。すると大量のお湯が流れ込んだ。
ていうか、大量過ぎる!
「わっちょっとがぼがぼがぼ」
「「きゃああがぼがぼがぼ」」
必死に泳いで水面に顔を出した。
「先に言ってください!」
「ああまた忘れてました申し訳ありません今度から気をつけ」
「お願いですから句読点をつけて喋って!」
「あー……は、い。わ。か。り。」
「や・り・す・ぎ・よ!!」
はあはあ、疲れる。
「あのお客さん、あとお二人様ほどお姿が……」
「ちゃんとしゃべれるじゃないの……ていうか、リル!? エイミア!?」
私はもう一度潜った。
「うー……あちー……」
「もういいです……温泉もう飲めません……」
二人ともすぐ見つかった。
リルは湯あたりになったらしく「暑い暑い」と言って寝込んでいる。エイミアはたらふく温泉を飲み、自分の胸並みに膨らませたお腹をさすっていた。
「大丈夫? まさか二人とも泳げないとは……エイミアは納得だけど」
後ろでエイミアが「ひどいです!」と言ってプリプリしてるのは割合します。
「私は種族的理由だ。猫は泳ぎが苦手だから」
……猫は泳げないわけじゃないんだけど……。
「私はどうしても身体が上向いちゃうんです」
上……? それはまた奇っ怪な理由ね。
「胸が浮いちゃう」
「あーあーそうねそうね! 脂肪は筋肉より軽いもんね! そんだけデカけりゃ浮いちゃうよね!」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「……お前ら飽きないねえ……」
「いたーい……びえええ」
泣いてるエイミアを無視しつつ、リルと温泉談義に花を咲かせる。
「ホントに肌がスベスベになるわね〜」
「さすが美人の湯。それに見てみろよ」
そう言って胸元を晒す。
「……小さいわね」
「違う! この間オオサソリに受けた傷のほうだよ!」
ああ、そういえば。
ダウロにくる途中で、オオサソリの団体と戦闘したんだった。その時リルがけっこう深い傷をつけられたのだ。とりあえず薬草でことなきを得たんだけど……。
「ウソ……すっかり治ってる……」
……こういうところはさすがファンタジー。
ん? ということは?
胸が大きくなる温泉も……あり得る?
「気付いたようだな、サーチ。そうだ、これだけ傷を高速回復できる温泉だ。胸のひとつやふたつ、デカくする位わけないだろ!」
……ひとつだけデカくなるのはさすがに……とはいえダウロについては詳しくないし。
……仕方ない。疲れるけど女将さんに聞いてみるか。
「はいはいおっぱいが大きくなる温泉ね」
そういえば女将さんも大きいな。まさか。
「あるにはあるわよ。ただ堕つる滝の途中にしか湧いてない」
ダンジョンの中!? しかも途中って……。
「まさか……ガケ?」
「うん。途中の窪み」
………………。
「リル、私達には勇者を探すという重大な使命があるわ」
「サーチ、これはこの世界にとって必要なこと。いま立ち止まるわけには行かない」
がっちりと堅い握手を交わす。
「「では今から行ってきます!」」
そう言って拗ねたエイミアを置き去りにして出発した。
「あーあー言い忘れましたけど8時に閉まりますよ、堕つる滝」
……一時間後。
トボトボと帰ってくる私とリルを見てエイミアが爆笑した。
……笑うエイミアの頬っぺたを引っ張りながら。
「堕つる滝は遊園地のアトラクションかー!」
……と叫んだ。
……八時に閉まるダンジョンって一体……。