第二話 ていうか、最終決戦! その二、リファリスvs色欲《ラスト》……この二人、怖い。
先生はどうせ一歩も動かずに勝っちゃうんだろうな……あたしにはそんなスマートな勝ち方は無理だ。
だけど、あたしにはあたしなりの戦い方がある。どんな手を使ってでも……勝つのみ。
「この辺りでどうかしら? あたし達の戦いの場には、最高の舞台だと思いますが……」
そう言って行き先に見えてきた遺跡を示す。おそらく昔は神殿だったのだろうが、今は柱だけがかろうじて残っていた。
『いいぜぃ……ハニーはあそこで犯されるのが趣味かぁ?』
……どういう趣味?
「いえ、貴方の墓標に相応しいかと思いまして」
『墓標かぃ……言うねえ、ハニー。クックックッ』
ハニー呼ばわりされるのは嫌なんだけど……こういう遊びもいいかもねぇ?
「あたしの舌は毒まみれよ……あたしをモノにしたいなら、死ぬ気でかかってらっしゃい、ダーリン。あは……あはははははは!」
『いいぜぇ……お前みたいな女は最高だあ……! どちかが死ぬまで乱れようじゃねえか……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』
ああ、久しぶりに血が騒ぐ。エリザを弄ぶのも最高だけど、それとは違う快感。この血の昂り。
自分の命と尊厳を賭けて、ギリギリの死線を掻い潜る危うさ。エリザ達を召し抱えてからは控えていたけど……やっぱりいいわあ!
「さあ始めましょう、もっとも美しくて凄惨な血の宴を! ダーリンの血で、あたしを真っ赤に染めてちょうだい……あはははははは! ひゃははははは!」
『おいおい、俺以上に頭のネジが緩んでるな……。けど、やっぱ最高のハニーだぜ! お互いに斬って斬って斬りまくって、この神殿も赤く染めてやろうぜ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』
いいわあ! これは今までで最高の宴になるわ!
『では始めようか、ハニー?』
「あ、ちょっと待ってちょうだい」
『んあ? まさか怖じ気づいたのか? そりゃねえぜ、ハニー……』
「まさかあ。何で今更、怖じ気づかなくちゃならないのよ。ただ提案したい事があっただけよ」
『提案だぁ?』
「どうせなら、最高の宴にしたいじゃない? なら、下手な探り合いは止めてさあ……最初から全力でぶつかり合わない?」
『全力でぇだあ?』
「フルパワーvsフルパワーのぶつかり合い……それこそがあたし達に相応しい戦いだと思うよ?」
『フルパワーか………ふふふ……あひゃひゃひゃひゃひゃ! いいねえ、マジでいいねえ! 流石はマイハニーだ! 乗ったぜ! 派手にぶつかって派手に散るのが、俺達には相応しい!』
「決まりね。ならダーリンからお願い」
『いいだろう……俺のフルパワー、見せてやるぜえ!!』
すると色欲の身体が一回りも二回りも大きくなり、爪は更に鋭く、牙は更に長くなる。フサフサな毛で覆われていた尻尾からも角が生え、全体的に刺々しい見た目になった。
『かはあああ……。これが俺の全攻撃形態。防御を全て捨てた、相手にダメージを与える事のみに特化した身体よぉ。文句無しの捨て身のフルパワーだ』
……色欲は応えてくれた。なら、今度はあたしの番だ。
「ダーリン、あたしの場合はダーリンみたいに、すぐにフルパワーってわけにはいかないの」
『ああ、わかってるよハニー。お前が完了するまで待てばいいんだろ? 舌舐めずりして待ってるぜえええ?』
……一応信用しておこう。でも久々だなあ……あの姿になるの。
「んじゃあいくわよお……あああああ! キシャアアアアアア!!」
あたしの手足が鱗に覆われ、全身に紋様が現れる。瞳孔が縦に長くなり、舌が二又に割れた。
『へええ……ハニーはトカゲの獣人かい。なら≪獣化≫した姿がフルパワーって事かい?』
「いえ、まだよ。あたしのフルパワーは……≪獣化≫程度じゃない」
三つ又の短槍で指を傷付け、その血で頬に紋様を描いた。
「女王の操り人形よ、狂え狂え。女王を巻き込んで、共に踊り狂え」
あたしの指先から操り人形の糸が伸びていき、あたしの四肢に絡む。
「変異術式≪私こそが人形≫」
『な、何だあ? 自分の手足に操り糸を括り付けて、何をする気だ?』
「言ったじゃない。あたしがフルパワーでいくには、時間がかかるってさ。準備は完了したわよ、マイダーリン」
『……まあいいや。自分で自分を操る意味がわからねえが、要は戦えればいいんだ。それじゃあ始めようか……犯し尽くしてから、バラバラにしてやるよ、マイハニィィィィィィィ!!』
「!」
攻撃に特化した、というのは伊達じゃないわね。スピードに目が追い付かない。
『ほうら、これが避けられるかあああ!』
あたしの背後に回り込んだ色欲の鉤爪が、あたしの左足を薙ぐ。
大量の血が噴き出し、左足が粉々になって宙を舞う……のだろう、普段のあたしなら。
『!? な、どういう……!?』
あたしは避けていた。あり得ない方向に足を曲げて。
「何を驚いてるの、ダーリン? 今のあたしには、こ〜んな事もできるのよ?」
そう言って首を360°回転させた。
『お……おいおい、ハニー。流石に冗談キツいぜ。そこまで首が回せるって、もう生物じゃねえぞ』
「そうよ。今のあたしは操り人形。女王が操り人形を操ってるんだから、人形にできる動きは全て可能なのよ」
『な、なんつー無茶苦茶な理屈だよ!』
「いいじゃない、理屈なんて。最初から言ってる通り、フルパワーで戦うのみよ」
そう言って三つ又の短槍をに掲げる。
「さあ……殺し合いましょう。この遺跡を真っ赤に染め上げて……あは、あはははははは!」
ドスッ!
『いてえ! いいねえ、いいねえ! この痛みこそが生きている証ってやつだ! お前にも味わわせてやる!』
色欲の腕が、あたしの腰を殴りつける……が。
ぐりんっ かく
『は、はあああっ!?』
「何度も言うけど、今のあたしは操り人形なの。攻撃されたって、関節部分を回転させて威力を削ぐくらい簡単なのよ」
『無茶苦茶だな! どうやったらハニーに傷を付けられるんだ?』
「そうねぇ……無理じゃない?」
『は?』
「あたしは言ったわよね? ダーリンの血であたしを染めてって。あたしの血が流れるとは、一言も言ってないわよ………あはははははははは!」
『……っ……言ってくれるねぇ……! なら、意地でもズタボロにしてやんよ!』
「やれるモノならやってみなさい! あはははは!」
『やっぱ楽しいねえ……あひゃひゃひゃひゃひゃ!』
……一時間後。
全身を真っ赤に染めたあたしの足元に、色欲が転がっていた。
『…………た、楽し……楽しかったよな? …………あひゃひゃ……ひゃ…………』
……事切れたか。
「楽しかったわよ、元ダーリン…………そこそこね」
二人とも、頭のネジが何処かへいっちゃってます。