第二十三話 て、ていうか、反則じゃありませんか!? どうすりゃいいのよ……「私達を忘れてない?」
やがて絶望の獣は、おもむろに立ち上がって。
『では始めようか。この世界が滅びる事を祝し、最後の大祭と洒落こもうではないか』
「あんたが負けることに対してのお祝いなら、喜んでお付き合い致しますわよ」
『…………』
「…………」
「戦う前からすっげえ険悪だな……」
「当たり前じゃない。何で『自殺願望者、但しみんな道連れよ♪』みたいなヤツと仲良くしなきゃならないのよ」
「いや、仲良くしろとは言わねえが……」
『私とお前達は所詮相容れぬ存在。ならばどちらかが滅びるしかあるまい』
「そうね。だったら殺すか、殺されるか。二つに一つしかないわね」
『…………』
「…………」
「あの〜……このままじゃ埒が明きませんから、一旦離れましょうよ。ね? ね?」
『…………』
「…………」
ズルズルズル
……こうして一旦引き剥がされた。
「落ち着いて下さいね」
「ごめんごめん」
「サーチ、お前が司令塔なんだから、一番冷静でなきゃならないんだぞ?」
……ありがとう。みんなのおかげで冷静になれたわ。
「今回の戦いでみんなにお願いしたいのは、とにかく死なないことと、死なせないこと」
「「「「……はい?」」」」
「まずは自分達自身が死なないようにすること。これは絶対よ。私が犠牲になれば云々、なんていう安っぽいヒューマニズムは御免だからね」
「わかってるさ。まだ死にたくないしな」
「この世界には、まだまだ私の知らない呪いがあると思われ」
「わ、私もサーチと……ゴニョゴニョゴニョ」
「妾にもやり残した事が多いのでな」
「それと同時に、勢い余って絶望の獣を倒さないように気をつけて。ギリギリまで追い込むまでにして」
「……」
「……? リル、どうしたの?」
「あ、えっとな……普通に戦って勝てるわけねえだろ! と思ってふがっ!?」
(バカ! それを言ったら士気がダダ下がりでしょうが!)
(あ、そうだな。わりぃわりぃ)
「わかりました。私達はサーチの支援を第一に考え、チクチクチクチクと付かず離れずで嫌がらせすれば良いのですね?」
「い、嫌がらせって言い方がちょっとアレなんだけど……ていうか私の支援!? 私が何かしようとしてるって気づいてたの?」
「それはそうですよ。三冠の魔狼が仰ってましたし、サーチが毒の注入に固執している時点で『何かあるな』とは思ってましたし」
やべ、バレバレ?
「無論、何か企んでいる事は絶望の獣も気付いておろうな。ただし、どのような企みか、その全てを把握しておるわけではなかろう」
「なら隙はあると思われ。サーチ姉、また噛み付く必要性はあるの?」
「もう噛みつく必要はないわ。私が十回くらい斬りつけられれば、何とかなると思う」
「よし、なら私達が散発的に攻撃して絶望の獣の注意を逸らそう。その隙にサーチが斬りつける。これでどうだ?」
「「「さんせーい」」」
「み、みんな……私の策は完全ではないのよ? もしかしたら、何の効果もないのかもしれないのよ?」
「でもやってみる価値はあります。効果が無かったとしても、それはその時ですよ」
「まあな。要は無限の小箱に取り込む間の時間稼ぎができればいいんだ。サーチの策がダメでも、何か手はあるさ」
「私もサーチ姉の策に賭けてみる」
「心配するよりまず行動。妾も全力を尽くす故、やってみようではないか」
……よし、私も腹を括ろう! みんなに私の前世のことを伝える。
「なら、作戦の繊細を伝えるわ。いい、私の狙いは……」
「……というわけなの」
「……なるほどな。前世の知識を応用したのか」
「魔術的要素が絡まないとなると……うまくいく可能性がありますね」
「ううう……新たな呪いじゃないのが残念……」
「くくく……はははは! 流石サーチよ! そのような方法があるとは!」
「どう……かな?」
腹を抱えて笑っていたマーシャンは、涙を拭いてから頷いた。
「いけるじゃろ。あの者が生物である事は間違いないからの」
リル達もそれぞれに頷いた。
「わかったわ。ならこの作戦でいってみましょう」
「……なあ、サーチ」
「ん?」
「お前がよく言ってた古代語って……」
こ、この状況で聞いてくるか!?
「そ、そうよ! あれは私の前世の世界の言葉よ! ある意味古代語でしょ!?」
「そうなのか? なんか釈然としないんだけど……」
「さ、さあ! 作戦を開始するわよ!」
なんでこんなめんどくさいことを、最終決戦の前に言うのかな……。
『……もう良いか? いい加減に私も待ちくたびれたのだが……』
「ごめんごめん。ちょっと作戦会議が長引いてさ」
『ここまでお前達に合わせてやったのだ。私の意向も通させてもらうぞ』
へ? 絶望の獣の意向?
『私がこの世界を滅ぼすには、すぐに……という訳にはいかぬ。ある程度の時間と準備がいる』
はあ?
『私としてはお前達に勝つと同時に、速やかにこの世界を滅ぼしたいのだ』
……はあ。
『だから、その準備を事前に開始したい』
はあああ?
『要は……お前達の相手は、私ではないという事だ!』
ゾゾゾ
そう叫ぶと、絶望の獣の身体から狼の顔が生えて……マジかよ!?
ゾゾゾゾ……ボトッボトッ
全部で……六体。
「な、何だよありゃ……」
……こっちの世界じゃ、大魔王は口から卵じゃないのね……ていうか絶望の獣は大魔王じゃないか。
『ふう……私の力は、この六体にほぼ分割した。私はこの場で破壊の準備に入る。止めたくば、この六体を倒して私の元に来るがよい』
そう言うと、絶望の獣はその場に座り込む。
『今の私は、一撃で倒せるくらい弱っているからな……。しかし、私を倒せば世界も滅ぶ。どうするかはお前達次第だ……わははははははは!』
ちぃぃ! やられた! これだけ分裂されれば、同時に封印できない……!
隙をついて本体を封印したとしても、六体の分身がいるんじゃ……!
「ど、どうする、サーチ?」
「……仕方ない。一体一体確実に倒していくしかない……ちょっと、絶望の獣! 分身を倒しても世界に影響はないわね!?」
『問題ない。私の元に戻ってくるだけの事』
……なら……戦うしかない!
「あらあら、困った事になっちゃったわね?」
!?
「けど安心なさい、さーちゃん。私達が来たんだから、大船に乗ったつもりでいなさいな」
この声は……!
「私はリファリス様をお守りするのみ」
「……院長先生! リファリス! ついでにエリザ!」
「何で私だけ『ついでに』なのですか!」
援軍到着!