第十九話 ていうか……真の絶望が誕生する……。
必死で追いかける振りをしつつ、付かず離れずの距離を保つ。
「ねえ、三冠の魔狼。七冠の魔狼が完成することによって、状態異常の耐性が強化される可能性はある?」
『無いな。完成したことで身体の構造が丸ごと生まれ変わるわけではない』
ほっ。私のやったことがムダになるかと思った。
『何を試しているかは知らぬが、七冠の魔狼には毒の効果があるのか?』
「ん〜……今のところは微妙ね。効果が出るのは毒を注入した顔だけだし、数分ですぐに回復しちゃうし……抗体を作るスピードがハンパないわ」
『む? コウタイとは?』
「あ、何でもない何でもない。気にしない気にしない」
……もしも七冠の魔狼に対して効果なかったら、私メチャクチャカッコ悪いからねえ……。
『……まあ良いが。奴等に悟られるでないぞ?』
「そんなヘマはしないわよ。みんな、少しずつスピードを緩めて。撒かれた振りをするわよ」
「「「了解!」」」
「リジー、マーシャンに連絡。作戦を説明して、どうにかグレートエイミアを舵取りしてって伝えて」
「……舵取りは無理と思われ」
「…………とりあえず『正義』を連呼すれば何とかなる、って言っといて」
「らじゃ」
「ヴィーはみんなの回復を。リルは『色欲』を追跡して」
「わかりました。では最優先でリルを回復します」
「じゃあ回復が終わり次第追跡を始める。何かあったら念話するから」
「ええ。気をつけなさいよ?」
「お互いにな」
ヴィーの≪回復≫が終了すると、リルはすぐに追跡を開始した。
「さて、私はリファリスと念話しなくちゃ」
『……ふーん、そういう作戦か』
「ええ。だからムリな追撃はせずに、ある程度で退いてもらえる?」
『いや、ちょうど潮時。そろそろキツネ君達が限界ね。衛生兵もヘロヘロだし、士気も下がってきてるし』
リファリスが指揮してなかったら、とっくの昔に瓦解してるわね。
「ならそのまま待機してて。ありがとうってキツネ獣人達に伝えといて」
『わかったよ……それより、さーちゃんの名前を連呼してるキツネ獣人だが』
「……何かしたの?」
『サーチサーチうるさいんだけど』
……ルーデルのヤツ、いつからネタキャラになったわけ?
「……す巻きにでもして転がしといてよ」
『いいのー? さーちゃんの彼氏じゃないの?』
「ん〜……まだ微妙。遠慮なくヤっちゃってください」
『わかった』
「じゃあ、ありがとね。ゆっくり休憩してて」
『うん。しばらくエリザを弄んでるわ』
そう言ってリファリスは念話を切った。も、弄ぶって………少しだけエリザに同情した。
「あ、そうだ。ソレイユにも念話しとかないと」
……しばらくすると、疲れ気味のソレイユが水晶に現れた。目の下のクマがヒドい。
「お、お疲れみたいね……」
『……当たり前よ。あれだけの軍勢を転移すれば……』
そりゃそうか。
『それより何か用?』
「いや、援軍はどうなってるかな〜、と思って」
『援軍? 今のところは……ギルドは精鋭部隊を編成してくれてるわ。数はそれなりに揃えられそうよ』
おお、ギルドは動いてくれたのね。
『それと〝飛剣〟のヒルダも参加してくれるわ。今現在そっちに向かってる』
え、院長先生が!?
『ちょうど暴風回廊の近くにいたそうだから、直接虚空神殿へ向かうって。もうすぐ着くはずよ』
「院長先生が来てくれれば、スッゴい戦力増強よ!」
『ただ〝刃先〟とは連絡がとれない。引き続き探すけど、これは当てにしないで』
……まあ仕方ない。
『それとニーナ・ロシナンテが、遠隔魔術で結界を作ってくれるそうよ。必要な時は念話水晶で連絡してくれれば、いつでも結界を張るってさ』
ニーナさんの結界か、それはありがたいわ。
『あとは交渉中が数人。この辺りは何とも言えないから、あまり期待はしないでね』
「あ、ありがとう。この短期間にこれだけの援軍を……」
『ま、事前に想定していたしね。それなりに準備はしてたから』
「普段から準備してたってこと? そんな前から七冠の魔狼に警戒してたわけ?」
『七冠の魔狼をってわけじゃないんだけどね』
……ああ、前に言ってた……。
『用件はそれだけ?』
「ああ、そうそう。リファリス達の軍がそろそろ限界だから、また転移をお願い」
『………………ええええええええ!?』
「な、何よその反応?」
『あ、当たり前じゃない! またあの人数を転移しなきゃならないの!?』
「大変だろーけどがんばれー」
『棒読みで応援されたって嬉しくないわあああっ!!』
ソレイユの叫びが虚しく響いていった。どっちにしても、転移してもらうしかないのだ。
連絡事項を伝え終わったタイミングで、リルが戻ってきた。
「ついさっき『色欲』が合流した。あとはリファリス達が相手してた二体だけだ」
よし、順調ね。
「グレートエイミアが暴走してないわよね?」
「一応マーシャンがうまく舵取りしてるみたいだ。四体の大罪と牽制しあってる程度だぜ」
……もうすぐ……最終決戦ね。
「……今回は桁違いに、危険な戦いになる。前衛は大変だけど、リルとリジーにお願いするわ
「任せておけ!」
「右に同じ!」
リジー、リルは左側。
「ヴィー、今回はあんたを守る壁はない。だから後衛兼回復役でお願い」
「大丈夫です。馬車馬以上に働いてみせます」
「グレートエイミアとマーシャンが合流してから、再度フォーメーションを変更するけど、それまではこの態勢でいくわ。みんな、ここからが本番よ。気合い入れていくわよ!」
「「「おー!」」」
この日、〝八つの絶望〟の最後の砦、虚空神殿にて。
『な、何故だああ!?』
『何故裏切ったのだ!!』
―――裏切る?
『そ、そうだ!』
『貴様のような新参者が、俺達を出し抜くとは!』
―――何を寝惚けているのか。新参者はお前達だ。私が本体。私が全ての根源なのだぞ?
『ふざけるなああ! 七冠の魔狼は「七つの大罪」が集まってこその存在!』
『俺達が、俺達こそが七冠の魔狼の本体だああ!』
―――誰が本体だろうと、どうでもよくないか?
『な、何を……』
―――もはや私の一部になるしかないお前達には、知る必要のない事だ。
『く、くそおおおお! ちくしょおおおおおお!!』
『何故だ! この世界と対となる俺達が、何故ええええ!!』
―――簡単な事だ。お前達より、私が上だった。ただそれだけの事よ。
ぐ、ご、ご……。
ぎゃあああああああああああ!!
……七冠の魔狼が滅び。
―――素晴らしい。素晴らしい力だ。
―――私は最早、虚栄等というちっぽけな存在ではない。
―――私は……この世界に滅びをもたらす者。
―――私は……この世界に絶望を撒く者。
―――私は。
―――絶望の獣。
……絶望の獣が誕生した。