第十七話 七冠の魔狼封印作戦、その六! ていうか、三冠の魔狼が『憤怒』を滅ぼしたけど、何かイヤな予感がするんですよね……。
それからもギリギリの攻防を展開し。
がぶぅ! どくどくどく!
がぶぅ! どくどくどく!
がぶぅ! どくどくどく!
がぶぅ! どくどくどく!
い、いっぱい噛んだわ、我ながら……。
どさくさに紛れて、計七回の毒の注入に成功した。実際は六回で十分だったけど、残り一回で確信が持てたのだ。決定打となるモノが見つかった、と……。
だけど、それすら水の泡となりかねない大ピンチを、私達は迎えていたのだった……。
ザクッ
「きゃああ!」
ドサァッ
「リジーがやられたわ! ヴィーお願い!」
「わかりました! ≪回復≫!」
これで何回目かしら? リジーも相当キツいみたいね……。
「クソ! ただでさえ一撃一撃が重いってのに、手数まで増えてくると……うああああ!」
「リル!」
肩を削られたリルを庇い、伸びてきた触手モドキを斬り飛ばす。素早く両手盾モードにチェンジし、しばらくは防御に徹した。
「ヴィー、リルもお願い!」
「は、はい! リジーは今完了しました!」
「サーチ姉ごめん。今度は私が盾になる」
「お願い。私は本体を叩くわ!」
チクショウ……まさか七冠の魔狼が分裂するなんて……!
モンスターの大群を片づけたリファリス達が、私達に合流したときに……それは起きた。
それぞれの顔が突然千切れて、地面に落下したのだ。そのまま首が胴体を形成し、七体の人面狼へと変貌した。
七体はバラバラに行動を開始し、リファリスの軍勢に飛びかかる。突然の事態にキツネ獣人達は混乱し、一気に軍の統率が乱れた。
だけど、そこは百戦錬磨のリファリス。すぐに≪女王の憂鬱≫で態勢を立て直し、逆に三体ほどを違う場所へ誘導していく。残り四体のうち、二体はグレートエイミアのいる方向へ走り去る。残り二体は私達が引き受けた形となった。
……が、強い。二体の狼が面前にいる以上、さっきまでの奇襲戦法はできない。おまけに『色欲』の攻撃が触手を用いての波状攻撃なもんだから、手数が多いこと多いこと……。その間隙を縫って、『憤怒』の攻撃が確実に私達を捉える。
さっきのリジーもリルも、『憤怒』の爪による攻撃でやられたのだ。私は≪絶対領域≫の超感覚をフル活用して、ヴィーを守るので精一杯。今の状態で回復役がやられたら終わりだ。
「とにかく……『色欲』を何とかしないと……!」
『犯す犯す犯ああすっ! 全員まとめて俺様が死ぬまで犯してやらあああっ!』
ええい、気色悪い! 『色欲』で触手って、はっきり言って最悪の組み合わせよ!
ザン! ザザン!
短剣で触手を斬り裂きながら、どうにか隙をうかがうが……やっぱり数の暴力って厄介ね……!
「はああっ!」
片方の短剣を羽扇に戻し、羽根を一本だけ伸ばす。そのまま触手に絡ませて動きを封じる。
『な、何だと!?』
「隙ありぃぃぃ! 久々のライトニングソーサラー!」
ごげっ
『っっが!』
「からの……天パ風爺斬!!」
ザンッッ!
『ぐぎゃあああああっ!』
短剣が見事に触手の付け根を捉え、全ての触手を斬り落とした。
「いよっし!」
軽くガッツポーズ。
ゾクッ
……! 背後に殺気を感じ、急いで回避するが……ダメ、間に合わない……!
がぎぃん! ギャリギャリギャリ!
……あれ? 痛くない?
『油断するとはお前らしくもない。我が助けてなかったら、お前の首は木っ端微塵だったろうな』
ひ、左手が狼の顔になって……って三冠の魔狼!?
『さて「憤怒」よ。我が意思はお前から離れたのに、勝手に動いておるとはどういう事か?』
『コロスコロスコロス! コロオオオスゥゥゥ!!』
『……感情を剥き出しにするだけか。大方、他の大罪の力を吸収し、仮初めの意思を持ったのだろうが……』
私の腕から三冠の魔狼の首が伸び、『憤怒』に食らいつく。
『感情に任せての攻撃など、脅威には成り得ぬ。さっさと滅びるがいい!!』
バキッ! メキメキメキ……グシャア!
三冠の魔狼の牙が、『憤怒』の頭を噛み砕いていく。
『ギャアアアアアゴグゲェェェ……』
ぼしゅ!
完全に頭を砕かれ、『憤怒』が霧散していく。
『……他愛ない。七つの大罪の一角足りえん』
「あ、あんたスゴいじゃない! このまま他のも……」
『今ので力を使い切った。後は任せる』
……は?
『次回、力が溜まるまでは三十年程度かかる。では武運を祈る』
…………使えるのか使えないのか、いまいちよくわからん。
「けど、これで『憤怒』は倒したわ! この調子で『色欲』も倒すわよ!」
羽扇と短剣を構える。それにリジーと治療を終えたリルが並ぶ。
「へ、触手がない『色欲』なんか単なるザコだぜ」
「リル、油断大敵よ。どんなに追い込んだネズミでも、決死の反撃はあり得るんだからね?」
「そうだよ、リル姉。油断なく、止めを刺すべき」
「……わかったよ。三人で連携して戦うさ」
「OK……リジーは盾役、私は遊撃、リルがメインの攻撃よ!」
「「了解!」」
リル達の返事を合図に、各自で行動を開始する。リジーは呪われた盾を構えて『色欲』に対峙し、その後方にリルが控える。私は右側に回り込み、隙をうかがう。
『いひ、いひひ。ひひひひひひ! 女だ女だ女だあああ!』
「……サーチ、さっさと片づけようぜ。何て言うか……ヤだこいつ」
「激しく同意」
……七冠の魔狼って、性格破綻者のカタマリなの?
『触手はもう品切れだとでも思ってるのか? こんなモンはなあ、幾らでも再生できるんだよおおおっ!』
マジっすか!
うーん……触手は厄介だから、一旦距離を空けて中距離攻撃でチクチクやるか……?
『ほら、いくぜえええ……あがっ』
ん?
『…………』
と、止まった?
「……? 何が起きたんだ?」
「さ、さあ……私に聞かれても……」
「誰かと念話していると思われ」
念話? 『色欲』が念話する相手って……他の大罪よね?
「あ、そうか。一つ罪が減ったから、焦って相談してるんじゃねえか?」
そうね。『七つの大罪』の一角が消滅したんだから……ん?
「……七つが……六つになったのよね……」
七冠の魔狼と対の……世界、ヤバいんじゃね? 焦った私は、急いで左腕の刺青に声をかける。
「ちょっと三冠の魔狼! あんたが『憤怒』を倒しちゃったけど、世界もヤバいんじゃないの?」
『……一角が崩れたくらいなら、世界には然程影響はない』
あ、そうなの?
『逆に七冠の魔狼は完成できなくなった。こちらが有利になっただけだ』
……そう……なの?
なら、おかしい。何故に七冠の魔狼は分裂した? 一匹でも倒されたら、大変なことになるのはわかっていたはず……。
……待って。罪はある。
一角が崩れても、代わりになる罪がある。
ま、まさか……七冠の魔狼は最初から『憤怒』を切り捨てるつもりで……!?
『……わかった。新たな罪「虚栄」を迎える準備に入ろう』
ポツリと『色欲』は呟き、突然走り出した。
「あ、あれ? 逃げた?」
「追うわよ! あいつら……七冠の魔狼は、『憤怒』の代わりに『虚栄』を迎えることが目的だったんだ!」
七冠の魔狼の真の目的が判明。