第十四話 七冠の魔狼封印作戦、その三! ていうか、大量のモンスター出現でピンチのときに……。
うまくいっていたはずの作戦なんだけど……。
バキッ! ドサア
「く……キリがない……!」
突然現れたモンスターの群れに行く手を阻まれ、予定していた行程が少しずつ狂い始めていた。
「いくら何でも多すぎるだろ! ザコモンスターばかりとはいえ、これだけの数……うわあ!!」
ドガッ!
「リル姉、喋ってる余裕があるなら手を動かして! もうフォローは難しいと思われ!」
「おう、ありがとう……な!」
がごっ!
「リジー、お前は背後ががら空きだったぞ! 梯子をうまく使って隙を見せるな!」
「ありがとう。これで貸し借り無しで」
リルとリジーはコンビで戦っている。相性が良いらしく、お互いにフォローし合って隙を見せない。
「負けてらんない……わね!」
ばきゃあ!
「おらおらおらおらおらおら!!」
がんごんがんごんがんごんがんごーん!
ゴ、ゴアアア……
ドサッ
意思を持たないはずのモンスターだけど、なぜか半泣きで倒れた気がした。
「……キングリザードマンに、初めて同情しました……」
「何でよ!」
「いえ、あれだけ蹴られまくって死ぬなんて……流石に哀れで……」
「……なら……」
びしぃ!
羽扇をクイーンリザードマンの顔に叩きつける。普通なら一撃で致命傷だけど、少ーしソフトに叩く。
「おらおらおらおらおらおら!」
びしばしびしばしびしばしびしばしぃ!
ゴ、ゴアアア……
ドサッ
「……これでいい?」
「一撃で楽にしてあげて下さいよ!」
はいはい……っと!
どぎゃ!
ずどどどどん!
背後に迫っていたリザードマンをトラースキックでブッ飛ばす。吹っ飛んだリザードマンに巻き込まれて、十数体が倒れ込んだ。
「ぶーっ!」
その上に毒霧を吹きつけ、羽扇で煽って拡散させる。
ゴブッ! ブボッ! グブゥ!
倒れていたリザードマン達は、降ってきた毒によって命を刈られた。
「こんな感じでいいかしら?」
「…………どちらにしても、惨いですね」
そうかしら。
「なら格闘スタイルから、いつもの二刀流スタイルに切り替えますか」
羽扇を≪偽物≫で短剣に変え、左手のみ逆手に持つ。
「さあ、かかって来なさい! 撲殺から今度は斬殺に切り替えてあげるわ!」
「……何故サーチが言うと惨く聞こえるのでしょうか……≪聖風弾≫の五乗」
何かブツブツ言いながらも、ヴィーは≪聖風弾≫をお手玉し……。
「……散開」
四方八方に投げつける。でも敵がいない上空に……?
「爆破!」
バババーン!!
ヴィーの掛け声と同時に、空中の≪聖風弾≫が破裂する。すると……。
バタッバタバタッドサッ
「……へ? 何で?」
「≪聖風弾≫を破裂させた衝撃波で、モンスターの脳に致死的な振動を加えたんです」
エグ! めっちゃエグ!
「魔王様の得意技なんです。私もようやく出来るようになりました」
ソレイユ直伝か……そりゃエグいはずだわ。
「私達には影響ないわけ?」
「巻き込まないようにコントロールするのが難しいのです」
……なるほど……。
「まだ未完成なわけね」
私が指差す先をヴィーが視線で追うと……。
「……きゅう……」
「リジー、どうした!? おい、リジー!!」
「ぎゃあああ! リジー、申し訳ありませんん!!」
……結局リジーは、軽い脳震盪を起こしただけだった。ヴィーがしばらく爆破の術を禁止されたのは、言う間でもない……。
「……まあリジーには気の毒だったが、ヴィーのおかげでモンスターも片づいたな」
「……さっきのモンスター、私達の背後から来たわよね?」
「そう……でしたね。それが何か?」
「後ろってことは……虚空神殿の入口から来たのかしら?」
「……いえ、違うと思います。回廊内にはドラゴン系のモンスターしか出現しないはずです。リザードマンはドラゴン系ではありません」
……なら……答えは一つ!
「走るわよ! またモンスターが来るわ!」
「え? 流石にもう……」
「わかんない!? 虚空神殿でモンスターが発生するのは、ソレイユが作った回廊内のみよ! そこにいないはずのモンスターが出るってことは……」
リルはハッとした。
「まさか……七冠の魔狼がモンスターを!?」
「それしか考えられないわ!」
……ドドドドド……
「マズい! 何かの大群が押し寄せてきてるぞ!」
この状況下じゃ、モンスターしかあり得ないわよね……!
「く……! 仕方ない、一旦退却するわ! マーシャン達と合流するわよ!」
「その必要はないよーん」
……へ?
ブウウウウンッ!!
空間が歪み、私達の前に大軍が現れる。この軍勢は……キツネの獣人!?
「サーチィィィ! 助けに来たぞ、サーチィィィ!」
何と……ルーデルが軍を率いて駆けつけてくれたのだ!
「ルーデル、こっ「誰ですかあれは!?」 ……ヴィ、ヴィー?」
うあ……メドゥーサの本性バリバリのヴィーが……。
「答えて下さい! 誰ですか、あれは!?」
「え〜っと……私の自称彼氏」
「サーチ姉の初めてのうごっほうっ!?」
「余計なことを言うな!! ……ていうかリジーの言う通りよ。ヴィーに隠すつもりはないわ」
「な、なら何故私には腹パンぐふぅおえ!?」
「……………………ふぅー……わかりました。今は身を引きます」
……今は……なのね。
まあいいや。とりあえずルーデルに……。
「ルーデル、こっ「さーちゃん久しぶり〜!!」ぐっふぅ!!」
何か腹にタックルしてきたんですけど……! ていうか、リファリス!?
「何でリファリスがいるの!?」
「救援を頼まれたってソサエトの爺様が」
ソサエト侯爵が!? ってことはあの爺さん、魔王と繋がりがあったの!?
「それであたしが派遣されたのよ。エリザ、挨拶なさい。サーチとは初対面だったよね?」
「はい、念話水晶越しではありますが、実際にお会いするのは初めてです。改めまして、エリザと申します。どうかお見知り置きを」
「……私はサーチ。どうぞよろしく」
私が右手を差し出すと、エリザは躊躇しながらも握り返した。
メキッ
「痛!」
「ん? どうしたの、さーちゃん?」
「い、いえ……何でもないわ……よ!」
ポキィ!
「痛!」
「ん? エリザもどうしたのー?」
「な、何でもございませんわ……うっふっふ……」
「そうね、何でもないわね……うっふっふ……」
「「ウフフフフ……」」
「「……こ、恐い……」」
なぜかリルとリジーが震えていた。
「……ていうか時間がなかったわ!」
「任せなさい! 何の為にあたしがここに来たと思ってるの?」
「……そうね。それじゃリファリス、殿軍を頼むわ!」
「任せなさいっての! それじゃ行くわよ……≪女王の憂鬱≫」
リファリスの軍勢スキルが発動し、キツネ獣人がリファリスの支配下に置かれた。
「エリザ、私をしっかり守りなさい」
「畏まりました」
エリザが三つのタワーシールドを構える。
「さあ……さあさあさあ! これからモンスターの血の雨が降るのよぉぉぉぉ……あは、あはははははははは! この神殿を真っ赤に染め上げましょう……あはははははは!」
リファリスが軍を指揮するのだ。これほど心強いことはない。
……けど……何か忘れてる気が……?
「サーチィィィ!!」
あ、ルーデルか。
……まあ、いいや。