第十三話 七冠の魔狼封印作戦、その二! ていうか、次は水とヴィーを使っての頭脳戦!
『もう一匹いた。もし一匹は食べよう』
『その前に俺が遊ばせてもらうぞ』
『憎らしいいいっ! 探せえええ!』
『探してやるからジッとしてろ』
『どこへ行ったあああ!? 探せぇ!』
『お前らの死に顔が見たいんだよ……ひひひ』
『めんどくせえからさっさと出てこい』
……どの顔もコメントが印象的だわ。
「あ、そうだった。サーチ、思い出したんだけど」
「何? 重要なことなの?」
「割とな。確かお前の腕の三冠の魔狼、『七つの美徳』が揃ったら地獄門へ行けって言ってなかったか?」
………。
ああああああああああああああああ!!
「わ、忘れてたああ! このまま地獄門へ誘導すれば終わりだったんだああああ!!」
「……迂闊。私も忘れていた。それも妖怪のせい」
「リル〜、覚えてたんなら早く言ってよ〜〜!!」
「いや、私も今の今まで忘れてたんだ」
だったらグレートエイミアを囮にして、地獄門まで誘導していけば……。
『戯け』
びすっ!
「痛!? あ、あれ? 何で私、自分で自分にデコピンを……?」
『我だ。少し落ち着くがよい』
え………ケ、三冠の魔狼!?
『番よ、我の存在を忘れておったな?』
はい。キレイさっぱりカケラも残さず。
『…………まあ良い。番故、特別に許してやろう』
「そう? なら忙しいからまた今度」
『待て待て待て待て待てぃ!! 最後まで話を聞かぬか!』
「何よ、今から地獄門へ……『行く必要は無い』……は?」
地獄門へ行くなって……どういうことよ?
『番よ、お主達が考え出した策の方が最善だ。そのまま進めるが良い』
………へ?
「……話がよくわからないんだけど」
『我の策だと、一つ懸念があるのだ』
「懸念って……地獄門から七冠の魔狼を追い出しちゃえば、大団円のハッピーエンドじゃないの?」
『本来ならな……しかし「虚栄」がいる』
「『虚栄』って……失われた大罪がどうかしたの?」
『「強欲」「傲慢」「憤怒」「嫉妬」「暴食」「色欲」「怠惰」、この七つは冥府に戻る事ができる。だが「虚栄」はこの世界から出れない可能性が高い』
「え……何で?」
『それは……「虚栄」だけがこの世界の罪だからだ』』
………はい?
『「七つの大罪」……つまり七冠の魔狼は冥府にて誕生した存在だ、と説明したのは覚えておろうな?』
はい、バッチリ。
『しかしこの世界には何故か「虚栄」という罪が存在した。だから七冠の魔狼がこの世界に現れた途端に、七つの大罪に強制的に罪が一つ増えてしまったのだ』
……はあ。
『故に七冠の魔狼が地獄門を通ろうとしても、「虚栄」はこの世界から出る際の足枷となる』
「まさか……地獄門を通れない可能性がある、ってこと?」
『そうだ。我も「虚栄」の存在を知らなかったのでな』
「三冠の魔狼のあんたが知らないってどういうことよ?」
『知るはずもない。「虚栄」等という罪、本来ならば存在するはずがない罪なのだから』
「じゃあ存在しないはずの罪が何でこの世界にあるのよ!?」
『わからん。わからぬが……おそらく……魔王が戦っている存在が関わっているのであろう』
ソレイユが……戦っている存在?
『それよりも、今は目の前の事に集中せよ。全ては七冠の魔狼を封じた後の話ぞ。世界が滅んでしまっては、どうしようもなかろうが』
……そうね。この件が片づいたらソレイユから聞き出すまで!
「こんなタイミングで出てきたんだから、三冠の魔狼も協力しなさいよ!?」
『無論。あのような余所者に、この世界と道連れになる価値等無いわ』
「ありがと。また手を貸してほしいときは呼ぶから」
『うむ。武運を祈っておる』
そう言うと三冠の魔狼は静かになった。
「……というわけだから、このまま作戦続行よ!」
「わかった。しかし三冠の魔狼の話だと、七冠の魔狼の件が終わっても、まだ何か騒動があるんだな……」
「まだまだ新婚生活は楽しめないわね」
「よ、余計なお世話だ!」
そんな軽口を叩き合っていると、かなり広い泉が見えてきた。
「サーチ、こちらです!」
泉の側で、ヴィーが手をブンブン振っていた。何となく犬の尻尾を彷彿させる。
「……よし! 作戦第二段、いくわよ!」
「「おー!」」
「リジー、リル。タイミングを合わせてね」
「おーけー」
「らじゃあ」
「一番重要なのがヴィーだからね。難しいけど必ず成功させて」
「任せて下さい。必ずサーチの安全を確保します」
……ズン……ズン! ズゥンッ!!
「……来たわね。みんな配置について!」
「「「了解!」」」
……さて……予定通りに動いてちょうだいよ?
ズンッ!! ズゥンッ!!
『出てこいザコが!! 今なら楽に殺してやるぞ!』
『いや、楽には殺さぬ。骨の髄までしゃぶり尽くしてやるぞ!』
『殺す前に食ろうてやるぞ!』
『食らう前に犯し尽くしてやるぞ!』
あれだけしゃべりながら、よく歩けるわね。しかもそれぞれがバラバラなことをしゃべりながら。
ズンッ! ばしゃあ! ばしゃあ!
泉に入った。あと三歩、二歩、一歩……今!
「これでも……」
「食らえー」
ぼふん! ぼふん!
『な、何だこれは!?』
『煙幕か、小賢しい……!』
リルとリジーが私お手製の煙幕弾を投げまくり、七冠の魔狼の視界を塞ぐ。
「……なあ、リジー。お前の≪化かし騙し≫で目眩ましできないのか?」
「無茶言わないで。私達の姿を隠すだけで精一杯」
「……それでサーチ印の煙幕弾に変更したのか」
きびだんごみたいに言わないで。
「リジー、今よ!」
「はい! ≪聖風波≫!!」
ゴオオッ!
あらかじめ詠唱して準備していた聖術を、下から上へと発動させる。その風に乗って泉の水が舞い上がり……。
『……? 何故俺達に水を……』
「魔術や聖術による水は、あんたには届かない。だけど舞い上がっただけの水なら別よね」
「そして……あなた自身は石化できませんが、あなたを濡らした水なら石化できます! ≪石化魔眼≫!!」
かちんっ! ビキビキビキ……
『ぐ、ぐおおお……』
表面を濡らした程度の水だから、石化もそんなには保たない。
「だけど……もう一度噛みつくには十分な時間よ!」
がぶぅ!
ギャアアアアア!
どくどくどく!
一回目同様、流し込めるだけ毒を流し込んで離脱する。
『おのれ! ザコ共があああああっ!!』
「よし、第二段回終了! 戦略的撤退!」
「「「了解!」」」
よし、今のところは順調順調♪