第十二話 七冠の魔狼封印作戦、その一! ていうか、まずは一つ目の布石。
ギャアアアアアアアアッ!!
ゴロンゴロン! ドタン! バタン! バンバンバーン!
おお、転がり回ってる。相当痒いみたいね。
「リジー、呪いの効果はどれくらいの時間続くの?」
「個体差はあるけど一、二時間」
……なら試してみる価値はあるか。
「ちょっと一噛み試してくるわ」
「お、おう。私がフォローすればよかったんだよな」
呪いの念を送り続けているリジーを残し、私達は七冠の魔狼に近づいた。
ギャアア! ギャアア!
ドタンバタン!
「暴れ方が尋常じゃねえ……ありゃ身体に飛びつくだけでも決死だぞ?」
「大丈夫よ。そのためのリルなんだから」
「はあ?」
真っ黒な毛玉が、ゴロゴロと転がり回ってるようにしか見えないけど、たまーに黒光りするモノが見える。あれは間違いなく……爪。
「……≪身体強弓≫、本日の第二射目……!」
その爪にリルが狙いを定め。
「発射!!」
ドシュン!
ズドムッ!!
ギャアアアアアアアアアアア!!
ジャストミィィィィィト!! 見事に爪と皮膚の境目に大当たり!
痒さだけじゃなく強烈な痛みに耐えかねた七冠の魔狼は、動きを止めて踞った。
ザワザワザワ……!
そのとたんに、毛玉のようだった七冠の魔狼の全身が、白く輝き始める。
『……ザコ共が……! 悪あがきも程々にしておけ……!』
黒い毛の間から何かが生えてくる。あれは……首?
『俺達が大人しく殺られるとでも? 舐められたモノだ』
何もかもを見下すような『傲慢』な顔。
『クソがあああっ!! どいつもこいつもぶっ殺してやるぅぅ!』
怒り狂い、ただただ叫ぶ『憤怒』の顔。
『欲しい……俺達に逆らったザコ共の首が欲しい……』
ギラギラした目で私達の姿を探す『強欲』の顔。
『羨ましい羨ましい……ザコ共のすばしっこさが羨ましいいいい!!』
手に入るはずがないモノを望むように空を見上げる『嫉妬』の顔。
『食ってやればいいんだよ。逆らう連中はどいつもこいつも』
私達の味を想像して涎を垂らす『暴食』の顔。
『いやいや、その前にさ……死ぬまで犯してやりてえええ!』
さっきとは違った意味で涎を垂らす『色欲』の顔。
『……めんどくせえだけじゃねえか』
何を考えているのかさっぱりわからない『怠惰』の顔。
それぞれの顔が長い尻尾の先にあり、ユラユラと宙を徘徊っていた。
「これが……七冠の魔狼か!」
『おい、あそこに猫の娘がいるぞ?』
『あいつが俺達に楯突くザコか?』
『あいつが……俺達を……!』
『畜生畜生畜生おおおおっ!!』
『食うか?』
『犯すか?』
『めんどくせえけど……』
『『『『『『『……殺るか』』』』』』』
七つの顔がリルに殺到する!
ズドドドドドドン!
『……潰れた。手応えあり』
『まずは一匹目』
『他はどこ行った?』
「しばらく……大人しくしてなさい!」
がぶぅ!
ギャアアアアアアアア!!
どくどくどく!
何かの頭の首筋に掴まっていた私は、おもいっきり噛みついて、強烈な猛毒を流し込む!
ある程度の量を流し込んだら、早々に近くの木に飛び移って退散する。
『許さぬ! 許さぬぞおおお!』
毒の影響なのか、『嫉妬』の顔が真っ青になって地面に倒れる。それを見た他の顔が逆上した。
ゴオオオオオッ!!
思わず「レーザーかよ!」っていうつっこみを入れたくなるブレスを、六つの顔が一斉に放つ。
ぼしゅん!
六つの光線は、私を正確に射抜き……跡形もなく蒸発させた。
『二匹目も死んだ! 他のザコ共も同様に蒸発させてやろう……ギャハハハハハハハ……!!』
「うっわ……自分が蒸発するのを見ちゃったよ……」
当然、蒸発したアレは私ではない。リジーの≪化かし騙し≫によって作られた幻影だ。
「いいじゃねえか……私なんか七つの顔に迫られての圧死だぞ?」
当然、潰されたリルも幻影。パワーアップしたリジーの幻影は、視覚だけではなく触覚も騙せるらしい。
「なら潰れた自分を見てきたら?」
「ぜっったいにイヤだ」
でしょうね〜。私だってイヤだわ。
「しかしよ、こんな子供騙しみたいなことして、一体何が狙いなんだ? お前が毒を注入した顔も回復してるぞ?」
リルが言う通り、真っ青になって横たわっていた『嫉妬』は、すっかり元通りになってユラユラしていた。
「いいのいいの。これは積み重ねが重要なんだから」
「積み重ねって……まあいいや。お前のことだから、何か悪巧みしてるんだろうし」
「悪巧みとは失礼ね。今回は世界の平和のためなんだから、正義巧みって言いなさいよ」
「何だそりゃ。グレートエイミアの影響か?」
え゛……やば。染まってきてる?
「……気をつけろよ。グレートサーチなんて御免だぜ……」
私だってイヤだよ!
リジーの≪化かし騙し≫で姿を隠しながら、私達は七冠の魔狼から離れる。予定通りに虚空神殿の中央部まで撤退。
「ん〜……あと六噛みくらいかな……」
「え? サーチ姉、まだ六回も噛みつくの?」
「別に噛みつきたくて噛みつくんじゃないんだけどさ……一応は必要なことなのよ」
まあ、実験みたいなモノかな?
「中央にヴィーを呼んでたよな? 今度は石化でもして足止めするのか?」
「……あのねえ、石化できるんだったら、最初からヴィーを前線に出してるわよ」
「そりゃそうだな。石化したところを収納しちまえばいいんだから」
「中央には確か池があった。まさかヴィー姉の聖術で凍り付かせるとか?」
「それも違ーう。おそらく七冠の魔狼には、属性攻撃は無効よ」
「え、そうなの?」
真竜達の力を集めてるんだから、全ての属性の力に耐性があるはず。
「じゃあ私の≪火炎放射≫や、エイミア姉の≪蓄電池≫も?」
「無効でしょうね。毒と同じように、体内に直接じゃないとダメだと思う」
「……≪火炎放射≫を体内に…………嫌々々々! 無理無理無理!!」
そうでしょうね……リジーの場合は口から吐くから、体内にって……マウストゥーマウス!?
「サーチ姉……多分、私と同じ事を想像したと思われ」
……かなりの率で、誰でもそう考えると思う。
「今回は属性攻撃には頼らないわ」
今回のカギは……水とヴィーだ。