第十一話 ていうか、いよいよ七冠の魔狼との決戦です! 最初の攻撃は、私達お得意の……。
「今回は何と言ってもグレートエイミアが主力なんだから、ちゃんと頼むわよ?」
「任せなさい! 正義の名の元に」
「あーはいはい。リルとリジーも一応は前衛だけど、攻撃は考えずにグレートエイミアのフォローを第一に考えて。何より自分の命を粗末にしちゃダメよ?」
「わかってるさ。結婚前に死ぬようなことはしねえよ」
「世界中の呪われアイテムを泣かせるわけにはいかない。死ぬ気は毛頭なっしんぐ」
向こう側で口をパクパクしながら、グレートエイミアがポーズを決めていたのは伏せておく。
「ヴィーは回復に専念して。マーシャンは前衛を援護しながら、回復もお願い。特にマーシャンはオールラウンドに動いてもらうから、MPの残りには注意してね」
「わかりました。私が皆さんをバンバン回復させて、馬車馬のように戦わせますからご安心を!」
安心できねえよ!
「ワシは問題ない。いざとなればヴィーから補給させてもら『かちんっ』……」
「……戦いが始まるまでには解除しといてね? こんなのでも戦力なんだから……」
「……嫌々ですけど承知しました」
嫌々なのは理解できるけど、そこは大人になりましょう。
「サーチ、アタシはどうすればいいのかな?」
「ソレイユにお願いしたいのは、援軍を編成してほしいのよ」
「援軍?」
「そう。この世界には私達以上の実力者が、たくさんいるんじゃないかしら。それをできるだけ集めてほしいのよ」
院長先生こと〝飛剣〟のヒルダ、同じA級冒険者の〝刃先〟、私の幼なじみの実力者リファリス、その従者のエリザ、結界魔術のスペシャリストのニーナさん、各地のギルドマスターに傘下の冒険者達……私が知ってる人だけでもたくさんいる。
「まさに総力戦って事かあ……。わかったわ、アタシが使える限りの伝を使いまくる。必ず強力な援軍を編成してみせるわ」
「あ、ついでに嘆きの竜にも声をかけといて」
「らじゃ〜♪ ……って、ええええ!?」
おお、魔王様のノリつっこみ。
「ううう〜……嘆きの竜かあ……。わかった、やってみる!」
「ま、魔王様? くれぐれも嘆きの竜を怒らせないように……」
「だ、大丈夫だよ! 嘆きの竜も、この世界が滅んだら困るはずだから………………多分」
……嘆きの竜だったら、余裕で生き残りそうな気が……。
『はい、ダウト〜』
ずどんっ!
うわっ!? わ、私とソレイユの間に、何故か短槍が突き立った。どっちかって言うとソレイユ寄りに。
「わひゃ!? ビ、ビックリしたあ……! 誰よ、こんな槍投げてきたの!?」
「「「「「……知らないよ?」」」」」
「……へ?」
『外しましたか……。あまり人を化け物扱いしないで下さいね?』
だ、誰!?
キョロキョロしてると、みんなも辺りを見回している。どうやら全員聞こえたらしい。
「ま、まさか……」
「ソレイユは心当たりがあるの?」
『魔王を名乗るのでしたら、これぐらいで動揺しては駄目ですよ? 堂々となさい……ウフフフフ……』
ホ、ホントに誰なのよ……?
「まさか……そんな……」
「? ソレイユ?」
「え? ななな何?」
「今の声に心当たりがあるの?」
「いやいやいやいやいやいないないないないないな!!」
「……は?」
「ない! 心当たりない! 全くない、はい終わり!」
……???
「サーチ、魔王様がああなったら、何を言っても無駄ですよ?」
……なら、このことを追求するのは止めとこ。
「わかったわ。ならグレートエイミアと後衛組は虚の真竜を連れて、虚空神殿の中央で待機。私と前衛組は回廊出口へ行くわよ」
「「「「「了解!」」」」正義の名の元に、悪に鉄槌を!」
一人だけ盛り上がってるけど無視無視。
「それじゃサーチ、武運を祈ってるわ……死んじゃダメよ? 死んだりしたらゾンビにしてコキ使ってやるからね?」
「あはは、ソレイユにコキ使われるのはイヤだからね。絶対に死なないわよ」
「ふふ……じゃ、またね」
「うん、またね」
ソレイユは私と握手をしてから、転移聖術で消えた。ソレイユにはソレイユの戦いがあるからね……頼んだわよ。
「まずは罠を作るわ」
「「罠!?」」
「……何よ」
「い、いやな……」
「七冠の魔狼が、罠なんかに引っ掛かるとは……」
「別にダメージを与えるのが目的じゃないわ。少ーしイラついてもらえれば上等、てくらいのヤツよ」
「イラつかせるって……余計に悪いんじゃねえか?」
「いいのいいの。冷静さを欠いてほしいだけだからさ。それとリジー」
「何?」
「七冠の魔狼相手に、呪いをかけられる?」
「ん〜……≪呪われ斬≫が当たれば、可能と思われ」
「遠隔では?」
「え、遠隔? 呪いを?」
「そう。例えばだけど、針を踏んだら発動するとか」
「……やった事はない。でも必要なら頑張る」
「OK! できるだけのことはするわよ! ……あ、それとリルにも協力してもらうからね」
「おう! じゃあせいぜい七冠の魔狼をイラつかせてやるか!」
私達が諸々の準備を終えて、日が傾き始めた頃、ついに、戦いの火蓋が切られようとしていた。
ズズン!
……今のは?
「おそらくは回廊内の守護神が倒され、最後の扉が開いた音」
来たか!
「リル、七冠の魔狼が現れた瞬間を狙って!」
「わかった……絶対に当ててやる!」
リルは短槍をセットして、竜のヒゲを限界まで引っ張る。
ビキ……ビキビキ……
「空間にヒビ割れが生じた!」
回廊の出口が固定された空間が崩れ、黒い何かが現れる。今だ!
「リル!」
「文字通りの一番槍だ………くらえ!」
ドヒュン!
ずどっ!!
ギャアアアアアアアア!!
「ナイスよリル! 見事に深爪したわ! じゃあ……戦略的撤退!」
私達が一斉に逃げ出すと、いくつもの閃光が見えて……。
ズズン! ズズズーン!!
大規模な爆発が起きる。七冠の魔狼が攻撃を開始したみたいだ。
「八つ当たりか?」
「いえ、私達がいた場所を重点的に狙ってる。まだまだ冷静ね」
「なら……次はリジーか?」
「準備はOK?」
「何時でも大丈夫」
攻撃をしながら前進する黒い影。もう少し、もう少し……………今だ。
「リジー」
「≪呪われ斬≫」
リジーが呪いをかけたナイフを仕込んだ場所で、不気味な波動が溢れ出した。
「かかった。現在進行形で呪われ中」
ギャア! ギャアア!
「……何の呪い?」
「全身が程良く痒くなる」
それ、呪い?