第八話 ていうか、すっかり存在を忘れてたけど、このダンジョンにも真竜がいるはず……。
「しょ、初代は無事だったみたいだし……良かった良かった」
……よくよく考えれば一回死んでるんだから、これ以上死ぬことはないわね……。
「それよりも! 敵は虚空神殿の回廊の何処かにあり! 私達は常に前進あるのみなのです!!」
「あー、ちょっと待って。どこへ前進するのよ?」
ずんずん進み出そうとするグレートエイミアを一旦留める。
「何でしょう? 私の進軍を止めるつもりですか?」
「いやー、少しは考えてちょうだいよ。いつ出てくるかわからない七冠の魔狼を、ただポケーッと待つのは時間のムダじゃない?」
「む……確かに。ならばどうするのです?」
「他の〝八つの絶望〟に真竜がいる以上、この虚空神殿にもいるわよね?」
ソレイユに視線を送ると、頷き返してくれた。真竜がいるのは間違いないらしい。
「だったら真竜から何か情報が得られるかもよ? 立場的には特殊な真竜みたいだし」
「そうですね。他の真竜が知り得ない情報を持っている可能性は、かなり高いと思います」
「アタシも賛成かなー。このまま待ってるのも性に合わないし」
リルとリジーも頷く。はい、多数決で決定ね。
「ちょっと待って下さい! ここでジッとしてるのが嫌なら、こちらから攻め込めばいいのです!」
あらら、予想通りの積極的な意見。
「いやー……それはマズいんじゃないかな」
「グレートエイミア、情報ってのは大切よ? 戦いに望むなら情報は絶対に必要不可欠だわ」
「そうよ〜。情報戦を制する者が本当の戦上手なのよ」
「むぅ……」
あ、剥れた。
ていうか正義の味方が剥れるなよ。
「もしかしたら、意外な弱点が明らかになるかもよ?」
「な……! そんなのは絶対に駄目です! 弱点を攻めるなんて卑怯な行為、正義の味方としては絶対に見過ごせません!」
めんどくさいな!
「えーっとね……相手の弱点を攻めるのも、立派な戦術だと思うよ?」
「いーえ! 正義の味方たる者、正々堂々と戦いを挑むべきなのです!」
マジでめんどくさいな!
「……なら、私の意見に賛成の人、挙手をお願いしまーす」
グレートエイミア以外全員挙手。
「はい、賛成多数で私の案が採用されました」
「そ、そんな!」
「うっさいわね! 決まったことにグチグチ言ったりするのが、正義の味方の諸行なのかしら?」
「うぐっ……せ、正義の味方は一度決まったことを翻しません。わかりました。従います……」
よっし! グレートエイミアの手懐け方法をはっけーん!
「それじゃあ真竜を探すわよ!」
「「「「「おーっ!」」」」」
「……おー……」
……グレートエイミアの覇気のない返事が、虚しく空に消えていった……。
「で、ソレイユ。どれが真竜なの?」
「ア、アタシに聞かれても……」
じゃあ誰に聞くのよ!
「……なあ。ホントにこの中にいるのかよ?」
「うん、それは間違いない」
「魔王様、そこまで断定されるのでしたら、どれが真竜なのか特定して頂けないでしょうか?」
「ごめん、それは無理なのだ!」
……役に立たねー魔王だな……。
「……サーチ、しっかりと聞こえてるわよ」
また心を読みやがったな!
「ふ……魔王を役立たず呼ばわりした報い、しかと受けてもらうわよ」
「……ちょん」
「いいいひゃいいい!? な、何すんのよ!!」
「ちょん。ちょんちょちょん」
「あああひいいいあああああ!! 止めてえ、止めてええええ!」
「魔王様、まだ傷口が塞がってないのですから、無理はなさらないで下さい!」
「おほほほほ、今の状態でどうやって報いを受けさせるのかしら〜〜♪」
「く、悔しいいいいいっ!! へヴィーナ、サーチがいぢめるぅぅぅっ!!」
「はいはい、わかりましたから……。サーチもいい加減にして下さいね?」
「は〜い、ごめんなさ〜い」
ヴィーに釘を刺されたので、これ以上は止めときます。石にされたくないし。
「それにしても……ホントにどれよ?」
目の前に無数に佇む石像を見て、ため息をつくしかなかった。この石像のどれかが真竜だ、ってソレイユは言うんだけど……。
「……一つずつぶっ壊していくしかないか」
「え……勿体無い……」
「……? 何で? 単なる石像よ?」
「でも……石像ですよ?」
「石像ね……それがどうかしたの?」
「だって……石像じゃないですか」
あああっ、話が噛み合わないい!
「ヴィーは石像フェチなのね!? そうなのね!?」
「べ、別にフェチと言うわけではありません! ただ石像の微妙なラインが気になるだけです!」
「それをフェチって言うのよ!!」
「……サーチ、ヴィー。痴話ゲンカは他所でやれぐふぉっ『かちんっ』……」
私の腹パン食らった直後にリルは石になった。表情がエグいけど……ざまあ。
「逆にさ、ヴィーは石化を解くこともできるんでしょ?」
「ええ、出来ますよ」
「なら、この石像に試してみたら?」
もしかしたら、石像に化けてるのかもしれないし。
「そう……ですね。試してみますか」
そう言うとヴィーは、石像に視線を向けて……何か呟き始めた。
「……違いますね。これも、あれも……ブツブツブツ」
……しばらく様子を見ますか。
「……?」
ん? なぜかグレートエイミアがキョロキョロしてるわね。
「どうしたの、グレートエイミア」
「私はそんな恥ずかしい名前じゃありません!」
あ、元に戻ってる。
「いつから元に戻ってたの?」
「少し前です。一体何がどうなってるんですか?」
「簡単に言えば、美徳戦士になってるみたい」
「なってるって……私、何か恥ずかしい事してませんよね?」
「…………」
「な、何で遠い目をしてるんですか!?」
「……エイミア。世の中にはね、知らないほうが良いこともあるのよ?」
「何があったんですかああああっ!?」
半泣きで叫ぶエイミア。気持ちはわかる。わかるんだけど……やっぱ言えない。
「教えてくださいよおおおはぐっ」
はぐっ?
「私が教えてあげましょう。真の正義とは一体何なのかを!」
「あーはいはい。ヴィー、見つかった?」
「こら! 私の話を「正義の味方は静かなモノよ?」…………」
こいつ、意外と扱い方は簡単だわ。
「あ、サーチ。見つかりました」
「マジで? どれよ?」
「あの一番隅の小さい像です」
………どれ?
「そんなに小さい像なんか無いわよ?」
「いえ、もっと下です」
……もっと下って……。
『ちえ。もうみつかっちゃったよ』
……はあ?