第七話 ていうか、結界を斬ることは、あの達人しかムリ?
唇をゴシゴシしながら文句を言うソレイユはさておいて、いよいよ虚空神殿が見えてきた。てっきり某マンガの神様の神殿を想像してたんだけど、まるっきり西洋のお城だった。
「……シロちゃんが喜んで管理に励みそうな城ね」
どピンクや金ぴかじゃないぶん、こっちのほうが遥かにマシだ。
「……なあサーチ。シロちゃんの城って、もう浮かぶんだよな」
「? ……たぶんね。それがどうかしたの?」
「いや、城に城をぶつけ「止めなさい」……いや、でも「止めなさいっての!」……はい」
まったく! ドイツの都市とハゲ鷹の城がぶつかるんじゃないんだから!
「大体さ、あれってソレイユの城だよ? それを勝手にぶつけちゃっていいのかしら?」
「…………止めときます」
そのほうが賢明です。
なんて言ってる間に、二つの影が私達に迫ってきた。たぶんヴィーとマーシャンだろう。
「ヴィー、こっちこっ「グレートエイミア、スタンダードハリケーン!」ってダメダメ! あれは私達の仲間!」
「……そうなのですか。何故かわかりませんが、あの蛇娘に異常な殺気を持ってしまいました」
……変なとこでエイミアの影響が残ってるのね。
「とにかく、あの二人の協力は不可欠だから! もう攻撃しちゃダメよ!」
「むぅ………わかりました」
わかればよろしい。
「サーチ、どうして此処へ?」
「グレートエイミアがせっかちだから」
身も蓋もない私のモノ言いに、グレートエイミアの眉がピクリと動いたけど、気にしない気にしない。
「成程。しかしどうすれば……」
「事情は大体ソレイユから聞いたけど、対抗策は見つかったから大丈夫よ」
「対抗策って……まさか次元食いが!?」
「あったのよ。リジーの介錯の妖刀がそれだったの」
「な、何てご都合主義な展開……」
ヴィー、それ言っちゃダメよ。
「ま、そういうわけだから……リジー大先生、出番ですよお!!」
……ベケベン!
ん? 三味線の音?
ピ〜ヒョロロロ♪ プオ〜♪
笛と尺八!?
ヒュオオオ……
なぜ桜吹雪が!?
「……斬った私は悪くない。斬られた結界が全部悪い」
何だよそれ!? ていうか聞いたことがあるフレーズだな!?
「拙者……パクり侍じゃ」
開き直った!
「斬ってみせます、この結界を!」
シャキイイン!
ズバッ! ズバズバズバッ!
幾つもの光の軌跡が宙に煌めき……。
ガチャ!
ん? 妖刀を落とした?
「だけど全く斬れなくて、手がジ〜ンとしただけですから! 残念!」
「って斬れてないのかよ!」
「何しに出てきたか、わかりません! ……斬りぃ」
あーあーホントにな!
「……ヴィー姉、治して。指折れた」
「……は、はあ……」
……ホントに何しに出てきたのよ……。
「しかし何で斬れないんだ? 次元を斬り裂くほどの剣なんだろ?」
「ん〜……たぶんだけど……使う側の問題かな」
「使う側?」
「例えるなら……いくら名剣でも、子供が振り回して木を斬れる?」
「ムリだな」
「それと一緒だと思う。リジーは刀の使い方を、あまり知らないみたいだし……」
「なら、サーチならできるのか?」
「知識はあるわ。実際にできるかは別問題だけど」
大体、呪われアイテムを使いこなせないだろうし。
「ん〜……弱ったな。つまり呪剣士で、刀の使い方を熟知してる人じゃないと……」
たぶん……この結界は斬れない。
「さ、流石にそれだけ都合の良い人物は……」
「いるぜ」「いるわ」
「いるんですか!? どれだけご都合主義なんですか!?」
ヴィーのつっこみはサラッと流す。
「……うちの婆様」
「初代竹竿」
「あ、そっか。初代なら……」
「ていうかリルのお婆さん、一体何者?」
「うちの婆様の話はそのうちな。それより、初代を呼び出せるのか?」
「ごめん、蒸し返すけどさ、お婆さんはムリなの?」
「しょっちゅうどっかへ行っちゃうから、探すほうが手間だ」
……なるほど。その点、初代竹竿なら居場所は確定してるし。
「ねえ、誰か特定の人物を呼び寄せることはできない?」
ソレイユは……MP切れか。ヴィーは首を左右に振ってるし、グレートエイミアも……ムリみたいね。
「ワシならできる」
マーシャン様々!
「できるの? 相手はゾンビなんだけど?」
「大丈夫じゃ、初代とは面識も有る故」
マジっすかーー!
「初代は≪召喚≫で登録してあるのでな」
「しょ、初代って召喚獣なんだ……」
召喚獣とは……説明の必要はないわね。
「あれだけの達人じゃ。召喚獣に昇華されていても不思議は無かろ」
確かに。
「さて、では喚ぶぞい…………我が声に答えて出でよ、並ぶ者無き剣聖よ! ≪召喚初代竹竿≫!」
………………あれ?
「……ねえ、≪召喚≫って……出てくるまで間があるの?」
「いえ………すぐ出てくるはずですが……?」
すぐ……ねぇ。
「マーシャン、どうなの? 何で出てこないの?」
「むむ? ……ちょっと待っ『遅れました!』 ぶべっ!」
何か覗き込んだマーシャンは、突然現れた初代にぶっ飛ばされた。
『呼び出しに応じ邪霊剣、通称竹竿参上しました………あれ? マスターは?』
私達は揃って、初代の背後を指差した。
『え……? へ、陛下! 一体どうされたのです!? 誰にやられたのですか!』
あんただ、あんた。
『本当に申し訳ありませんでした』
「よいよい。妾にも落ち度が有る故」
あれから平謝りの初代。やっぱり召喚者には絶対服従なのね……。
『それで、私を呼び出したのは?』
「うむ。お主ならば介錯の妖刀を使いこなせるのでは、と思うてのう」
『あの妖刀ですか……。存在したのですね』
そう言ってリジーから妖刀を受け取った。
『ふむ、なかなかじゃじゃ馬のようですが……大丈夫です』
じゃじゃ馬って……呪われアイテムを易々と扱えること自体、スゴいことなんだけど。
『それで、何を斬ればよろしいので?』
「虚空神殿の結界じゃ」
『……成程。私を呼び出された理由がわかりました。生身の者では一溜まりもないでしょう』
……へ?
「初代? 一溜まりもないって?」
『結界を斬った反動で、かなりの衝撃波が発生する。人間など骨一つ残らない程の』
「ひ、ひええ……」
リジー……危なかったわね……。
「ならばお主もただでは済むまい」
『何を仰います。元よりその覚悟ですよ』
そう言うと妖刀を上段に構え。
『では』
その一言を残し、初代は駆けていった。
「サーチ、良いのですか?」
「……これしか手がない以上……初代の心意気に感謝するしかないわ」
……やがて。
バキィィィィン!!
凄まじい閃光と共に、虚空神殿を包んでいた結界は粉々に霧散していく。
「……初代との……魔力の繋がりが……切れた」
マーシャンの一言が、初代の犠牲をイヤでも悟らせた。
「……世界の為に散った初代竹竿に……黙祷!」
ソレイユの号令に従って、全員が頭を垂れた。
……初代、安らかに……。
『ふ〜、やっぱり凄い衝撃波だったわ』
……へ?
まさかと思って目を開くと、そこには初代の姿が……何で!?
『ふーい。ゾンビがゴーストに変わってしまったわ。あ、この妖刀は返しますから』
そう言ってリジーに妖刀を返すと、フヨフヨとどこかへ飛んでいった。
「………黙祷、返してよ……」
……雰囲気、台無し。