第四話 ていうか、ドラゴンが白旗振ってやって来た!
「……???」
何故か急に撤退していったドラゴン達を「?」マークで見送り、この空気をどうしようか……と真剣に悩んでいた。例えるなら、赤帽ヒゲおやじとのカートの対戦で、相手がスタートと同時にバックで逃げていった心境だ。
「………あ、ドラゴン発見。こっちに向かってる」
「……! あの撤退は見せかけか……! リル、もう一回お願い!」
「任せとけぃ! アニャアアアアア……」
ギリギリギリ……
再び≪身体強弓≫を使って攻撃体勢に入る。
「サーチ姉」
「何!?」
「ドラゴンは一匹、白旗を振りながら飛んでくる」
「「……は?」」
ばひゅん!
「「「あ」」」
集中が切れたことで、リルはつい短槍を発射してしまい……。
イイイィィィ……ずどっ
「……当た〜り〜〜」
グギャアアア……
ひゅ〜……ずどおん……
「……や、やべ……」
「リジー、ドラゴンは生きてる!?」
「……しばしお待ちを……………あ、翼を広げた。生きてる」
……はあああ……助かった……。
「……でも足に刺さった槍を引き抜いて、滅茶苦茶怒ってる」
だろうな。
「あ、こっちに飛んできた。射ち落とす?」
射ち落とすな。
「……仕方ない。謝ろう」
「それしかないな」
「是非も無し」
ホンットに、どこで覚えてくるのかな!?
『貴様らああ! 白旗を上げている相手に攻撃してくるとは……! 誰だ、矢を放ったのは!?』
「「こいつです」」
「ニャッ!?」
『お前かああ! 食ってやる! 食ろうてやるぅぅぅ!!』
「フギャ!? ニィアアアアアア!!」
リルを追っかけ始めたドラゴンの背後に回り、羽扇を≪偽物≫で伸ばす。
シュルル
『ぐげぇ!』
ドラゴンの首と右手? 右前足? を鉄のムチで縛り、動きを封じる。
そしてリジーがドラゴンの喉元に、妖刀を突きつけた。
「動かないで。この妖刀はドラゴンのブレスをも斬り裂く。あなたの首くらい、簡単に斬り落とせると思われ」
『うぐぐ……ぐぬ……くふぅお!』
ドラゴンは左手? 左前足? でムチをパンパン叩く。あ、首が絞まり過ぎて息ができないのね。
『はあああ……はあああ……。も、もう少しでドラゴン初の絞殺にされるとこだった……』
いいじゃん。ドラゴンの歴史に名前が残るわよ。
「で? 一体何の用なの?」
『そ、それよりも! あの猫女を一発殴らせろおおおっ!!』
「あの子、ソレイユの友達でもあり、先生でもあるんだけど……」
『な、何ぃぃ!?』
ダイエット指南だけど。
「そんな魔王様の賓客に、危害を加えたら……どうなるかしらね?」
『うぐぐぐ…………し、仕方ない。今回の事は水に流そう……』
それは良かった。
「安心しなさい、傷の治療くらいはしてあげるから……お願いね、深爪先生」
「誰が深爪先生だ!?」
すると、ドラゴンが大口を開けて固まった。
『ふ、深爪……だと……』
「? ……そうよ。この子が〝深爪〟のリル」
『うわああああ!! 嫌だああああ!! 深爪だけは勘弁して下さああああい!』
突然泣き叫び始めたドラゴン。私達は唖然とするしかない。
『ア、アブドラが率いる精鋭部隊を、深爪のみで撃退した、伝説の極悪非道猫獣人〝深爪〟のリル。まさか本当に存在したとは……』
「……あれやったの、サーチじゃなかったか?」
「どうやら、あんたの偉業の一部に加わっちゃったみたいね」
「いらねえよ!」
「でもチャンスだわ。リルが問い質せば、全部ゲロってくれるかも」
「っ……し、仕方ねえ」
リルはドラゴンに近寄ると。
「おい! 深爪されたくなければ、私の質問に答えろ。少しでもウソをついたら、速攻で深爪してやるからな!」
『わ、わかりました! 話します、話します! ですから深爪は勘弁して下さい!』
……すげえ、ドラゴンの半泣きだ。
「よし、素直に答えろよ………で? 何を聞けばいいんだ?」
「まずは、ここに攻め寄せてきた目的かな」
「わかった……何でここに攻めてきたんだ?」
『わ、我らの巣を木っ端微塵にした者が、ここに逃げ込んだのです。それで、其奴を引っ捕らえる為に』
……スワリの言ってた通りね。
『其奴は我らの至宝をも奪っていきました。そこまでされてはドラゴンの名折れ。必ず引っ捕らえ、報いを受けさせようと』
「ドラゴンの至宝?」
スワリが盗んでいったって言いたいわけ?
『巣を破壊するだけでは飽き足らず、我らが長年守ってきた至宝を奪っていくとは……!』
「ちょっと待って。スワリは確かに超おっちょこちょいの破壊魔だけど、盗みを働くような子じゃないわよ?」
リルとリジーも頷く。
『し、しかし、其奴が巣に突っ込んできてから行方不明になっているのだ。盗まれたと考えるのが自然であろう!』
「……木っ端微塵になった巣にはなかったの?」
『皆で必死に探した! だが、なかったのだ!』
……ふむ……なら、あり得るとすれば……。
「ちょっと待ってて。確かめたいことがあるんだけど」
『何だ?』
「その至宝って、どういうモノなの?」
『至宝は、このように細長く……』
「スワリ! スワリィィィィィ!!」
バーンッ!
「きゃあ! サ、サーチ!? 何事ですか!」
勢い余って治療室のドアを蹴破っちゃった。てへ。
「スワリはいる!?」
「スワリでしたら、ケンタウルスさんが治療中」
「誰ですか! ……あら、サーチでしたか」
「ケンタウルス女医さん! スワリは今しゃべれますか?」
「喋れますけど……その長ったらしい呼び名は何とかなりませんか?」
「じゃあケン女さん!」
「…………まあいいんですけどね。スワリ、サーチが用事があるそうですよ」
「ふぇ!? けけけ怪我が重傷化して話せましぇん!」
「白々しいウソつくな! モノスゴい重要なことなんだから!!」
「じゅじゅ重要な事ですか!?」
「あんた竜の巣につっこんだとき、何か持ってきたモノはない?」
「へ?? 持ってきたモノって………何でしょうか?」
「細長いキラキラした、杖みたいなモノ!」
「……あ! もしかして……これですか?」
スワリはベッドの下から、どピンクのハートと星だらけの杖がでてきた。
「それよそれ! 何であんたが持ってるのよ!?」
「え? そ、その……竜の巣にぶつかった後、急に背中が痒くなって……何か掻くモノが無いかな〜って探してたら」
「『七つの美徳』を孫の手にするなあああっ!!」
『おおっ、それだ! その神々しい光……間違いない!』
……神々しいの? これが? 百均のオモチャみたいなもんじゃない。
「……何で竜の巣に?」
『遥か昔に、神々しい戦士から守るように命じられた……と聞いている』
……先代の美徳戦士かしら。
「ねえ、この杖を貸してもらえないかしら?」
『む、むう……我の一存では……』
「深爪」
『ひぃぃ! どうぞどうぞどうぞ!』
……ソレイユ達に何て説明すれば……。