第一話 ていうか、正面から攻めてダメならサイドからチクチクいくしかないでしょ!
いよいよ七冠の魔狼編もクライマックス。
「……じゃあ私がマーシャンと話して」
「私がニーナさんと協議すればおk?」
「さっき説明した通りのことを伝えて。補足が欲しいってことなら、そのときは私が代わるから」
「「わかりました」でござーる」
……リジーのキャラがだんだんとわからなくなってくる。
「しっかし、思いきった作戦を考えたな」
「回廊を進むことができない以上、他の場所からアプローチするしかないでしょ。で、可能性があるとしたら……外側からの侵入」
だから魔術の専門家と結界の専門家に意見を求めたのだ。
「とんでもない規模の結界だぞ? ぶち破ることができるのか?」
「それもわかんない。ホントに手探り状態なのよ」
私とリルが協議していると、ヴィーがソレイユと一緒に来た。
「ソレイユ、動いて大丈夫なの?」
「あんまり大丈夫じゃないけどさ〜……そうも言ってられないでしょ」
「とりあえず傷は塞ぎました。多少痛いでしょうが、少しでしたら会話は可能です」
「へヴィーナ……痛いなんてもんじゃないんだけど?」
「≪鎮痛≫はかけてありますので我慢して下さい。そもそも魔王様が、七冠の魔狼に喧嘩を売るからいけないんですよ?」
「何を言うか!! 我が城に土足で踏み入った輩を、そのまま見逃せと申すか!?」
「急に魔王口調で言っても誤魔化されません! もしも魔王様の御身に何かあれば、モンスターにとっても、世界にとっても、取り返しがつかない事態になるのですよ!!」
「し、しかし……魔王としての沽券に関わるし……」
「我慢すべきを我慢する。退くべきときは退く。それができてこその魔王ではないのですか!?」
「うぐっ……」
は〜い、論破。
「……というわけだから、今回はオブザーバーとして参加してね、魔王様?」
「わ、わかったわよぅ……ちぇ、あんなに素直だったへヴィーナがすっかり擦れちゃって……」
「誰が擦れたんですか!!」
「擦れたと言うよりはサーチに骨抜き『かちんっ』…………」
……リルは懲りるって言葉を、いつになったら理解するのかしら?
「それでソレイユの見解を聞きたいんだけど……今回の作戦、どう思う?」
「無謀」
一言で片づけやがったよ!
「でも……七冠の魔狼に正面からぶち当たるのは、更に無謀。なら、まだマシな方に賭けてみるしかないわね」
「……そこまで結界破りは難しい?」
「難しいと言うより、外側から破れるような結界は、その時点で不良品だよ」
……確かに。
「けど結界に関しては、アタシも詳しくないから……ニーナ・ロシナンテに頼るしかないわね」
その時、リジーが部屋に飛び込んできた。
「サーチ姉、サーチ姉! 幾つか結界を破る方法があるって!」
マジで!?
『一つ目は強力な武器を用いての相殺を狙う方法です』
結局、私がニーナさんと会話することになった。ニーナさん曰く『リジーでは埒が明きません』とのこと。
「ニーナさんの話、ちんぷんかんぷんちん」
……私が最初から念話したほうがよかったわ。ていうか「ちん」が多い。
「武器での相殺って……相当強力な武器じゃないとムリなんじゃ?」
『〝死神の大鎌〟クラスですね』
はい、ムリ〜。
「他には?」
『嘆きの竜のブレスですね』
はい、ムリ〜。
「……他には?」
『私も見た事がありませんが、次元食いで結界を斬り裂く』
「な、何ですかそれ?」
「次元を斬る事ができる剣よ。何本か現存してるらしいけど……」
時間がないのに今から探せと?
「か、確実に『ここにある!』って言えるのは……」
「ない」
『聞いた事がありません』
っのおおおおっ!
「次! 次次次次次!」
『……可能性は低いですが……結界の綻びを探し出すしかありませんね』
「結界の……綻び?」
「どんな結界でも、他より薄い箇所があるの。そういう箇所を『綻び』って言うのよ」
『特に大規模結界ともなれば、必ず綻びは生じます。そこを見定めて、一斉に攻撃すれば……あるいは』
「その結界の綻びって、誰でもわかるモノなの?」
『魔術士でもかなりの腕利きじゃないと難しいでしょうね。例えば……ハイエルフの女王クラスの』
まさかのマーシャン待望回キタ―――(°∀°)―――!!
「エイミア、エイミアー!!」
バタバタとエイミアが籠る部屋に向かう。途中で「ア、アタシを置いてくなああ!」 という叫びが聞こえたような……?
バンッ!
「きゃっ!? サ、サーチ?」
「ちょっと代わって! もしもしマーシャン?」
『な、何じゃ。何事じゃ。相変わらす慌ただしいのぅ』
「単刀直入に言うわ! 結界の綻びを見定めてめてほしいんだけど!」
『……ふむ。ニーナもその手段を考えたか。実際に現実的な手はそれしかないのう』
「で、どうなの? できる? できない?」
『結論から言えば出来る。実物を見てみんと何とも言えんがの』
「……別にMPは必要ないわよね?」
『綻びの見定めじゃろ? 見るだけじゃからMPは必要ないよ』
よっしゃOK!
「じゃあ今すぐ転移してきて!」
『な、何じゃと!?』
「世界の命運がかかってるんだから、四の五の言わずにさっさと来てよ!」
ブツンッ
「……よし。悪いけどソレイユとヴィーも協力してね」
「「……」」
「……何よ。二人して黙り込んで」
「……いえ……」
「アタシ、初めてサーシャ・マーシャを可哀想に思えたわ」
「うっさいわね! あんた達にもキリキリ働いてもらうんだから、覚悟しなさいよ!」
「は、はい」
「……アタシ怪我人なんだけど……仕方ないか」
「……久々に会うというのに……何ともドタバタじゃのう」
私の言葉通りに、すっ飛んできてくれたマーシャン。いきなり転移してきたせいか、少しお疲れのようです。
「ありがとマーシャン。さっそくで悪いんだけど……」
「わかっておる。七冠の魔狼が回廊内にいる間に虚空神殿に先回りしたいのじゃろ? やれるだけの事はする」
「お願いね! ヴィーもソレイユの介助を頼むわ!」
「介助言うな!」
怒るソレイユをサポートしながら、ヴィーは苦笑した。
「それじゃ行くわよ〜……≪飛行≫」
ソレイユの聖術によって、三人が浮遊していく。虚空神殿ギリギリまで近づいて、結界の状態を調べるのだ。
「……頼むわよ、みんな。時間との勝負なんだから……」
「……んー? …………あ、ヴィー姉はピンクなんだ『かちんっ』…………」
……よく見えたわね、リジー。ていうかヴィーもよく石化できたモノだ。