第二話 ていうか、温泉回?
あー、湯けむりが香る……これよ、これが温泉ってものよ……!
前世でも仕事が片付くとあちこちの温泉に出掛けたっけ。
「何だかんだ言ってサーチが一番ノリノリだよな」
「一番シブってたのに」
何の事かしらね〜♪
「まずは拠点よ拠点♪ どこへ泊まろうかしら♪ 何を食べようかしら♪」
「……サーチ、音符が入り過ぎですよ」
「まずはギルドだろ! あの変態ギルマスの話聞いてただろ?」
…………。
はあ……テンションが一気に最下層突き抜けてさらに下がったよ……。
「……そうね、そうだったわね……まさかここまで来てあの顔を思い出すハメになるとは……」
「……そうですね……あの虫酸が走る視線が頭を過ります……」
あーあ。エイミアまで……。
「な、なんか私が悪いことしたみたいじゃねえか……」
したのよ。
「まあいいわ。ギルドに行かなきゃならないのは事実だし」
気持ち切り替えて、逝きますか。
あ、字が違った。
「サーチ、お前嫌いなものから食べるタイプだろ?」
「そうよ……なんで?」
「いや、別に」
リルの妙な納得顔がひっかかるけど……ま、いいか。
「へー……大きい建物ね」
「前の町よりは規模は小さいからね、ダウロは」
「……なんで規模が小さいのに建物は大きいんだよ」
「土地代が安いから」
こういうところはどの世界でも同じなのね。
「立ち話してても仕方ありませんから行きましょう」
「……エイミアもヤケに急かすわね」
「私も温泉に入りたいんです!」
納得。
ギルドに入ると桧のいい香りがした。
……桧だよね?
「うわあ……広いですね……」
「前のギルドはほとんど酒場だったしなー……」
やはりどの世界でも同じなのか、ギルド=酒場の構図は共通している。
町の規模が小さいところだと、武器防具や魔道具の扱いまであるギルドも珍しくない。
その点ダウロのギルドは違う。酒場はあるにはあるが別棟に設置されている。お酒にあまり興味がないエイミアには良く見えるのかな。
リルは……。
「酒場の無いギルドなんてギルドじゃない!」
……酒呑みになる確率大ね。
私も嫌いではない。ただ未成年だから飲まないだけで。
「でもトラブルは少ないらしいわよ。酔った冒険者が絡んで……なんてテンプレまずないみたいだし」
だいたい絡まれるのが新人冒険者なのよね。だから私達も危ない。
「てんぷれ?」
「あー……気にしないで気にしないで」
「……サーチってたまに変なこと言うよな。この前もおーけーとかせーふとか」
「……さすが猫耳。よく聞いてるわね」
「一体何なんですか?」
も〜今日はヤケに食いついてくるわね……仕方ない。院長先生、ごめんね。
「私がいた孤児院の院長先生が言ってた古代の言語!」
「「古代の言語!?」」
ちょっと無理があるけど押しきる!
「おーけーが了解って意味でせーふが安全て意味。はい終わり……ていうか、すいませーん」
無理矢理会話を打ち切って受付へ向かう。するとウサギの耳を生やした獣人が出てきた。
「はい、何か」
「ギルマス……ギルドマスターからダンジョン行く前に各地のギルドに顔を出すよう言われたんですが」
「えーと……パーティ名は?」
え……?
「……名前?」
「竜の牙折りだ」
リルが答える。
……そういえばリルに登録任せたっけ。でも竜の牙折りって……中二病ムンムンじゃん……。
「竜の牙折り……クス」
ほらああ、笑われたじゃん!
(リル、なんであんな恥ずかしい名前にしたのよ!)
(私が決めたんじゃねーよ! 無理矢理ギルマスの野郎が……)
あいつかーーー!
(あいつ……いつか殺る……)
「……ありました」
水晶に魔力を送っていた受付の人がいった。あの水晶でわかるんだ……前世のインターネットみたいなものかな?
「えーと……パーティ名竜の牙折り……結成時から飛び級でDクラス……すごいですね……え!? 竜殺し!?」
そこまでわかるんだ。あの水晶欲しいな……。
「し、失礼しました! 少々お待ち下さい!」
慌てて奥に下がる受付の人……ていうか、これって嫌な予感しかしないんだけど……。
「……まさかギルドマスター登場?」
リルが呟く。
……エイミアが青ざめる。私達ギルドマスターが最大のトラウマになってる気がする……。
「ごめんなさ〜い。ちょっと待っててね」
「「「!!!」」」
変態ギルマスと同じ声……何! 何なの!?
この世界のギルドマスターってまさかの有名な一族総女医さん化!?
「お・ま・た・せ!」
……。
……。
ぎゃああああ!
「……はうっ」
エイミア倒れた。
「何も見えない聞こえない何も見えない聞こえない……」
リル現実逃避した。
ま、まさかこう来ますか……。
このダウロのギルドマスターは。
女装した変態ギルマスだった……!