第十九話 ていうか、この骸骨剣士、ただ者じゃない……!
何よ、そのウイルスみたいなヤツは!?
「モンスターの中には、稀に強力な個体が生まれる事があります。それらの事を変異モンスターと呼びます」
ミュ、ミュータントですって!? それってエルフにも……。
「その一種が耐性モンスターです。ある特定の属性を無効化できるのですが、最大の特徴は……」
「……その耐性を、次の世代へ遺伝させることができる……でしょ?」
「そ、そうです! よくわかりましたね!」
≪前世の記憶≫の賜物よ。
「そんな耐性を代々受け継ぐ途中で、かなり高い確率で他の耐性も獲得します。それが繰り返され……」
「……とんでもない無敵モンスターが誕生っての? でもそれはあり得ないんじゃ……」
「勿論、ダンジョン産モンスターに生殖機能がない以上、それはあり得ません。あり得るとすれば、私達のような意思を持つモンスターです」
「…………そういう事か。あの骸骨剣士は生前が耐性モンスターだったわけね」
「ほとんどの耐性モンスターは、人間達の魔術には対抗できずに死んでいきました。多分、その誰かがゾンビ化したのでしょう……」
「ほとんどの……ってことは、生き残りもいるわけ?」
「! …………すみません。その話は魔王様の許可が無いと話せないのです」
……ソレイユの許可、か。
「わかったわ。この話はとりあえず置いといて……あいつの耐性は何だと思う?」
「今のところ判明しているのは、聖属性と火属性ですね。弱点に対して耐性を持つとなると……少々厄介ですね」
「普通の物理攻撃も効いてなかったんじゃない?」
「元々骸骨系全般には、物理攻撃は効果が薄いですから」
なら。
「ヴィー。今からあんたの苦手な金属を出すから、イヤなら離れてなさい」
「ミスリルですね。わかりました」
ヴィーは100mを五秒で走る勢いで、私から離れた。ていうか、そこまで苦手なのかよ!
「サーチ、頑張って下さーい!」
……チアリーダーでもやりそうな勢いで応援を開始する。まあいいんだけどね……。
「≪偽物≫!」
羽扇をミスリル製の短剣二本に作り変え、左手だけ逆手に持って構える。骸骨剣士もボロボロの騎士剣を斜めに構えた。
「……ちぇい!」
先攻は私。まずは右手の短剣を頭上に振り下ろす。
ぎいん!
当然、その一撃を騎士剣で受け止める。その隙に、左手の短剣を下から斬り上げる!
ザンッ!
見事に骸骨剣士を捉え、右の脇から首まで切断する。よし、決まった。
ガラガラガラ……
崩れ落ちる骸骨剣士を確認してから、短剣を羽扇に戻した。意外とあっけなかったわね。
「ヴィー、終わったわよ〜……」
ぞくりっ
………!
急に背後に寒気を感じ、前へ転がって退避する。
ぶうんっ!
元々私がいた空間を、骸骨剣士の騎士剣が通過した。
……ハラリ
ギリギリでビキニアーマーを掠めたらしく、肩ヒモの部分が斬れて落ちた。あ、危なかった……!
「サーチ!?」
「まだ来ちゃダメ! こいつ……ミスリルに対する耐性も持ってるわ!」
あっという間に元に戻る骸骨剣士。そのまま動く気配はない。
「……ヴィー、ちょっとこれ預かってて」
肩ヒモが切れて邪魔なだけのトップを外し、ヴィーに投げる。代わりに布を巻いてブラにする。
「さて……参ったわね。攻撃しても効かないばっかりじゃ……」
「他の属性では効果が薄いですし……他の耐性を持っている可能性もあります」
聖術を使うヴィーを狙われたら話にならない。
「うーん……毒も効かないだろうし……あ、そうだ。回復聖術は効くんじゃない?」
何かのゲームで、ゾンビ系には回復系の魔法でダメージを与えられる描写があったのを思い出した。
「反転作用を利用するのですね。一応効きますが……」
一応?
「効果は薄いです。最強クラスの回復聖術でも……≪聖々弾≫に及ばない程度です」
「でも、何もしないよりは……」
「そう……ですね。試してみてもいいですね。行きます、≪回復≫!」
ヴィーの回復聖術が骸骨剣士を包む。すると。
ウゲェアアア!
……効いてる! 明らかに苦しんでる!
「いけるんじゃない!?」
「……いえ。あれは……ただ苦しんでるだけです。おそらくダメージは……」
その瞬間、骸骨剣士は凄まじい速さでヴィーに斬りかかった!
「え……」
がぎいん!
「ま、間に合った!」
骸骨剣士の一撃を盾で受け止め、おもいっきり蹴飛ばして距離を空ける。
「こいつ……有効な攻撃してきた相手にだけ攻撃し返してる?」
「≪反撃≫ですね。これは逆に手を出せません……」
≪反撃≫のスキル持ちか。厄介な……。
「……ってことは。あいつは一発で倒さないとダメってことか」
≪反撃≫は、受けたダメージを倍にして返すスキル。強力な一撃を放って倒しきれないと、こっちの方がヤバい。ヘタに攻撃もできないわね。
「今のところ、効くのがわかってるのは回復系だけ。しかも有効なダメージは望めない……」
「他の属性も耐性を持っている可能性が大。しかも≪反撃≫がありますから、確実に倒せる威力がないと……」
「……ちなみに、ヴィーの最高の回復聖術は?」
「≪完全回復≫ですが……それでも致命傷を与えるのは難しいですね」
倒すことができないとなると、≪反撃≫の危険性が増すか……。
「今までの傾向から、一定の距離に近づくか有効な攻撃をしない限り、何もしてこないわね」
「≪反撃≫出来ない場所から攻撃すれば……」
「それで≪反撃≫を阻止できるの?」
相当強力なスキルだって聞いてるから、障壁無効の可能性もある。
「そうですね……。危険を冒す必要はないですよね……」
「……何か方法はないかしら……一撃で仕留める方法は……」
回復聖術しか効く保証はないし…………ん? 回復?
「ねえ……回復アイテムならどうかな?」
「え、ポーションですか? 効果はあるでしょうけど……」
……試しに一本投げてみるか。えい。
ひゅーー……がちゃん!
グワアアア!!
あ、効いてる! ……ってうわっ!?
ぎいん!
「り、律儀に反撃してくるわね……」
で、一回反撃してから、そのまま帰っていく。これも律儀というかムダというか……。
「効果がある事はわかりましたけど、あの様子ではポーションを全て投げつけても、倒せるかは微妙ですよ」
もっと強力なポーションじゃないと……。
「一番効果が高いポーションはどれですか?」
どれって言っても……。
「……これですか?」
これ。
「これしか無いんですか?」
これしかない。
「勿体無いじゃないですか!」
わかってるけど! これが一番なの!
「エリクサーですよ! これ投げちゃうんですか!?」
「仕方ないじゃない! ハイポーションじゃ絶対に倒せないわよ!」
「で、ですけど……!」
「問答無用! 私だって……私だって悲しいんだからあああっ!」
そう言って私は。
ブンッ!
ヒュウウウウン…………がちゃん!
……投げた。
グゥアアアアア!!
ジュワアアア……
さすがにエリクサーの回復力はスゴい。耐性モンスターの骸骨剣士も、次第に崩れていき……力尽きた。
「ううん……ふああぁぁ……良く寝た」
「「……しくしくしく……」」
「あれ? サーチ姉、ヴィー姉、何故泣いてる?」
「「うるさい!」」
「……?」
……初めてのエリクサーは……骸骨剣士と共に……。
消えた。