第十六話 ていうか、リバースタワーの攻略を始めたんですけど……。
指定された部屋に入ると。
『歓迎! 魔王様を讃える会』
……という立て看板が、真っ二つになって転がっていた。たぶん、ソレイユの仕業。
「入口らしきモノは……ありませんね」
少し待ってろって言ってたから、しばらくすれば階段でも現れるでしょ。
……十分経過……。
「魔王様もお忙しいですから……」
……まあ……仕方ないわね。
……二十分経過……。
「……魔王様、そんなに忙しい?」
「お、おそらく……」
ヴィーがどこまでソレイユを庇えるか、見モノね……。
……一時間経過……。
「ヴィー姉、殴っていい? 魔王様殴っていい?」
「駄目です! もう少し、もう少しだけ耐えて下さい! もう一時間待たされたら、私も殴りに行きますから!」
ヴィーがバクダン発言をするほど、全員イラついている。
「……まあいいわ。私が……」
羽扇を≪偽物≫でハンマーに変化させる。
「ソレイユぶん殴ってくるからあああっ!!」
どがあああんっ!!
怒りにまかせてドアを粉砕する!
「はあああ……ちょっとスッキリした……ってあれ?」
粉々になったドアの向こう側に広がるのは、広い一階のホールではなく……。
「……どこ? ここ……」
……薄暗い洞窟の壁面が道を囲っていた。
『あ、ごめぇぇぇん! じばらくしたらドアを開けろって言い忘れてた』
……なるほど。部屋ごと移動したってことか。
「……私もさ……つい、ドアを木っ端微塵にしちゃったんだけど……」
『そっか〜、ついドアを木っ端微塵に…………ってはああああっ!?』
すげえ、魔王様のノリつっこみ。
『何て事を……! そのドアは異空間を繋ぐ為の大切な……!』
げっ。この展開は。
「……まさか……もう移動できない……とか?」
ソレイユは神妙な顔をして頷いた。
『サーチ……あんたは何という事をしてくれたのよ。これであんたも、ヴィーも、リジーも。全員戻れなくなってしまったのよ』
「……別に脱出用アイテムあるし」
「……魔王様が転移してくれれば」
「……最悪は穴掘って脱出できる」
『…………ちぇ。少し驚かしてやろうと思ったのに』
……バレバレだって。ソレイユ、めっちゃニヤニヤしてたし。
『でもドアを壊したのはペナルティだよ〜』
「う! そ、それは……ごめんなさい……」
『アタシが言い忘れたのも悪かったんだし……今回はこれでチャラね?』
そうしていただければ。
『道は一本道の螺旋構造、モンスターは弱っちいから問題無ーし。じゃあ頑張ってね〜〜』
「そうね……ならさっさと片づけて温泉に入ろっか!」
「そうですね……早く石化を解いてあげた方が良いでしょうし」
「リル姉とエイミア姉のリアクションが怖い」
……そうね……急ぎましょう。
ヴィーは杖を、リジーは梯子と黒剣を取り出す。私はランプを取り出して火を灯し、先頭に立った。
「私が前衛、真ん中にヴィー、後衛がリジー。私は前からの敵と罠を警戒するから、リジーは背後からの奇襲を警戒して」
「わかって候」
……リジーはどこで覚えてくるのよ、こういうこと……。
「それと、ヴィーはマルチで警戒しといて」
「わ、私は随分とアバウトですね」
「ヴィーは機転が利くから大丈夫よ。信頼してるわよ」
「は、はい! うふふ……♪」
……これだけでやる気になってくれるヴィーは、とってもお手軽。
「ソレイユの話だと手強いモンスターはいないらしいけど、油断は禁物だからね?」
「わかっています」
「心得た」
……リジーは時代劇でも見たのかしら……。
「じゃあスタートよ。最初は早めに進むからね」
そう言って私から歩き出す。そのあとをヴィー、リジーの順番で進む。
「螺旋構造の一本道なのですよね? なら背後からの襲撃は心配する必要はないのでは?」
ヴィーの言葉を聞き終えてから、近くの壁を羽扇で叩いた。
ビシッ! ガゴゴ……
叩いた壁が左右に開き、ぽっかりと空洞が出現する。
「え、ええ!?」
「さっきから壁からの気流を感じていたわ。こういった空洞はあちこちにあるみたいだから、そこに敵が潜んでいる可能性もあるでしょ?」
「……そうですね。すみません、油断していました」
「いいわよ。今度から気をつけてくれれば」
問題は……。
「ふんふんふふ〜ん♪ 余裕綽々でござ〜る……ってひああああっ! 背後から敵があああ!」
何度怒られても学習しないリジーね!
「だから油断大敵だって……言ったでしょうが!」
どがあっ!
リジーに刃を向けていた骸骨剣士を蹴り飛ばす。
「サーチ姉、かたじけない」
……もうつっこむのは止めよう。
「ほらほら、今は蹴飛ばしてるだけだから、とっとと止めを刺してって!」
「え……?」
「? どしたのリジー? ほら、さっさと殺って!」
「……サーチ姉、もう滅んでる」
へ!?
……あ、ホントだ。蹴飛ばしたヤツ、全部チリになってる。
「おっかしいな〜……そんなに強く蹴ってないんだけど……」
骸骨剣士って結構クラスが高かったはずだけど……?
「でも見ていた限りでは、蹴られた瞬間に木っ端微塵」
……マジで?
なら羽扇で殴った場合は……?
あ、手近な位置に骸骨剣士発見。
ズビシィ!
ザアアア……
ありゃ、一撃か。
……もしかして……ここの骸骨剣士って弱い?
「ねえ。次はリジーが倒してみてよ」
「? ……わかった」
リジーは梯子を飛ばすと、自身も不殺の黒剣を構えて走る。
ガン! バキバキィ!
梯子が次々と骸骨剣士を砕き。
ザンッ! ザクン!
リジーが細切れにしていく。あれ、やっぱり弱いのかな……?
「危ないリジー!」
すると後ろで見ていたヴィーが、≪聖々弾≫を放った。
ズドオオン!
グギェァァァァ……
リジーの足に噛みつこうとしていた頭蓋骨にヒットする。
「リジー、そいつらの頭を砕かないとダメよ!」
「畏まって候! 梯子は頭を狙って!」
梯子に指示を出すと、リジーも骸骨剣士の頭を集中的に狙って攻撃した。
「はあ、はあ、はあ……」
「リジーお疲れ。どうだった、骸骨剣士は?」
「はあ、はあ……結構……強敵……」
……そっか。
「……かなりの疑問……。私の攻撃では一撃で消滅しなかったのに、サーチ姉は蹴りだけで倒した」
「……そういえば……そうですね。サーチ、何かコツでも?」
コツって言われても……長年の経験で、相手の弱点が分かりやすいっていうか……。
ん? スキル欄に新しいのが……?
何よ、≪急所攻撃≫って?