第十五話 ていうか、久々にソレイユと対面したんですけど……口は災いの元だった。
「……あ、裏口はここですね」
私達は超豪華な夕ご飯のあと、表門からぐるりと半周する。すると以前にきた裏口があった。
「誰かいるのかしら?」
「魔王様が不在でも、デュラハーンさんはいらっしゃるはずです」
そう言ってヴィーは裏口のドアをノックした。
コンコン
ではない。
どごおおん! どごおおん!
である。さすがはヴィーの≪怪力≫だ。塔が揺れてる気が……。
「……ドアがよく壊れねえな……」
「もしかして対ヴィー加工が施されているんじゃ」
かちんっ
……リルとエイミアが石化。口は災いの元だと、いつになったら学ぶのやら……。
「……おかしいですね、反応がありません。もっと強く叩かないと駄目でしょうか?」
いや、マジで崩れるって。
「聖術で呼び出すとかはできないの?」
「出来なくはないですが……同じように聖術が出来る魔王様しか反応しません」
……なら念話したほうが早いわな。無限の小箱から念話水晶を取り出そうとしたとき。
ぴんぽーーーん♪
「……これで応答してくれる、と思われ……」
…………。
……ここ……〝八つの絶望〟という、最難関ダンジョンのはずなんですが……。
『……はいはーい♪ ど・な・た・か・な☆』
魔王自ら応答したよ! フットワーク軽すぎだっつーの!
「すみません魔王様。へヴィーナでございます」
『あ、やっと来たよ〜。待ちくたびれたぜぃ! ささ、ずずずい〜〜っと中に入ってちょうだい!』
ギィィィ〜〜
「ごめんごめん、お待たせ……それにしてもこのドア、ここまで立て付け悪かったっけ? もう少しすんなり開いた気がするんだけど……」
……原因は、そこで鳴らない口笛を吹いて誤魔化してる蛇娘だと思う。
「まあいいや。デュラハーン! デュラハーンはいる!?」
「はい、ここに」
「おお、早いね。早速なんだけど、一つ用事を頼まれてほしいの」
「何なりと」
「このドア直しといて」
「承りまし……は?」
「じゃあよろしく〜〜。これが道具箱ね」
「あ、あの……『どがしゃあん!』 ぐぼおっ!」
「……ちょっとソレイユ。デュラハーンさん、空中から現れた道具箱の下敷きになってるわよ?」
「大丈夫よ、多分。そのうち自分で脱出するでしょ」
「魔王様、またデュラハーンさんと口喧嘩を?」
「だってさ! あのわからず屋が、アタシが決めた事にいちいち難癖つけてくるんだから!」
「難癖って……どんな?」
「今日の夕食は肉だって言ってんのにデュラハーンは『魚一択でございましょう!』 とか言ってくるし、次回の視察は汚泥内海にしようって言ってんのに『いえ! 堕つる滝にしましょう!』 とか言ってくるのよ! おかしいでしょ!?」
すっげえどうでもいいわ。
「アタシとしては汚泥内海の近くのサクランド温泉に行きたいわけ。だけどデュラハーンは堕つる滝でバンジーがしたいって言うのよ! おかしくない?」
「ソレイユが正しい」
温泉こそは正義なり。
「でしょ!? やっぱりサーチは最高の友達だよ〜〜」
ハグし合ってお互いの友情を讃え合う。
「……サーチ姉、もしも魔王様がバンジー選んで、デュラハーンさんが温泉選んでたらどうする?」
「無論、デュラハーンさんを全面的に応援する」
「何で!?」
「私は誰の味方でもない、温泉の味方」
……あれ? ソレイユがブルブル震えてるんですけど……?
「……アタシの友情の証を返せええ!」
「ム、ムチャなことを言わないでよ! 私は当然のことを言ったまでで」
「まだ言うかああああっ! あんたと友情を確かめ合った際の感動を返せええええ!」
え? ちょっと、何でソレイユの周りに不穏なオーラが……?
「魔王撃第三の章『鉄槌』……くらええええっ!!」
な、何でええええええええ!?
どっがああああん!
「ぎぃああああああああ!!」
……口は災いの元って……私にも当てはまるのね……がくっ。
「それで? あんた達はアタシを怒らせる為に来たの?」
「違うわよ。ようやく『七つの美徳』の象徴が五つ揃ったから、もう一つを回収しにきただけ」
「もう一つ……って事は、暴風回廊のヤツを?」
「そう。ここの真竜って……ソレイユ?」
「違うわよ。何で魔王のアタシが真竜まで兼任しなくちゃならないのよ」
……確かに。聞く限りだと、真竜は魔王よりも格下みたいだし。
「じゃあ……誰?」
まさか……デュラハーン? いや、奥さんのケンタウルスかも……。
「まだサーチ達は会った事はないよ」
「なら、一体どこにいるのよ?」
私達は暴風回廊を攻略した際に、ほとんどのエリアを走破した。だからこの塔には知らない場所はない……はず。
「まあアタシでも、数回しか会ってないくらいだからね……。サーチ達には実際に会いに行ってもらうよ」
「だから……どこに?」
ソレイユはにっこりと笑って、下を指差した。下?
「下の階ですか?」
「違ーう」
「一階辺り?」
「惜しい!」
一階で惜しい? なら……。
「地下ってこと?」
「あったりぃぃぃ! 暴風回廊の真竜は、地下の塔……逆さの塔の最下層にいるわ」
逆さの塔は、伝説上で語られていた存在しない塔である。
本来の塔は、天に向かって伸ばすことにより、神へと近づくことを目的に建設された、宗教的な建物である。
しかし逆さの塔は、名前の通り……逆である。地下へ掘り下げることで、近づきたいモノ……それは闇を支配する者。すなわち、魔王。
逆さの塔は魔王信仰のために作られた地下神殿なのだ。
「つまり、ソレイユが信仰対象ってわけね。どうなの、拝まれる立場になるってことは?」
「願い下げ」
同感。
「どうせ『拝んでも、願いを叶えてくれないじゃない!』とか言って逆ギレされそうだし」
マジメに信仰してる人もいるから、一概には言えないんだけど……。
「成程。それで魔王様は一度も足を踏み入れていないのですね」
「当たり前じゃない! そんな怪しい宗教団体がいる場所に、信仰対象が出てきたら……」
ソレイユを中心に、狂喜乱舞する怪しい人達の図が浮かぶ。
「わかったわ。とりあえず私達が行くから、入口を教えてよ」
「入口はアタシが開けておく。一階の左端の部屋に行って」
「わかった……それじゃあ行くわよ。みんな準備を………あれ? リルとエイミアは?」
「また石のまま」
………あ、そうだったわね。
「今から石化を解いて、事情を説明するのもめんどくさいし……私達だけで行こっか?」
「わかりました」
「無問題」
……背後でソレイユが「……酷いヤツ」と呟いたのは、聞こえない聞こえない。