第十四話 ていうか、倒れた私を介抱してくれたのは、ヴィー。でもレスリングのタックルをしてきたのもヴィー。
「凄い……! 私の蛇を完全に封じて、更に一撃入れるなんて……! サーチはまさに無敵じゃないですか!」
……はぁ〜……もうダメ……。
これだけの数を操るのに……ここまで……精神力が……いるなんて……。
「……サ、サーチ!? どうしたのですか! ……チ! サー…………」
……ここで、私の意識は暗転した。
………。
……ん……。
「サーチ? 気付きましたか?」
……何だろう……ヤケに柔らかい枕ね……。
「良かった……突然倒れたんですよ?」
……何だろ……?
ふにっ
ん?
ふにっふにふに
「ちょ、ちょっとサーチ? 何処を触ってるのですか……」
上にあるヤツは……非常に柔らかい……。枕になってるヤツも……柔らかい。
グゥ〜……
……いかん。お腹が空いたな。
枕にしてるヤツは……もも肉か。触り心地といい、間違いない。でも何の肉……?
「サ、サーチ? 何故涎を……?」
そうか。こういう場合は口にしてみればわかるわ。
生だけど味の違いでわかるだろう。よし、せーの。
がぶぅっ!
「いったあああああああいっっ!!」
ふへっ?
「サーチ……何をするんですかああああっ!」
ごがっ! めごっ!
「いってえええええっ!? な、何すんのよ………って……あれ?」
ここは……暴風回廊近くの森……よね? 確かヴィー達と訓練のために……。
「ふーっ、ふーっ」
「あれ? ヴィーは何をしてんの?」
なぜか赤くなってる太ももに、半泣きで息を吹き掛けるヴィー。可愛いな、おい。
「何をしてるって……倒れたサーチを膝枕していたら、突然太ももに噛みついたんじゃないですか!?」
……へ?
「わ、私が!? ホワイ?」
「ほわいが何かは知りませんけど! 寝惚けていたのでしょうが……流石にこれは看過出来ませんよ!!」
……そうか……邪喚羽扇を使って、極限まで精神力を消耗して気を失って……で、何故かヴィーの太ももに噛みついた……ここが我ながらよくわからん。
とにかく、謝らなくちゃ。
「ヴィー、ごめんね? 悪気はなかったのよ」
「悪気が無かったのはわかってます! けど私……傷物になっちゃったのですよ!?」
……キズモノって……まあ確かにそうだけど。
「ちゃんと責任はとるからさ。ね?」
「どうやって責任をとるつもりですかっ!!」
「はい、ポーション」
「っ……た、確かに責任をとる事にはなりますけど! もっと違う事で……」
「え〜、もっと違う事って何〜? ヴィーったらだいた〜ん」
「!! ……もうっ!」
ヤケになったヴィーは、ポーションをがぶ飲みした。
……この瞬間、ヴィーの飲んだモノがポーションではなく、超高濃度のアルコールだったと気づいていれば……こんなことにはならなかったのかもしれない。
「……責任……とってくれるんですね?」
「え? う、うん……」
「シャシャ」
「ひぇ!? ……あの……ヴィーさん? 何で私の手を蛇が拘束してるのかな?」
ていうか……ヴィー、目が据わってない?
「責任……」
シュルル……
「あ、あの……ヴィーさん? なんで服を脱ぎ始めたのかな?」
「……とって……」
あは……あはははは……ま、まさか……。
「……いただきます!」
何でヴィーが飛び掛かってくるのよ!! ていうかレスリングの高速タックルかよ!!
ってつっこんでる場合じゃなかったあああぁぁぁ…………。
……しばらくお待ち下さい……。
「……ふあぁ〜……よく寝ました……」
………。
「……あら? サーチも寝ていたのですか? 早くビキニアーマーを装備しないと。もうすぐ夕飯の時間ですよ?」
「……された」
「は?」
「穢された……ヴィーに穢された……」
「何を言ってるのですか? 私が何故サーチを穢すのですか?」
……すっげえ酒臭い……あのポーション、私が隠してたとっておきのお酒入れてたヤツだったわ…………しまったああ……。
「……ったく! 疲れた! 汗かいた! お風呂に入りたい!」
散らかっていた下着やビキニアーマーを拾いながら、ヴィーに悪態をつく。
「? ……わかりました。私は露天風呂を作ってきますから」
「……なら私は夕ご飯の準備するわ……。ヴィー! 今回のことは誰にも言うんじゃないわよ?」
「……今回の事?」
……失言。
「何があったのですか?」
「……聞くな」
「凄く気になります。教えて下さいよ。ねえねえ」
がちゃああん!
「うわっ!?」
「早く行けええええっ!!」
がちゃあん! ぱりいいん!
「わ、わかりましたから! お願いですから皿を投げないで下さい!」
ヴィーは一目散に逃げていった。
「……あいつ……いつの間に……」
意外とテクニックが………じゃねえよ! 私は何を考えてんのよ!
「あーもー! 気晴らしにちょっと豪華にするか!」
ムリヤリ頭ん中を切り替え、とっておきのドラゴンの肉を取り出した。
「……おい、サーチ……」
何も言わないで。
「何かあったんですか?」
何も言わないで。
「ドラゴンの肉をふんだんに使用した超豪華料理、ここに顕現」
何も言わないで。
「サーチ、何があったんですか?」
「ヴィー! あ・ん・た・の・せ・い・よ!!」
「な、何故私が悪いのですか!?」
「うっ………八つ当たりよ!」
「ひどっ!?」
リルは私とヴィーの様子を、怪訝な顔で見ていたけど。
「……まあ何があったかは聞かないよ。もう石にはされたくねえし……」
さっきまで忘れ去られていたリル。石化が解けたとたんに、スゴい勢いでトイレに駆け込んでいったのは……言う間でもない。
「リ、リルもすみませんでした……」
「いや、私が調子に乗ったから……それよりさ、気になってたんだけど」
「何か?」
「ヴィー、すっげえ酒臭」
キュンッ!
キュキュ! ぐいっ!
「ぐええええ………がくっ」
「きゃ!? リル? どうしたのですか、リル!!」
「あれれ〜? リル、どうやら寝ちゃったみたいね〜。仕方ないから寝かせとこ〜」
「?? は、はあ……」
……あぶねえあぶねえ……羽扇でワイヤー作って首に巻きつけるくらいなら、そこまで精神力もいらないわね。とっさだったけど、リルの首を絞めて落とせた。
「と、とにかく! せっかくだから食べちゃいましょ! いただきます!」
「「「い、いただきます」」」
……全員が釈然としない顔で食べ始めたけど……一口食べたとたんに、箸が止まらなくなった。
「モグモグ……ねえ、サーチ姉……モグモグ」
「食べながらしゃべらないの。何よ?」
「門を開けてもらうの……」
……あ、忘れてた。
「大魔導に頼むより、裏口に回った方が早いと思われ」
「……あ、そういえば……簡単に入れる裏口がありましたね」
……それも忘れてた。
サーチとヴィーは激しいプロレスごっこをしてただけです。