第十一話 「私さ、ここまでにくったらしい相手は……久々よ」『私もです』「殺すぞコラ!」『やってみろよコラ!』 ……ていうか。
「……今頃リファリスは、略奪山脈で暴れてるんだろうな……」
「……サーチ、何を現実逃避してるのですか?」
べ、別に現実逃避してたんじゃないんだからね!?
「でもさ、どうすんだよ? 変態骸骨が出てきたかと思えば、突然いなくなる。それからずーっと待ちぼうけじゃあ……」
現状はまさにリルの言う通り。私達は暴風回廊の前で、ずっっと足止めを食らっているのだ。
「この門は目の前のモンスター召喚の魔方陣と連動しているらしく、現れたモンスターの許可がない限り開かないらしい。だから変態骸骨がどっかに消えちゃったことで、開けることができなくなってしまった……ていうことでいいのよね、ヴィー?」
「はい、その通りです……あの、誰に対して説明しているのですか?」
「誰でしょうね……ペロン」
「ひぃあああああっ!」
耳を舐められて、腰が砕けるヴィー。
「……リル姉、暇過ぎて……サーチ姉がおかしくなった」
「誰がおかしいって? ペロン」
「はみゃあああああ!」
「……暇は人を殺すってホントなんだな」
……すでに腰砕け済みのヴィーとエイミアを見ながら、リルが呟いた。
「あ〜う〜……ヒマだ暇だ隙だ閑だ肥満だ」
「サーチ、何か違うモノが混ざってますよ」
ちくせう……ソレイユに念話しても出ないし、デュラハーン達も以下同文だし……。
「……私達、暴風回廊に来るようにソレイユに言われたんでしたよね?」
「そうだよ。なのに待ちぼうけじゃ意味ねえ……」
……さすがに三日間も待たされれば、エイミアもリルもダレてくる。
「うー、お風呂に入りたい……お風呂お風呂お風呂……」
「サーチ、気持ちはわかるから落ち着け」
「清洗タオル飽きた〜……お風呂お風呂温泉温泉温泉温泉……」
「……温泉の禁断症状か?」
「そんな怪しい中毒じゃないわよ!」
「正気じゃねえか!」
……そんな感じでリルとジャレ合っていると、念話水晶の呼び出し音が鳴った。
「お、ソレイユじゃねえか?」
「違うわ、ソレイユの場合は違う音が鳴るから。この音はリファリスね」
「……わざわざ一人一人音を変えてあるのかよ……暇人」
結構便利だよ? ホンットに携帯そのモノよね。
「はい、こちらサーチ」
『失礼致します。サーチ様でいらっしゃいますね?』
「そうだけど……これってリファリスからの念話じゃないの?」
『主人であるリファリス様よりお借りして、念話しております。初めまして、私はリフター伯爵家のメイド長を務めております、エリザと申します。どうぞお見知り置きを』
「あ、ご丁寧にどうも……ていうかリファリスのメイド長!?」
……うん、もろリファリスの好みだわ。顔良し、スタイル良し、小柄な身長で更に良し。
胸は……クソ、負けた。
『……リファリス様の仰る通りの方ですね』
「リファリスから何を聞いてるの?」
『初対面の相手には、まず胸をガン見すると』
……否定できん。
『そして自分より小さいと勝ち誇り、逆に大きいと舌打ちすると』
………否定できんっ!
『……私はEでございます』
……やべえ。殺意が……。
『……念話水晶越しでは何も出来ませんでしょう?』
ブチッ
「うっがああああっ! 殺す! ぶち殺す!」
「サーチ落ち着いて下さい! 念話水晶を叩き壊しちゃ駄目です!」
「ほいっと。ちょっと失礼するぜ」
『あなたは……リル様』
「何が気に入らないか知らねえが、主人の友達にケンカ売るようなマネをメイドがしていいのか?」
『っ……も、申し訳ありませんでした。いつもリファリス様はサーチ様の案件を最優先にされますので、メイド一同の嫉妬が沸々と……』
完全な逆恨みじゃないのよ!!
「ちょっと代わって! こら、このチビ牛女! 私情をぶっ込んで仕事するなんて、メイドとしては三流ね三流!」
『チ、チビ牛……!? やかましいわ、ハダカチビ女! 身長について、あんさんにとやかく言われる筋合いは無いで!』
「ハダカチビ……!? 何よ、このコスプレメイドが! 仕事もろくにできないクセにメイド服なんか着てんじゃないわよ!」
『コスプレ……!? はん! ウチは仕事が出来るからメイド長を務めているんや! あんさんみたいな寸胴がビキニアーマーなんて……自分の体型を理解してるやろか?』
「は? 寸胴? この見事なくびれを見て寸胴だって言うなら、世の中寸胴だらけよね〜……あ、つまりは。あんたの主人のリファリスも寸胴だって言いたいんだ!!」
『な……! リファリス様が寸胴だなんて……!』
「リファリスに聞いてごらんなさいよ。『リファリス様とサーチ様、どちらがくびれてますか?』って。歯ぎしりしながらも『……サーチよ』って答えるわよ?」
昔、実際にあったやり取りなのだ。
『ウ、ウチだけやのうてリファリス様まで……! 殺す! ぶち殺す!』
「あ〜ら、念話水晶越しに攻撃できるんでしたら、ぜひどうぞ♪ お〜〜ほっほっほ!」
『ぅぐ……! あ、あほんだらああっ!』
あら、ちょっと涙目になった。よし、勝った!
「口ゲンカで相手を泣かせてどうすんだよ! 私が代わる!」
『何であなたは念話で泣かされてるのよ! あたしが代わるわ……あら』
「げ」
あらら、形勢逆転。
「お、お久しぶりです」
『久しぶりね〜〜リルニャン♪』
リ、リルニャン……。
「や、止めてくれ! お願いだからリルニャンは止めてくれえええ!」
……なぜかリルに飛び火したわね。
「リ〜ルニャン☆」
「リジィィィィィ! てめぇぇぇぇぇ!!」
リジーにからかわれたリルが戦線離脱。私に念話水晶を放り投げて、リジーを追っかけていった。
「とっと……はろはろ〜、リファリス」
『よ、さーちゃん。相変わらずお茶目だね』
世の中広しと言えど、私のことをお茶目呼ばわりするのはリファリスくらいだ。
「頼んでたヤツはあった?」
『ああ、「七つの美徳」の象徴な。それらしいのは二つあった』
二つ!?
『そっちに送りたいんだけど……どうすればいい?』
「ん〜……リファリス、ちょっと待ってて。ヴィー、モノだけの転移って聖術でできる?」
「出来ます。人の転移に比べれば、負担は格段に少ないですよ」
「ってことは……ヴィーにもできる?」
「そうですね……今回は≪引き寄せ≫をすればいいのですね。三回は大丈夫です」
よっし、イケる!
「今からヴィーが≪引き寄せ≫って聖術を使うわ。それで転移できるみたい」
『わかった。あたし達は離れてた方がいいな?』
「はい、1mは離れていて下さい」
『わかった。エリザもよ』
『はい……ぐすっ』
……まだ泣いてるのか、あのチビ牛女。
『あ、あああ! またハダカチビ女が、ウチに喧嘩を売ってる気がします!』
……何でわかったのよ。
「あの……始めていいですか?」
「あ、ヴィーごめん。チビ牛女がさ」
『申し訳ありません。ハダカチビ女が』
「殺るのかコラ!?」『上等やコラ!!』
「あの……始めたいのですが……」
……ダメだ、仲良くする気にならない。
新年明けましておめでとうございます。
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