第十話 さーちゃんからの頼まれ事も終わった事だし、ここからはあたしのお楽しみよお……あははははははははは! ていうか。
「マント……ね」
何故、粉々になった頭蓋骨の中からマントが?
「これ……普通のマントじゃありません。先程の羽扇よりは弱いですが、何かしらの魔力を感じます」
「……と言うよりは、羽扇が強力過ぎるのよ。このマントもそれなりの品物だわ」
「そういえばこのマント……聖なる気配がしますね。こちらが本命でしょうか」
じゃあこっちも頂きましょうか。
「地の真竜さーん、これも頂きますね」
『おお、頭があったあった!』
あれは聞いてないわね……って頭!?
「なら……私が壊してしまった頭蓋骨は一体……?」
……さあ……。
その後、会話が可能になった大魔導に羽扇とマントを貰う許可を貰った。最初は渋っていたが、エリザがタワーシールドでボコボコにしたら、あっさりと許可が下りた。ようわからん骸骨だ。
ただ。
『……その羽扇、十分に気を付けるように。何か得体の知れぬ邪気を感じる』
……別れ際の大魔導の言葉が気になった。
何故かトロンとした顔になった理由も。
「帰り道は全くモンスターが出ませんでした」
「粗方倒したからね……それより何で徒歩で戻ってきたの」
あたしはさっさと脱出用アイテムで入口に戻ったんだけど、エリザは歩いて戻ると言って聞かなかったのだ。
「もう少しでレベルが上がりそうだったんです。結局モンスターと遭遇しませんでしたので……」
……結局上がらなかったわけね。
「大丈夫よ。心配しなくても嫌って程レベル上げができるから」
「え………ま、まさか本当に行かれるんですか!?」
「当たり前じゃない。あたしが欲しいのは『七つの美徳』の象徴なんかじゃない………血よ。それも流れたばかりの、新鮮で真っ赤やヤツが……あは、あははははははは!」
「……わかりました、お付き合いします」
「あら、嫌なら普通に街道を通って帰ってくれていいのよ?」
「まさか。リファリス様の進む先が私の進む先です。何処までも御供致します」
「……だからトイレにまでついてくるのか」
「ついていってません!」
さあ、行きましょうか。盗賊の巣窟、略奪山脈へ。
あたし達が山道へ入って三時間。一向に盗賊が現れる気配がない。
「おっかしいわね〜。見張りすらいないわよ」
「≪千里眼≫持ちがいるのかもしれませんね」
……視線が向けられれば、例え≪千里眼≫であっても、気付ける自信はあるんだけどな……。
「日没までは数時間あるわね。だったら広い場所に野営して、ガンガン焚き火をしましょう」
「……要は敵を誘うのですね。そこまでするのですか」
「する」
「即答ですね!?」
あ……やっとだ。来た来た。
「エリザ、わかった?」
「はい。この先に三十人程いますね……どうしますか?」
「どうしますも何も、真っ直ぐ突っ切るわよ」
「……畏まりました……はあ」
……何よ、そのため息は。そんな態度のヤツは……こうしてやる!
「さあ、エリザ。好きなだけレベルを上げなさい……≪女王の憂鬱≫」
「え!? まさか……」
そのまさかよ。反動でしばらく筋肉痛で動けなくなるでしょうけど……ため息の罰。
「女王の操り人形よ、狂え狂え、乱れて踊れ……変異術式≪頭割り人形≫」
「リ、リファリス様! 恨みますよ! 筋肉痛、洒落にならないんですからね!」
あたしのスキルによって操られたエリザは、文句を良いながらもタワーシールドを構えて前進する。
すると、盗賊らしき男が現れた。
「そこの女、止まれ」
「やだ」
あたしの返事と同時にエリザがダッシュする。
「リファリス様! 速すぎますうう!」
「な!? 待てごげっ」
タワーシールドが男の頭を叩き潰す。血の噴水をあげながら、男は倒れた。
「な、何だこのメイド!? タワーシールドを二枚振り回してやがるぞ!」
「厄介な……散れ!」
盗賊達はある程度は統率がとれているらしく、掛け声に合わせて展開する。
あたしとエリザを取り囲み、背負っていた弓矢を構える。
「良い判断だ。少数の敵を倒すなら、包囲してからの遠距離攻撃が一番最適だな」
「クソ、何を偉そうにほざいてやがる!」
「あたしが教えてやった基礎を守っているようだな?」
「はあ? 何でオレがお前に教えられなきゃならな………っ! お、お前は!?」
「思い出したか? 二年前に必死に命乞いした相手の事を」
「う……うああああああ! 逃げろ! 総員退避ぃぃぃっ!」
「か、頭!?」
へえ……失禁して命乞いしてた雑魚が、今は頭なんだ。戦術の基礎を解説してから放り出したけど、ある程度は自分のモノにしてたみたいね。
「だけど……まだまだ甘いな」
あたしはエリザを操って、包囲の一角に突撃させる。
「リリリリファリス様あああ! 速すぎ速すぎ! 足がついていけません!」
「気合いと根性で何とかしなさい!」
「無茶苦茶ですよおお!」
エリザの三盾流が炸裂する!
バガン! ガゴ、ゴギン!
「ぐがっ!」「あぎゃ!」「ぐぺ!」
タワーシールドの重い一撃で、頭と数人の盗賊が吹っ飛ぶ。
「や、矢を放てえ!」
死んだ頭の代わりに、他の盗賊が叫ぶ。それを契機に盗賊達は我に返り、つがえたままだった矢を一斉に放った。
「リファリス様!?」
エリザは自分に飛んできた矢を、タワーシールドで防ぐが……。
ザクッ! ドスドスドス!
「ぐぶ……!」
「リファリス様ああああああああっ!!」
あ、あたしは防ぐ事なく……ハリネズミになる。
「よし、一人は殺ったぞ!」
「……ふふ……」
「あとはメイドだけだ!」
「……あはは……」
「全方位から一斉に矢を放て!」
「……あはははははははははは!」
「な、何だ!? あいつ、あれだけ矢が刺さってるのに……笑ってやがる……」
血だ……血だ……あたしの血が流れてる……。
これを……これを待ってたのよおおおっ!
「あたしの……血が……血が! あははははははははは!」
「く、狂ってやがる……!」
「狂ってる……? そうね、あたしは狂ってる……血に狂うのよ! ひゃはははははは!」
ズズ……ズボズボ
カランカラン……
「ひ!? 矢、矢が勝手に抜けた……!」
「今度は……あたしを……あんた達の血で濡らしておくれよ……あははははははははは!」
ドスッ
「ぐぶっ」
ザクッザクザクザクザクザクザクザクザク!
「ぎゃああああ! や、止め……ぐはああああ!」
「あたしは十二本の矢に耐えたのよ? 同じ回数刺されて……あなたは耐えられないの? ひゃはははははははははははは!」
ドスドスドスドスドスドス!
「叫ばないの? もう叫ばないの? ねえ? ……つまんないの、もう死んじゃった」
「ひ、ひい……!」
「まあいいか。まだまだ……いっぱいいるからね?」
「ひ……ひぎゃああああああああ!」
……ポタポタ……
「リファリス様、堪能なされましたか?」
「もう……最高よ!」
「お願いですから、わざと矢に刺さるのは止めてくださいね。大丈夫だとわかっていても、心臓に悪すぎます」
「え〜、いいじゃない。相手に血を流させるんだから、あたしも少しくらい血を流してあげないと」
「……その理屈は全く理解できません」
……二日後。
略奪山脈から盗賊は一人もいなくなった。
そして。
「いいい痛い痛い痛いいい!」
……エリザの筋肉痛が最高潮になった。
リファリス「良いお年を!」