第九話 やっと『七つの美徳』の象徴発見か……ていうか。
「あ、あれが大魔導なのですか?」
「……た……多分……」
……骸骨がスキップしながら登場って……一体何が起きようとしているの?
『ぬ!? ぬぬぬ、ぬ!?』
「ぬ?」
『何処じゃ? 我が求めし楽園は? 桃源郷は? 天国は? ティル・ナ・ノーグは? アヴァロンは!?』
知りません。
『……うむ……夢幻であったか……我も衰えたモノよ……』
骸骨に衰えたもクソもねえだろ。
『……老兵は去るのみ』
去るな!
「ちょっと待って! あなたがこのダンジョンに住む真竜なの?」
『む? 今度は夢幻ではないようじゃの……この可憐な小鳥の囀ずりは誰のものか?』
こ、小鳥の囀ずり!? あたしが!?
……か、痒い。
「……あなたが真竜かって聞いてるんだけど?」
『そうじゃ。我が地の真竜なり。お主等は何者ぞ?』
「あたしはリファリス・リフター。後ろにいるのが相棒のエリザ」
エリザは黙って会釈する。ほんのりと頬っぺたが赤くなってたのは、今回は見逃しとく。
『…………ふむ。で、今は滅びし帝国の貴族が何用か?』
……こいつ……!
『お主等の考えている事など、手に取るようにわかる。我は大魔導ぞ?』
……お、恐ろしいヤツね……。こんな連中とさーちゃん達は渡り合ってきたの?
『む? さーちゃんとな? ……あのビキニアーマーの娘か』
「……知ってるんだったわね。そう、あたしはさーちゃんの……幼友達。頼まれ事をされて、ここまで来たのよ」
『……そういう事じゃったか。それ故に我は、魔王様の元へ引っ張られたわけか……』
「魔王の……元へ?」
『何でもない。気にするな……で、用事とは?』
あ、忘れるとこだった。
「えーっとね……あれ? 何だっけ?」
『………………おい』
大魔導に突っ込まれる、という貴重な体験をした。
「私から説明致します。リファリス様の幼友達のサーチ様からのご依頼は、七冠の魔狼に対抗する為に必要な『七つの美徳』の象徴の回収でございます」
『ほう……』
「サーチ様によると、『七つの美徳』の象徴は真竜に関わる場所に存在している、との事。ならば地の真竜様の元にもあるはずだ、と仰られまして。それで私達が回収に参りました」
『ふむ……成程の。そういう事か』
大魔導は何か呪文のようなモノを唱える。すると壁に魔方陣が浮かび上がり、そこから箱が現れた。
『おそらくこれがお主等が求めしモノじゃろう。我には箱に触れる事が出来ぬ故、中身は確かめておらぬ』
「その箱は?」
『随分昔に我の下僕が見つけてきた。我が魔力を以てしても中身がわからぬ故、異空間に放り込んで忘れておったモノじゃ』
大魔導の魔力すら通さないって事は……『七つの美徳』の象徴の可能性が高いわね。
「頂いてもよろしいですか?」
『我には必要ない故、構わぬ…………が』
が?
『……そうじゃな。易々と渡しては我が矜持に傷が付く。故に条件をつけさせてもらう』
「「じょ、条件……」」
……すっごく嫌な予感が……。
『先程のお主等の絡み合いをもう一度見せがぐぉ!?』
大魔導が最後まで言い切るより早く、エリザのタワーシールドが炸裂した。
『我の頭……我の頭は何処じゃ?』
何処かへ飛んでいった頭蓋骨を探し回る大魔導を尻目に、あたしとエリザは箱を調べていた。
「……特別な魔術がかかってる……わけじゃないな」
「もしかしたら、モンスターの類には触れないようになっているのでは?」
確かに大魔導も立派なモンスターよね。
「ならあたしが触っても」
「駄目です!」
「な、何よ」
「リファリス様に何かあったらどうするんですか! 私が先に触ります!」
毒見じゃないんだから……。ま、本人がやりたいって言うんだし。
「わかったわ。じゃあお願い」
「畏まりました」
エリザが箱を触るべく、恐る恐る手を伸ばす。つい悪戯心が疼き……。
「……わっ!」
「うひゃあ!」
エリザは文字通りに飛び上がって驚いた。
「リ、リファリス様!!」
「あははは、ごめんごめん」
真っ赤になってプリプリ怒るエリザ。ふふ、可愛い。
「もうっ! じゃあ触りますよ!」
さっきの慎重さは何処へ行ったのか、エリザは遠慮なくバシバシ叩いた。どうやら大丈夫みたい。
「箱は開きそう?」
「お待ち下さい……駄目ですね、鍵がかかっているようです」
……そんな簡単にはいかないわな。
「ちょっと代わって」
「はい」
箱の前に屈んで鍵穴を凝視する。
「…………奥から三番目と……手前に右側か」
「……リファリス様は開けられますか?」
「多分ね。エリザ、ヘアピンを頂戴」
「畏まりました」
エリザが自分のヘアピンを抜いて差し出した。それを受け取って先を曲げ、鍵穴に突っ込む。
カチャ……ガチャガチャ
……手前は簡単なんだけど……奥が……。
「…………」
一旦ヘアピンを抜き、先を曲がりを少し変える。そして再度鍵穴へ……。
カチャガチャン カチン
「……開いた」
「本当ですか!? 流石リファリス様です!」
「……伊達にB級冒険者やってないわよ。元だけど」
エリザの『流石』が気になるけど。
「とにかく開けましょう」
キイ……
「こ……これは?」
「……羽扇……ね」
貴族の夫人達がよく持っているヤツだ。あたしも一応持っている。
「これが『七つの美徳』の象徴なのでしょうか?」
「さあ……妙な魔力は感じるけど……」
何となく羽扇を掴もうとした時。
バヂィ!
「あづっ! な、何これ……」
もう一度触ってみる。
バヂィ!
「! ……どうやらあたしには触れないみたいね」
「そ、そうなのですか?」
エリザも指先でつついてみるが……。
バヂィ!
「痛! ……こ、これは触れそうにありませんね」
……箱ごと持っていくしかないか。
「地の真竜、これは頂いていきますからね」
一応声をかけたけど……。
『わ、我の頭は何処じゃあああ!?』
……聞こえてないか。
「これで約束は果たしたわけだし……帰りましょうか」
「そうですね、帰還しましょう」
大魔導に一礼して去ろうとした時。
カツン
「……ん? あ、頭があった」
足元の溝に嵌まった頭蓋骨を見つけた。
「エリザ、地の真竜に返してきて」
「畏まりました」
エリザが頭蓋骨を手にする……が。
ボロッ
「きゃ!? ず、頭蓋骨が……粉に?」
あらら。粉々になっちゃった。
「……無かった事にしましょう」
「そうですね……あら?」
エリザの声が気になって振り返ると。
「これは……マントでしょうか?」