第八話 ていうか、いよいよ真竜と対面のはずなのに、誰もいない。仕方ない、やることもないから……って、リファリス!?
一時間程探索したが、真竜らしきモノは発見できなかった。
「おっかしいなあ〜〜。ここで間違いないと思うんだけど」
「そうですね。これだけ清浄な空気を保つ空間が、他のモンスターによって侵食されているとは考えにくいです」
三ツ又の短槍で肩をトントン叩きながら、もう一度辺りを見回す。
「……仕方ない。しばらくここで待機。真竜が出掛けてる可能性もあるから、少しここで待ってみましょう」
「畏まりました。休憩中にお食事をなさいますか?」
「そうね……適当に見繕っておいて」
「畏まりました」
そう言うと背負ってきたリュックから調理器具を取り出す。あたしの無限の小箱を使え、と何度も言ってるんだけどなあ……。
弱い≪火炎放射≫で火を起こし、フライパンを熱する。温まったのを見定めて牛脂を入れて、フライパン全体に馴染んだら野菜や肉を放り込んだ。ちなみに食料だけは、あたしの無限の小箱を使っている。時間が止まるということは「有能過ぎる冷蔵庫と同じです」だそうだ。有能過ぎるって……。
「それにしても……リファリス様がそこまで協力されるのも珍しいですね」
「ん? 何で?」
「普段でしたら、リファリス様は絶対に断るであろう案件ですから」
「まーね。これがソサエト爺さんや、スケルトン坊やの依頼だったら……断るかな……」
「やはり……サーチ様だから……ですか?」
「当たり前じゃない。あたしはさーちゃんの為なら、何を依頼されても断るつもりはない」
「………………何故」
「んあ? 何か言った?」
「何故そこまで……サーチ様に入れ込むのですか!?」
「何故って……あたしにとっては妹も同然だからね。エリザも弟には激甘じゃないの?」
「そ、それはそうなんですが……!」
……この子、何が言いたいのかしら?
「あの……! あまりに入れ込みますと……ま、周りからの誤解と申しましょうか……」
……成程。読めたわ。
「つまりさーちゃんを構ってばっかだと、あなたを始めとしたメイド一同が焼きもちを焼くってわけね?」
「や、焼きもちだなんて……! わ、私はただ……!」
「なら安心なさい。あたしはさーちゃんへの恋愛感情なんて、これっぽっちも無いから」
「え? で、でも……」
「ちょっと、焦げてるわよ」
「うわわっ!! だ、大丈夫です。良かった……」
「さっきも言ったけど、あたしにとってさーちゃんは手のかかる妹よ。それ以上でもそれ以下でもない」
「は、はい」
「大体さーちゃんには彼女候補がいるみたいよ」
「あ、そうなんですか。何だ……」
そう言いながらも調理は進み、やがて熱々の野菜炒めが皿に盛り付けられる。それに干し肉に胡椒をふって炙ったモノも並んだ。
「簡単なモノで申し訳ありません」
「ダンジョン内でこれだけのモノを食べられるだけでも贅沢よ。それじゃあ頂きましょうか」
「はい」
………。
「エリザ、あなたもよ」
「は?」
「あなたも一緒に食べるの。自分の分も作ってあるんでしょ?」
「そ、そんな! リファリス様の前で私ごときが」
ガギインッ!
必死に弁解するエリザを、三ツ又の短槍を岩に突き立てる音で黙らせる。
「……エリザ。あなたはあたしのメイドよね?」
「も、勿論でございます」
「なら、あたしと並び立って戦うあなたは何?」
「メイドでございます」
「違うわ」
「……と、申されますと?」
「…………相棒よ」
それを聞いた途端、エリザは顔を真っ赤にして俯いた。
「あ、あああ相棒でござますか」
ござますって……。
「そう。相棒。だったら対等よね?」
「そ、そうでございますね……」
「なら一緒に食べましょう」
エリザはしばらく悩んでいたが、やがて息を吐き。
「……わかりました。では失礼致します」
エリザは背後に置いてあった自分の分を持ってくる…………ん?
「ねえエリザ。あなたの食べる分、妙に気合いが入ってない?」
焼き加減といい、盛り付けといい……あたしの分より美味しそうなんだけど?
「……あげませんからね?」
「あ、あなたねえ……あたしは一応主人なのよ?」
「今は相棒だと仰ったのはリファリス様です」
ぐっ!
「私の密かな楽しみなのです。どうかお目こぼしを」
「わ、わかったけどさ……一口だけ頂戴よ」
「別に構いませんけど……私のモノと味は変わりませんよ? リファリス様の分も手は抜いておりませんから」
「いやさ、人のモノって旨そうに見えるじゃない」
「……でしたらリファリス様のと交換で」
「いいわよ〜……はいこれ」
「え! リファリス様、それはちょっと多いですよ!」
「その分あたしのヤツあげるわよ……はい」
「ちょっと! リファリス様、それ野菜ばかりじゃありませんか!」
「いいじゃないのよ〜。エリザはお肉ばかり食べてるから、身体に余分な脂肪がつくのよ」
「私の場合は全て胸に回っていきますので、一切心配ありません」
「ムカ……確かにあたしより大きいだろうけど……!」
「私よりリファリス様の方がご心配では? 最近は二の腕に」
がしぃ!
「エリザ……あなた、言ってはいけない事を……」
しゅるるっ! ばさあ!
「きゃあ! リファリス様!?」
「な……! 何でエリザの二の腕はこんなに細いの!?」
「で、ですから。胸に栄養が」
「ぐぁ! 言ったわね……! あたしだって小さくはないわよ!」
ぐらっ
「きゃっ!」「わっ!」
バタンッ
「イタタ……だ、大丈夫ですか、リファリス様」
「…………」
「? ……あの……?」
「……エリザ、聖杭は打ってある?」
「は? 聖杭ですか? でしたらすでに」
「ならいいわね」
「な、何がですか!? ちょっとリファリス様!? あ、あ〜れ〜」
……ベタな展開だけど、やっぱりエリザは可愛い。辛抱できませんでした。
「……もう! すっかり食事が冷めてしまったじゃありませんか!」
「あはは、ごめんごめん。でも食前の運動にはなったでしょ?」
「激し過ぎます!」
プリプリ怒るエリザを眺めながら、冷めた食事を平らげる。やっぱり可愛いわ。
「いくら聖杭が打ってあるとはいえ、何があるかわからないのですよ!」
「そういうエリザが一番淫れてたけどね」
「リファリス様!!」
エリザの照れ隠しの絶叫が響いた。
……その時。
ゾクリ
「……!!」
「リファリス様! こ、この魔力は……!」
『……我が住処に何の用か、人間よ』
な、何か出てきた……!
……その頃。
『む! むむむ!?』
あれ? 倒れてた大魔導が突然起き上がった。
『な、何と! 我が住処で夢のような光景が……!』
……?
『用があったのじゃが、また来る……ではな』
ブウンッ
き、消えた……。
「サーチ、何だったのでしょうか?」
……夢のような光景って……リファリスはナニをしてるのやら……。