第七話 やっと目的地に到着。なのに真竜はいない……わかったわよ、ていうか。
「エリザ、一旦入口まで戻るわよ」
「畏まりました………え?」
「え? って何よ、え? って」
「こ、ここが目的地ではなかったのですか?」
「ここ? ここはひゅーちゃんの様子を見に来ただけ。真の目的地は入口付近にある隠し扉よ」
「……わ、私は真の目的地じゃない場所で、命を落としかけたのですか!?」
生きてるからいいじゃないのよ。
「何でもいいから、脱出用アイテムを使いなさい」
「か、畏まりました。では煙玉で」
エリザは懐から黒い玉を取り出し、地面に叩きつける。すると「ぼんっ!」という音と共に白い煙が辺りを包んだ。
「脱出用アイテムも色々あるけど、煙玉の理屈だけはわからないわ……」
「私も同意致します。ですが一番安価ですので」
脱出用アイテムは様々で、脱出ポーションや穴抜け用ロープ、果ては変な動物の頭の形をしたキノコもある。共通しているのは「瞬時に入口に戻る」という効能。
「この白い煙に何か秘密があるのでしょうか……戻ったら調べてみましょう」
「別にいいわよ。ちょっと気になっただけだから」
あたしが手をヒラヒラしながら言うと、エリザはやたらと気合いを入れて。
「駄目です! 我らがリファリス様の疑問を放置するなど、天地の理より外れると同様です!」
「……は?」
「この上はリフター隠密メイド隊を派遣して、徹底的に調べてみせます!」
「調べんでいいわ! それよりリフター隠密メイド隊って何なんだよ!」
「私が秘密裏につくり上げた特殊部隊です」
「あたしに断りもなく勝手に秘密部隊をつくるなああああ!!」
……一度入口に戻り、近くにある隠し扉を開く。
「この先が真竜がいる場所よ。またゾンビの巣窟だから気を引き締めていきなさい」
「……はい……」
まだたんこぶが痛むらしく半泣きで答えるエリザ。いかん、また愛でたくなってきた。
「ここからは攻守を交代する。あたしが全力で後衛するから、エリザが前衛で」
「わ、私が前衛でございますか!? 三盾流で防御専門の私が!?」
さっきまで盾でゾンビを薙ぎ倒してた人がよく言うわ。
「ならエリザはどんなモノでも防げると?」
「勿論でございます。ドンとお任せあれ」
「……ハエとゴキブリの大群だけど?」
「ドンとお任せ下さい。装備は万全です」
そう言うとエリザは懐からスリッパを取り出した。
「スリッパでどうにかなる相手だと思ってるの!?」
「ハエやゴキブリが恐いようでは、メイドなど務まりません! 私めにドンとお任せ下さい!」
だーかーらー! 相手は万単位で来るんだよ!
ブウウウウン……
カサカサカサカサ……
「……こ、根性で全て叩き潰してみせます!」
「根性でどうにかなる? この状態でゾンビも襲ってくるわよ?」
「………………リファリス様、後衛をお願いします」
最初から素直に言う事を聞いてりゃいいのに。
「じゃあ少しだけ周りの警戒をお願い」
「畏まりました」
「…………≪女王の憂鬱≫発動。女王に跪いて従え……変異術式≪大群指揮≫」
あたしの術式が組み上がると同時に。
ブアアアン!
カサカサ! ザザッ!
あたし達の周りをハエとゴキブリが取り囲み、一定の距離を保つ。
「≪女王の憂鬱≫で虫達を支配下においた。この範囲内には何も入れるな、と命じてあるから」
「な、ならば安心ですね……ただ、前が見えないのですが」
「虫達が全て伝えてくれる。何の問題もない」
「は、はあ……」
……半信半疑ってヤツね。信じろって言う方が無理があるから仕方ないけど。
「すぐにわかる。それより敵は頼んだわよ」
「は、はい」
……しばらく進んでいくと、先頭のゴキブリ達からの合図。
「エリザ、三歩先に階段。ゴキブリの進み方を見て、ゆっくりね」
「か、畏まりました」
今度はハエ達が合図。
「エリザ、ストップ!」
エリザはビクリッとして立ち止まる。
ガーン! ガラガラ……
「落石よ。もう大丈夫」
「は、はあ……虫って意外と万能なんですね……。何よりこれだけの虫を従え、操るリファリス様が偉大なのですが」
いやいや、万単位のゴキブリを見て悲鳴一つあげないエリザも大概よ?
「……ん? 何故かハエが左右に……」
この合図は……!
「正面からゾンビが三体!」
「はい!」
エリザはタワーシールドを展開すると、ゾンビがいる辺りを横薙ぎに払った。
ブウン! ごちゃあ!
「一体粉砕しましたけど、ハエさん達は大丈夫ですか!?」
全匹避けたけど……ハエをさん付けする人は初めて見たわ。
「大丈夫よ。遠慮なく殺りなさい」
「はい!」
エリザは更に二枚のタワーシールドを展開し、ハエの中へ突っ込んでいった……。
「リファリス様、もう少し先に魔力の壁のようなモノがあります」
飛び出していってから数分後、戻ってきたエリザが報告する。
「魔力の壁? 結界か何か?」
「私はすんなり入れましたが、ゾンビや虫達は通れないようです」
……もしかしたら、真竜が?
「あたし達もそこに行きましょう」
「畏まりました」
エリザに導かれて着いた場所は、確かに魔力の波動を感じた。それも桁違いの。
「……ハエさんは入ってこれないのですね……」
役目を終えた虫達の術式を解く。すると虫達は一斉に退散していった。
「……ありがとう、ハエさん……」
ハエ達はエリザに返事をするように振り返ると、そのまま散開していった。相手がハエじゃなければ感動的な光景なんだけど……。
「そういえば……ゴキブリは容赦なく踏み潰したり、ブッ飛ばしたりしてたけど……良かったの?」
「ゴキブリは生きる者全ての敵です。だからいいんです」
……まあいいけど。流石にゴキブリにまでさん付けするのは……ねえ。
結界らしきモノに包まれた空間は、匂いを一切感じられない清浄な空気だった。
「あんだけゾンビ臭いと、普通の空気が美味しく感じるわ」
「リファリス様の仰る通りです」
どこかに真竜がいるばすよね?
「おーい、誰かいませんかー」
……あたしの声がこだまするのみだ。
「エリザ、何か気配は感じる?」
「いえ、魔力も感じられません」
エリザも何も感じないとなると……ここにはいない?
……その頃。
「な、何か出てきます!」
す、すごい魔力……! これはヤバいヤツが出てくるかも……!
「リル、弓矢で遠距離射撃! リジーは≪火炎放射≫で援護! ヴィーは≪石化魔眼≫の準備!」
「「「了解!」」」
「私とエイミアで前衛! エイミアは敵が出てきたら≪鬼殺≫で強烈なヤツを見舞ってやって!」
「はい!」
私も短剣を作って構える。すると敵がだんだんと形を成してきた……。骸骨っぽい外見が見えてき………ってあれ!?
「あんた……! 汚泥内海の大魔導!?」
私の驚いた声の後に。
「≪全身弓術≫!」
「≪火炎放射≫」
「≪石化魔眼≫」
「≪充力≫からの≪鬼殺≫!」
どっごおおおおん!
『ぐぎゃあああああ!』
……ま、変態骸骨だからいいか。