第五話 え? あたしも言わなきゃならないの? はいはい、ていうか。
明後日の正午。
「リファリス様、到着致しました」
「そう。ありがとう」
「…………!」
……何よ、エリザ。人を化け物を見るような目で。
「リ、リファリス様。お身体は大丈夫なのですか?」
「お身体はって……あたしが病気でもしてるように見える?」
「いえ、そういう事ではなく! 私を半日以上……その……アレをして立てなくした後、屋敷にいたメイド全員を悶絶死寸前まで追い込んだのですよ!?」
何よ、悶絶死って。
「誰も死んでないから問題ないでしょ?」
「いえ、そういう問題ではなく! リファリス様の体力が心配だったのです!」
「あー、大丈夫大丈夫。あの後半日くらい日光浴したから、体力は完全に回復したから」
「日光浴くらいで…………ああ、そうでございましたね。リファリス様はトカゲの獣人でございましたね……」
あたし達トカゲ獣人の種族スキル≪再生≫は、手足の欠損を回復できる以外にも、日光浴によって傷や体力の回復をする事ができる。
「さて、いくわよ。どうせダンジョン内にいるのは、いつものゾンビだろうけどさ」
「ゾンビ程度でしたら、リファリス様の御手を煩わす必要はありません。私が前衛にて全て蹴散らしてみせましょう」
「……盾で?」
「シールドバッシュという技がありますので」
……ああ、要は盾で殴るのか。いつだったか、さーちゃんもやってたな。
「なら任せる。リファリスの盾の異名、伊達ではない事を見せてみなさい」
「はい!」
エリザは三枚のタワーシールドを巨大化すると、両手に一枚ずつ、背中に一枚背負って駆け出した。本当にやるのね、三盾流……。
「三盾流奥義、独楽の舞!」
めごごごごごっ!
エリザを包囲していたゾンビの群れが、粉々になって飛び散る。
「はいっ! はいっ! はいいっ!」
エリザの気合いと同時にタワーシールドが振られ、瞬く間にゾンビ達は数を減らしてる。タワーシールド自体の重さがダメージを増し、ゾンビは一撃で木っ端微塵になっていく。
「三盾流奥義! 鉄鋏の舞!」
バインッ!
盾にサンドイッチされたゾンビが、ぺっちゃんこになって崩れ落ちた。
「これで終わりです! 三盾流秘奥義! 爆走の舞!」
ずがががががっ!
高速で走り抜けるエリザの盾が、僅かに残っていたゾンビを轢いていく。
「ふぅぅぅ〜〜〜……。リファリス様、ゾンビの掃討が完了致しました」
「……御苦労」
懐中時計を取り出し、時間を確認する。
「……約五分か。腕をあげたな」
「あ、ありがとうございます!」
「ただ…………技の名前を叫ぶ必要性はないんじゃない?」
独楽の舞は盾を持って回転しただけ、鉄鋏の舞は盾で挟んだだけ。秘奥義の爆走の舞はただ走っただけ。これで奥義を名乗るのは……どうなのかと。
「うぐ……わ、わかりました! もっと精進して、もっと格好いい名前にします!」
「そういう事じゃねえよ!」
思わず突っ込んでしまった。多分、さーちゃんの影響かな……。
「へぶりゃっしゃい!」
「きゃ!? サ、サーチ、何ですか?」
「ごめんごめん、くしゃみよ」
「ず、随分豪快ですね……」
……誰かうわさをしてるのかしら……?
「……これは……」
「ど、どうかなさいましたか?」
エリザが倒したゾンビの様子が……?
「……肉片が……動き回って……」
「そうですね。全て焼却しましょう」
「そうなんだけど……だんだん集まってるような……」
「え? ……本当ですね。やはり焼きましょう……≪火炎放射≫!」
ゴオオオオッ!
エリザの口から放たれた炎が、ゾンビの欠片を焼き尽くしていく。
「…………! エリザ、ストップ!」
「!? ……は、はい!」
エリザの≪火炎放射≫が止むと、焼け焦げていたはずの欠片達が元に戻っていた。
「……元に戻るどころか……だんだん大きくなってませんか?」
炎を吸収した? いや、あり得ない。ゾンビにとって火系の魔術は致命的なはず……。
「も、もう一度≪火炎放射≫で焼き払いいます!」
ブレス……ま、まさか!?
「止めなさいエリザ! そいつは炎を吸収したのではなく、ブレスを吸収したんだわ!」
「ブレスを吸収!? そ、そんな! ブレス系を吸収できるのはドラゴンのみ……」
……一段と速度を上げて合体していく欠片は、だんだんと形を成していく。
その姿は……!
「エリザ、一旦退きなさい! そいつはドラゴンゾンビだわ!」
巨大な口から濃い瘴気を吐き出しながら、土属性最強の竜が完成する。
ゥボアアアアアアアアアッ!!
全く知性を感じられない野性の叫びが、ダンジョン内にこだました。
それと同時に、ドラゴンゾンビの口に魔力の光が灯る。まずい!
「エリザ! あたしを防御して!」
「はい!」
エリザがあたしの前に陣取り、タワーシールドを展開する。
「ブレスが来るわ! 耐えて!」
「畏まりました!」
タワーシールドを地面に突き立て、全魔力を収束する。エリザを中心として、魔力による盾が私達を包む。
エリザの準備が終了したところで。
グゴオオオオッ!
エリザの≪火炎放射≫とは比べモノにならない規模のブレスが、ドラゴンゾンビの巨大な口から放たれた。
ズドオオオン!!
「うぐぅぅぅぅぅっ!!」
エリザが苦痛の声をあげながらも……受け止めた!
「エリザ、どれだけ耐えられる?」
「ぐぅぅぅ……! だ、大丈夫です! リファリス様が後ろにいる限り……! いつまでも……耐えてみせます!」
泣かせてくれるじゃない……!
「エリザ! あなたの心意気、あたしの胸に刻むわよ!」
「は、はい!」
さあ……耐えてみせなさい、エリザ!
「うぅぅぅぅぅっ……」
エリザは耐える。ひたすら耐える。
ゴオオオオォォォォ……
……だんだんとブレスが弱まってきた。
「もう少しよ! エリザ、あなたがあたしのメイドである事を誇りに思うわ!」
「わ、私も! リファリス、様にお仕え、できる事を……誇りに思います!」
オオオォォォ…………プスッ
止まった!
その時に見えた口の奥の光に向かって、三ツ又の短槍を投げる!
ビュンッ バリイイン!!
グガアアアアアアア!!
ドラゴンゾンビの悲鳴が響き渡る。そして……。
グ……オ……オ……ッ……
ズン! ザザザザー……
……ドラゴンゾンビは倒れ、砂に戻っていった。
「はあ……はあ……はあ……」
「ありがとう。エリザが耐え抜いてくれたから……ドラゴンゾンビの核を捕捉できた」
ドラゴンゾンビの弱点は、ズバリ核だ。当然堅く守られており、なかなか攻撃できない。
ただ、ある時だけ核が前面に出てくる。それが……ブレスだ。
「ただブレスを吐いている最中は手の出しようがないから、魔力が尽きてブレスが出せない間しか攻撃できない……本当にエリザ様々よ」
「お、お役に立てて……何よりです……」
やっぱりエリザは……私の盾だ。
サーチ「わ、私はくしゃみだけなの!?」