第四話 ていうか「ねえ、リファリス。エリザさんって、実はスゴく大変なんじゃない?」「……そうね……」
「ありがとうございました! 本当にありがとうございました!」
「お気になさらず。これも何かの縁でございましょう」
「縁……でございますか」
「あなたには生まれ持って、何か成さねばならぬ運命を背負っているのでしょう。ですからここで死ぬ事はなかった。それだけの事です」
「成さねばならぬ……運命……」
「そんなに難しく考える事ではありません。よろしければ私があなたの支えとなりましょうぞ」
「よ、よろしいのですか?」
「無論。何時如何なる時も駆けつけましょう。その為にもぜひ、念話水晶に登録を」
「はい、リファリス様……」
……よし、シャルロッテ嬢の念話許可を頂き。
「……よくもまあ、あれだけの美辞麗句が次々と……」
「いいじゃない。これで我が家に有能なメイド候補生が来るかもしれないんだから」
「……この状態に陥って落ちなかった女性はいないでしょう。今度はソサエト様から抗議が来ますよ?」
「いいんだよ、あのクソジジイは」
どうせ何か厄介事をペアにしてくるに決まってる。多分、あたし達の後ろにシャルロッテ嬢がいたのは、ソサエトのジジイの差し金だな。襲撃自体もジジイが一枚噛んでるだろうから……クソ、やられた。
「……エリザ。屋敷に戻ったらおそらく……シャルロッテ嬢とジジイの書簡が待ち構えている。書簡はあたしが何とかするから、シャルロッテ嬢の教育をお願い」
「……畏まりました」
……ソサエトジジイも隠居したんだから、大人しくしてればいいのに……。
それから三日間は何の問題も起こる事はなく……無事にサクランドに到着した。
「……たく。つまんない」
「そうは仰いますが、サクランドへの旅路の度に盗賊団を殲滅なされば、余程のバカでもない限りリファリス様の馬車に近寄りませんよ」
……おかげで帝都からサクランドへの行程は「世界一安全な行路」と言われている……らしい。チッ、忌々しい。
「……今度は略奪山脈を抜けるようにしようかしら……」
略奪山脈とは、モンスターがあまりいない代わりに、大規模な盗賊団が大量にいる山岳地帯だ。当然、普通の旅人なら絶対に立ち入らない。
「……そう言って帝都からサクランドの間に広がっていた『略奪街道』を、『世界一安全な行路』にしてしまったのはリファリス様でしょう?」
「だってあいつら、あたしを恐がって山ん中に逃げてっちゃったのよね」
……だから『略奪山脈』が誕生しちゃったのだ。
「つまりは、あたしの責任だ。あたしがあいつらを殲滅する義務がある……よし、決めた。エリザ、帰りは山脈を通るからね」
「畏まりました」
「さあ、血よ。血の雨が降り、血の川が流れ、血の海となるのよ……あは、あははは、あはははははは!!」
「……略奪山脈も『世界一安全な山脈』になりそうですね」
サクランドの街に入ると、エリザはリフター伯爵家の別宅へ馬を向ける。
別宅とはいえ、帝都の屋敷と遜色ない規模を誇る。それだけの別宅を管理するのにも、当然人手はいる。
だから。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」
……帝都の屋敷にいるのと同数程度のメイドが、この別宅に常時いるのだ。
「ただいま。全員変わりかいかしら?」
「「「はい、全く問題ありません」」」
全員うっすらと頬を染めて、目を潤ませながらあたしを見上げている。ふふ、可愛い。
「皆!」
「「「はい!」」」
「……順番をちゃんと守りなさいよ?」
「「「………」」」
……途端にメイド間で火花が散る。何の順番かはご想像にお任せする。
「全員静まりなさい! まずはリファリス様のお世話をすることが第一でしょう!」
エリザの一喝によって、メイド達は直立不動の体勢になる。
「リファリス様を外で立たせたままにするとは……! メイドとして最大級の恥と心得なさい!」
「「「はい! 申し訳ありませんでした!」」」
「謝る相手が違うでしょう!」
「「「はい! 申し訳ありませんでした、ご主人様!」」」
「……わかったわ。なら部屋までお願い」
「「「畏まりました」」」
……エリザが睨んでるから、ヘマするんじゃないわよ。
部屋に入ると、エリザ以外のメイドが一礼して退出していく。
メイド達の気配が遠ざかると同時に。
「エ〜〜リ〜〜ザ〜〜!」
「は、はい!?」
「メイド長としてメイド達を注意するのは当然の事だわ」
「はい、ありがとうございます」
「ただし! 嫉妬心に駆られて必要以上に怒鳴るのは駄目よ!」
「い、いえ。私は決してそのような……」
私はエリザの正面に立ち、唇に指を当てる。
「あたしがエリザを何年見ていると思ってるの。誤魔化しては駄目」
「! …………はい。申し訳ありませんでした」
「前から言っている通り、あなたは嫉妬すると己を制御できなくなる傾向がある。その欠点を克服できればあたしの相棒にもなり得る」
「え!? わ、私ごときが……リファリス様に並び立てると!?」
「今でも防御は任せてるでしょうが。あなたにはちゃんと才能があるんだから、嫉妬心に振り回されないように精進なさい」
「はい……! 必ずや、リファリス様のお隣に……!」
エリザは感涙に咽びながらも、己の役割を遂行していく。やはりあたしの専任は、エリザをおいて他にいない。
「エリザ、メイドとしての仕事が終わったら……いいわね?」
「はい!?」
「まだまだあなたを愛で足りないわ。今夜はがっつりいくから覚悟なさい」
「が、がっつり………畏まりました……。わ、私は明日の朝、立つ事ができるのでしょうか……」
……ま、立てる程度には加減してやるか。
案の定、エリザは立てなかった。少しやり過ぎたか……。
その頃。
「ヴィー、≪遠視≫で門の様子を見て」
「も、門ですか?」
「あの門の外側に、守護神クラスのモンスターが召喚されるのよ」
そう言われて納得したヴィーは、≪遠視≫を発動させた。
「そういえば、ここでしたね。私達が三冠の魔狼に初めてあったのは……」
『そうであったな』
「はい?」
「な、何で急にあんたがしゃべりだすのよ!?」
ホンットに久々に、私の左腕に宿っていた三冠の魔狼がしゃべりだした。
『門の魔方陣は我が通る際に破損した。だからモンスターが召喚される事はない』
あ、そうなの?
『以上』
……あ、ありがとうございました。
「……そういうわけだから、ヴィー」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「何よ、もう召喚されないって」
「いえ……何か居ます」
……は?
何にも……出てこないんじゃ?
『まずい! 退避しろ!』
!?
「ぜ、全員退避! 急いで!」
私の声に反応して、全員後方へ下がる。
い、一体何が……?