閑話 ビキニアーマー紀行 3 Gの戦慄
ハギフィールドの端にある村、バンブー。
この小さい長閑な村は今、大変な騒ぎになっていた。
村の南に広がる広大な凶樹山脈。A〜Bクラスのモンスターが無数に住み着き、稀にSクラスの災害級のモンスターまで現れるという死の山々。
その山の中で数えきれない断末魔が響き、幾つもの火の手があがる。
暗闇に浮かび上がる紅蓮の炎が、食人樹が並び立つ森を灰へと変えていく。
あまりに恐ろしいその光景を村人はただ怯えながら傍観するしかなかった。
ブスッ
ギャ……!
ランサーデビルの耳から銀製の針を通す。
そのまま倒れたランサーデビルはもう動かなかった。
「はあ、ビックリしました」
血に染まった釘棍棒を木に立て掛けてエイミアはドラゴンローブの埃を払った。
「頭潰されても斬りかかってくるとはな」
弓の弦を纏めつつリルが飛び降りてきた。
「デビル系は生命力がゴキブリ並みだからね」
この世界でもGは健在で、嫌われ者な面も共通なのだ。。
「だから銀の針で?」
「銀の対魔性能は優秀さは折り紙付きだからね」
「オリガミツキ?」
「なんでもないなんでもない」
あ、あぶねー。リルが食いついてくるとこだった。
「とりあえず尻尾と角は回収しとくぞ」
「オッケー」
この醜悪な悪魔の尻尾と角は高く売れる。
用途はよくわかんないけど高く売れる。
…………まあ、世の中は広いということか。
「で、お目当てのフェンリルはこれだけいれば問題ないんだな?」
「魔封じの紐も使い切ったし。これでいいよ」
魔封じの紐は魔道具屋で売っている対魔獣用の拘束器具だ。値段は張るけど魔獣系にはクラスは問わず効果は絶大だ。
私達の周りにはその魔封じの紐で足を縛られて転がるフェンリルが5匹ほどいる。一応生きてるけど。
アップリーズさんの話では「フェンリルなら生きたままで」とのこと。本当に面倒なことばかり言うなあ。
「しっかし壮観だな。Sクラスのフェンリルがこれだけゴロゴロいるとは」
「1匹いるだけで災害級だなんて言われてるのにそれが5匹ですからね」
「さてさて、関心してる場合しゃないわよ。もっと厄介な課題があるんだから」
「……厄介な?なんだ?」
「……どうやって持ってくのよ、これ」
「「あー……」」
死んでるのなら魔法の袋に収納できるんだけどね……。
さあ、どうしようか。
結論。
「ぜえ……ぜえ……ぜえ……」
「はあ……はあ……はあ……」
「こふー……こふー……ひゅー……ひゅー……」
……引っ張ってきた。
3日かかった。
一応私達はギルドで最高のランクであるSクラスのパーティなんです。
……そのSクラスがやることじゃないよね。
「お疲れ様というか……何というか……」
アップリーズさんは店の前に整然とならんだフェンリルを眺めて。
「……君達バカだね」
……うん。私達もそう思います。
「い、一応……持ってきたんだからさ……はあはあ……それはねえんじゃ……ふぅ……ねえの?」
息切れ切れでリルが言い返した。
「いや、そのことじゃなく……」
フェンリルを裏返して。
「ずっと引き摺ってきたんでしょう?いくらSクラスでも……死ぬでしょ」
キレイに毛が抜けてボロボロになったフェンリル。もちろんお亡くなりになってる。
「生きた状態で皮を剥がないと……硬くなっちゃうんだよね、フェンリルの毛皮って」
……げ……。
「……つまり……」
「全部……使えないね」
うっそだー!!
「どうする?」
宿に帰って対策会議を開いた。
生きた状態で持ち帰る……この条件が厳しい以上フェンリルはダメだ。
「あとは……不死鳥か……」
ケルベロスはダメ。
ドラゴンも無理。
……残るは不死鳥しかないか……。
「いいけど……どうやって行くの?火口の真ん中まで」
不死鳥。
いわゆるフェニックスだ。
これ自体はあまり強いモンスターではない。問題は生息圏だ。
それが……火山のマグマの中。
運が良くても火口の真ん中あたり。空を飛び回ることはない。
倒す……とか言う以前に近づくことができない。
だからSクラスなのだ。
ちなみに倒した人はいる。
どうやって倒したか。
……ただその人が≪火属性完全無効≫という天文学的に珍しいスキルを持っていただけ。
「……ムリね」
「……ムリだな」
「……ムリですね」
「「「はあ〜……」」」
全員「仕方ない……」という言葉が混じるため息を吐いた。
「……仕方ないか。アレしかないわね」
アップリーズさんが言った中でひとつだけ名前のあがっていないSクラスがいる。
なぜ言わなかったか。
それは、ほとんどの人が避けて通るから。
避けて通る……というより……悲鳴をあげて逃げ出す……というか。
ギルドがS級指定した中で最悪のSクラスと言われるモンスター。
その醜悪さから一番嫌われているモンスター。
その名は……。
ジャイアントダイオウゴキブリ。
明日から新章。
ダンジョンと温泉編です。