第一話 ていうか、定番。
少し改訂しました。
あ、あれれ?
こ、ここは一体? ていうか、な、何事?
「あぶ、あぶぅ……」
定番っていうか何と言うか……私もネット小説は好きだったから、こんなシチュエーションも理解できなくはない。こういう時の主人公のリアクションも想像はできる。
「あばーば、あう」
でも実際に自分が同じ立場になると……。
「…………ぶぅ」
笑えない。
ヒュウゥゥゥ……
よく見れば、知らない天井じゃなく、知らない軒下だし。
ヒュウゥゥゥ……
「おぶっ」
さ、寒い。どうしよう……。
「あばーば」
……うーん……目があまり見えない。身体が動かせない。
と、言うより。
「あ、あうあ!」
言葉にならない。ていうか、間違いない。
「あう」
私、問答無用に赤ちゃんだわ。
転生って、あるんだ……。
しばらく感心してた私だけど、さすがに命に関わってきた。転生していきなり凍死は嫌だ。
ていうか、死ぬのは一度でこりごりだ。
「あぶーぅ……」
仕方ないので、今の自分にできることをする。すなわち。
「うああああああああああああん!」
大声で泣く。これしかない。
「うああああああああん!」
寒い腹減った誰か気づけていうか気づいてくださいお願いします。
小一時間粘ってたら、ようやく近所のオバチャンが気づいてくれた。おかげでなんとか人生終焉の危機を乗り越えた。ていうか、前世を通じてみても、こんなに泣いたのは初めてだと思う……あー喉痛い。
見つけてくれたオバチャンは、私がいた軒下の家の人だった。その女性から幾人か経由して、私は孤児院でお世話になることになり。身寄りがないは前世と同じになった。
ただし。
「さー、皆! 新しくお友達が増えました! 仲良く面倒みてくださいねー!」
「「「はーい!」」」
前よりは待遇はよさそうだ。
「あうあ!」
「きゃー! かわいいー!」 「だっこしたーい!」 「きすしたーい!」
止めれ。
転生してすぐに、人の初めてを奪うな。
「あー、ち○ち○ないねー!」 「おんなのこだねー!」
やああめええてええ!
何で生まれ変わってすぐに、同性に剥かれなくちゃならないのよおお!
「え!? あかちゃん? おれにもみせて!」
異性はあっちいけえええっ!!
それから数年。
孤児院の先生やら年上の女の子やらに甲斐甲斐しく……ホントに甲斐甲斐しく……ていうか、余計なことまで面倒をみていただき、無事に育った。その間に周りを飛び交う言語を理解できるようになり、この世界の輪郭がみえてきた。
「あーるぴーじーのせかいだぁ……」
一言で言えば剣と魔法の世界。子供達が「暗いー」と言えば先生が魔法で灯りを灯してくれる。たまに見廻りでやってくる警備隊の腰には剣がある。それが日常の世界だ。
「ていうか、あーるぴーじーなら、あれもある?」
ある日、思いたって「ステータス!」と念じてみたら、ステータス画面が現れた。名前に年齢に性別はもちろん。しっかりとレベルもある。あとは『力』やら『賢さ』さら定番の文字の羅列。うわー、なんだか感動する。私、ホントにゲームっぽい世界にいるんだ。
「……ていうか、げーむっぽいってことは、きけんがいっぱい……?」
剣を日常的に持ち歩いている人がいる。当然、治安が良いわけがない。魔法なんて便利なものがある。当然、攻撃も可能だろう。
「……つよくないと、すぐしんじゃうかも」
どうやら新しい人生、気楽にのほほん……とはいかなさそう。
いや、待て。異世界転生に定番のチート能力とかは。
「……ふぐっ」
ステータスを確認するかぎり、チートと呼べそうな技能はない。スキルの欄にあったのは三つ。
前世の記憶
言語理解
魔法の素質(弱)
……厳しい。現状で頼りになるのは≪前世の記憶≫くらいか。
「……よし、きめた」
今から実力をつけよう。今の私は「幼い」のだ。前世の記憶にある訓練の内容を、幼児向けに改良してみよう。ちゃんと年齢にあわせた訓練を積んでいけば……理想的な戦闘力を身に付けられる。アサシンの経験を考慮したスピード特化の戦士を目指してみよう。うまくいけば、前世の強さを越えられる。アサシンとしての、いや、戦士としての私の性分に火がついた。
よし、やってみよう。
「……ん?」
まてよ。
まだまだ成長……するんだよね。だったら……。
「ああ、そうか、そうだよね!」
今から頑張って努力すれば……。
巨乳になれるかもしれない。
よし! これもぜひやってみよう!
まずは、身体を鍛える。前世の戦闘技術を身につける。まだあまりよくわからない魔法を研究する。ただ素質が(弱)という判定だったからあまり期待はできないかもしれない。それでも補助的要素があればマシだ、とことん鍛えてみよう。
そして、何より、巨乳を目指す!
これは自信がある。
前世で私は、嫌になるくらい豊胸について調べた。その知識がやっと役に立つ!
やった! ついに夢が叶う!
立派な巨乳をゆっさゆさ揺らして走りまくるんだ。そして、憧れのビキニを……。
そう、ビキニ……。
「……あ」
この世界に……ビキニってあるよね?
それから本を見たり、たまに見かける女戦士の装備を見たりして調べたけど、その中には……なかった。
「うう、ちくしょう……」
「あー、きたないことばはつかっちゃだめなんだよー!」
「そうだよー!」
「いんちょうせんせいにいってやろー!」
「せーんせいにいってやろー!」
……ひらがなばっかでウザい!!
「「「せーんせいにいってやろー!」」」
「うっるせええっ!」
ゴンゴンゴン!
「「「うわあああああんっ!」」」
……マジでウザい。
脱字や間違いがありましたら、教えてもらえれば幸いです。