第一話 ていうか、私達がマラソン大会でてこずっているうちに、事態は深刻に……!
『マジで時間がない』
次の〝八つの絶望〟へ向かおうと準備していた私達に、ソレイユの方から念話があった。あんだけこっちから念話しても出なかったくせに……。
「ソレイユ、それは違うわ。時間は永遠に刻み『予想範囲内のボケは止めて』……はい」
あらら、意外とマジだったみたい。
「……時間がないって、やっぱり……」
『そうよ。アタシーで開催されているアウトレットセールが、もうすぐ終了なのよ!』
「……………」
『冗談だからね、冗談……あ、こら! 念話を切らな』
……そのまま無限の小箱に放り込んだ。
『時間が無いって言ってるのに!』
「あんたがベタなボケをするからいけないんでしょ!?」
あまりに呼び出し音がうるさいので無限の小箱から念話水晶を取り出したとたん、ソレイユと低レベルな言い争いになった。
「サーチ、その辺りでストップしましょう。魔王様も急な要件なのでしょう?」
ヴィーが止めに入ってくれなかったら、小一時間続いた自信がある。
『そ、そうね。本当に一大事なんだから!』
「わかったわよ……で? ソレイユがそれだけ慌ててるってことは、たぶん七冠の魔狼関連でしょうけど」
『その通りよ! ついに七冠の魔狼が四つ力を集めたわ!』
四つ……残りは三つか。
「残ってるのは……暴風回廊と……」
『闇深き森。サーシャ・マーシャが粘ってくれてるみたい』
粘るって……。
「……どうやったら七冠の魔狼を足止めできるわけ……?」
『えっとね、酒盛り』
がくっ。
『七冠の魔狼もお酒好きみたいね〜〜。サーチと話が合うんじゃない?』
誰が恐怖の大王みたいなヤツと酒盛りしたがるのよ! ……マーシャンを除いて。
「じゃあ今すぐにでも汚泥内海に向かって……」
『そう、それ。それなのよ』
どれ?
『あと残るは暴風回廊と闇深き森、汚泥内海でしょ。同時に攻略しちゃえばいいんじゃね? と思ってね〜』
同時に攻略って……。
「私達が……二手に分かれるってこと?」
……私がそう呟いた瞬間、ヴィーとエイミアの間に不穏な空気が漂ったのは……気のせい。
『んーん。サーチ達には暴風回廊に集中してもらいたいから、他の人に行ってもらう予定だよーん』
他の人?
ソレイユの配下の誰かかしら?
『残念ながらアタシの配下じゃないよ』
ソレイユの配下じゃない……なら。
「新大陸の冒険者でも雇うの?」
『ん〜……近い!』
近いって……。
「魔王様、御言葉ですが冒険者以外の実力者を探すとなると、時間的に厳しいのではないでしょうか」
『冒険者は冒険者でも、今は冒険者じゃない人だっているでしょ』
「今は冒険者じゃないのなら、元……ということよ……ね……」
……元冒険者で腕利き。しかも汚泥内海にすぐ行ける人材って……。
「なあ、サーチ。条件を考える限り、一人しか思い浮かばないんだが……」
「奇遇ですね。私も一人しか思い浮かばないです」
「……それ以外の人物はいないと思われ」
「ま、まさかと思ってましたけど……あの方ですか?」
「……みんな同じ人が浮かんだみたいね……。一緒に答え合わせしよっか」
全員頷く。
「んじゃあ、せーの………「「「「リファリス!!」」」」」
『あったり〜〜♪』
「……で? 何であたしが巻き込まれないといけないわけ?」
『世界平和のため! お願い、リファリス!』
……久々の休みで朝寝と洒落込んでたのに……エリザに叩き起こされる羽目になった。一体誰が、と思って念話水晶に出てみれば……さーちゃんだし。
しかも世界の平和の為に働いてほしい? ……さーちゃんじゃなければぶち殺してたわ。
「あのね、突然世界の危機だの何だの言われて信用すると思う?」
『……思わないわね』
「大体さ、そんなに簡単に世界が危機に陥るような事が有り得る?」
『…………嘆きの竜にちょっかいを出すとか?』
……有り得たわね。
「……で? さーちゃんが言う世界の危機って何なの?」
『……七冠の魔狼は知ってる?』
!!?
「ディ、七冠の魔狼ですって!?」
『……知ってる……のよね?』
「……知らない」
ガチャアアン! ガタガタ!
あら、さーちゃんが水晶から消えた。
「もしもーし。ベタなずっこけをありがとねー」
『す、好きでベタなリアクションしたわけじゃないわよ!』
そりゃそうだ。
『……ホントに知らないの?』
「いや、知ってるわよ」
どんがらがっちゃあん!
おお、派手にいったわね。
『し、知ってるんなら最初から言いなさいよ!』
「なーに言ってんのよ。昔っからでしょ、あたしにからかわれてるのは」
『……そうね、そうだったわね』
「詳しい事、話してくれる?」
『……今度は茶々いれないでね?』
ここでさーちゃんから、今までのあらましを聞いた。
「ふーーん……まさか本当に七冠の魔狼が存在するなんてね……」
単なるおとぎ話と思ってたけど……。
『それでリファリスに汚泥内海のことをお願いしたいのよ』
ふむ……『七つの美徳』の象徴の確保……か。どっちにしても近々行く予定ではあったけど……。
「……ん〜……構わないけど……タダってわけにはいかないな」
『はあ!? リファリスあんた、世界の運命がかかってるのに……!』
「それはそれ、これはこれ。モチベーションってヤツが必要なのよ」
『あんたのモチベーションって……まさか………女の子!?』
「あったりぃ♪」
『わ、私はイヤよ!?』
「……安心しなさい。あなたには欠片ほども興味ないから」
何回小さい頃のさーちゃんとお風呂入ったと思ってるの? 身体の隅々まで知ってる相手なんか興味ないわよ。
「あなたのお仲間……可愛い子が揃ってるじゃない」
『ま、まさかとは思ってたけど……』
「そうね……へヴィーナさん」
『ぜっっったいにダメ!!』
あらら、さーちゃんの本命?
「じゃあエイミアちゃん」
『ぜっったいにダメ!』
……対抗馬か。
「リジーちゃん」
『ダメ』
……大穴?
「リルちゃん」
『無問題』
……あっさりと仲間を売ったわね。さーちゃんらしいけど。
「……わかったわ。胸はかなり小さいけど……まあ我慢しましょう」
『モチベーションは大丈夫なの?』
「大丈夫よ……足は綺麗だから。それでモチベーションは十分よ」
ぞくぞくっ
「……!? ニャ、ニャに? この寒気……」
この章の主役はリファリス!?