おまけ リルの恋路の行方は……?
これを忘れてましたので、もう一話追加。
「では世話になったな」
そう言うとエリートさん……エリトさんは馬車に乗り込む。
「あ、あの! エリト兄さん……」
「ん? そこまで心配せんでも本名では呼ばぬよ」
「ち、違います! ……あの……」
「何だ?」
「その……近くに行く事があったら……その……家に……」
「何度も言うが、私がお前を拒絶する理由はない。好きな時に何時でも訪ねてくると良い」
「……はい!」
「それから……リル」
「ん? じゃなくて、はい!」
「……お前にも何度も言うが、敬語は不要だからな。それと、お前の為に私の隣は何時でも空けておくぞ」
「は、はい……?」
「ではなサーチ。妹を色々な意味で頼む」
そう言ってからエリトさんは扉を閉めた。いろいろな意味でって……。
「あ、そうだ。エイミア」
馬車の発車直前にエリトさんが窓を開く。
「我が家を訪ねてくるのは構わないが、昔のように一緒に風呂には入らないからな」
「な、ななな……!」
エイミアが「ボンッ」という音を立てて赤面した。
「はははは……ではな。出してくれ」
エリトさんの声に馭者さんが頷き、ムチを振り上げる。エイミアが意味不明な声を上げる中、馬車はゆっくりと進んでいった。
そんな馬車を見送りながら、昨夜のことを思い出す……。
「……サーチか。何の用だ?」
出立の準備で慌ただしい中、エリトさんは私の呼び出しに応じてくれた。
「ごめんなさい、忙しいところを。実はあなたのお父さんのことなんだけど……」
「……父が全てを話したか?」
「ええ……そのことで」
「父がイテリーに操られていた件だろう?」
……やっぱり知ってたのか。
「じゃああなたは、お父さんの真意を汲み取って……?」
「……そこまで誉められた行動ではない。父は金にだらしなくて、女には見境無しで、無能で、醜悪で、呼吸をされるだけで虫酸が走る……」
「ちょい待ちちょい待ち。少しは優しくしてやった方が」
「断る」
……あの親父さん……エリトさんに何をしたのよ……?
「だが………母とエイミアへの愛情だけは本物だった。だから協力できる事はしてやった。それだけの事だ」
「……じゃあ……あんたはお父さんに会うつもりは……」
「ない。私とて忙しい身だからな、有って無いような親子の縁にほだされる時間など不要だ」
……親子揃ってドライだこと。
「それに……愚かな父から押し付けられたドノヴァン領の面倒も見なくてはならん。ますます忙しくなるな」
ま、何だかんだでお父さんの願いは汲んでくれるんだ……素直じゃないな。
「人様の家の事情だし、私が口を出す気はないわ。ただし、エイミアに関しては……」
「できれば……黙っていてくれ。今は」
「今は……ね。いつか話すわよ?」
「……その判断はサーチに任せる。どうか……妹を頼む」
「当然よ。それよりさ、一つ気になってたんだけど……」
「何だ?」
「あんたとエイミアって……双子?」
「い、今更それか!?」
……結論、双子でした。
「……行っちまったな。あーあ……結局言えなかったなあ……」
「……何を?」
「ん? あ、ああ。す、好きだって……きゃ♪」
「「「「……きゃ? リルが、きゃ?」」」」
「ななな何だよ! 私が乙女っぽいこと言うのがダメなのかよ!?」
ダメじゃないけど……違和感はありありだけど。
「そんなことより……あんたエリトさんが言ってたこと、何にも聞いてなかったの!?」
「は? 聞いてたよ」
「じゃあ何て言ってたか復唱しなさい!」
「え? えっと………………世話になったな」
「他には?」
「えっと………………忘れたニャン♪」
「…………」
「サーチ、待ってくださいサーチ! 突っ込みは構いませんが、鈍器は止めましょう!」
ヴィーに羽交い締めにされる。背中の柔らかい感触で怒りが吹っ飛んだ。
「……はあ……私から説明するわ。エリトさんは『私の隣は何時でも空けておく』って言ったのよ」
「……んん?」
察しが悪いわねっ。
「私の隣ってのは、貴族の男性の隣に並び立てる女性のこと。つまり……」
「……つまり?」
まだわからんのか?
「……さーて、私達も出発しましょうか」
「ニャ!? そ、そこまで話しておいて止めるのか!?」
「だって〜〜その方がおもしろそうだし〜〜」
「おもしろくねえよ! 教えてくれよ、頼むよ!」
……まあ、このままギャアギャア騒がれてもうるさいだけか。
「わかったわよ……つまり、伴侶になってってことじゃない」
「は……はんりょ?」
「あんたは『はい』って答えてたでしょ? ぶっちゃけて言えば、エリトさんはあんたにプロポーズした。あんたは了承した。それだけのことよ」
「……はへ?」
「そ、そうだったんですか!? リル、おめでとうございます!」
「祝。\BANZAAAAI/」
「……本当にリルがお義姉さんになっちゃいましたね……でも今まで通り、呼び捨てでいいですよね」
ていうか! あんたらも気づいてなかったのかよ!
「ヴィーとリジーはともかく、あの言い回しは貴族特有のヤツでしょ? 何でエイミアが気づかないのよ」
「そ、それは…………今日は良い天気ですね〜〜」
……おもいっきりどんよりと雲に覆われてますけど……。
「……まあいいわ。ヴィー、ソレイユとは連絡取れた?」
「いえ。一応デュラハーンさんにも念話をしてみたんですけど……」
……いろいろ忙しいみたいね。
「……仕方ない……ソレイユにばかり負担はかけられないから、自分達で次の〝八つの絶望〟へ行くしかないかな」
「次の……ですか? そうなると汚泥内海……ですかね」
「そうね。急いで『七つの美徳』の象徴を集めないと……」
今まで集めたのが五つ。今回ので六つ目だから……………あ。
「今回の………エリトさんだあああっ!」
「ど、どうしたのですか!?」
「こ、今回の報酬! 確か『七つの美徳』の象徴の一つをエリトさんが持ってるって!」
「…………あ、あああ! そうです! そうでした!」
「急いで追っかけるわよ!」
「で、でもどうやって……」
「私が音速地竜を借りてくるから、あんた達はとりあえず先行してて!」
「わかりました。なるべく早くお願いします」
全力で近くのギルドへ駆け出した。
ドドドドドドドド!!
キキィィィッ!
「お待たせ! ていうか何でここにいるのよ!?」
先に行ってって言ったのに、さっきと同じ場所にいるし!
「リ、リルが……呆けてしまって……」
しまった。言葉がストレート過ぎたかな。
「っ……仕方ない! 馬車に放り込んで!」
文字通りにヴィーがリルを放り込む。
「みんな乗って! じゃあ全速力で行くわよ!」
……縮地を超えたスタートダッシュで、私とヴィー以外がいきなり気絶した。
「何ですかこれ!? 速い速い! すっごく楽しいですね!」
……意外とヴィーがスピード狂なのが判明した。
「……『七つの美徳』? 私は持っていないぞ」
一時間とかからずに追いついた私達。早速馬車に押し掛けてエリトさんに聞いた答えが……これ。
「ないって……それを引き換えにマーシャン……サーシャ・マーシャ陛下に口利きを頼んだって……」
「そうだ。サーシャ・マーシャ陛下がお持ちだ」
「「……は?」」
「出場を断られたので、陛下に口利きを依頼したら『ならば家宝と引き換えじゃ』と言われ、その時に陛下に献上したが」
……マーシャン……!
「どういうつもりよ! 最初から私達を騙してたわけ!?」
『ま、まさかこれが「七つの美徳」の象徴なのか!?』
マーシャンがつまみ上げたモノは……。
「し、下着?」
『一応、鎖帷子じゃが……』
「……マーシャンは何でそれを欲しがったの?」
『お金になりそうなモノならば、家宝じゃろ?』
……。
「マーシャン、お金に困ってるの?」
『困ってなければ冒険者なぞしとらんわい!』
……確かに。
その後、マーシャンに鎖帷子を転送してもらい、五つ目の象徴『忍耐の鎖帷子』を手に入れた。
「リルー、大丈夫ー? リルー?」
「…………」
……ダメだこりゃ。
明日から新章です。