第十九話 ていうか、今回は≪竹蜻蛉≫の解説♪ 司会進行はヴィー、解説はサーチでお送りします。
A級冒険者〝竹竿〟の秘剣〝竹蜻蛉〟は、高速の剣として知られている。
身の丈以上の竹竿を下段に構え、目にも止まらぬ速さで斬り上げる。佐々木小次郎の使ったつばめ返しと同一の技、と言えばわかりやすいと思う。
……だけど……実際は違う。
私が以前に初代〝竹竿〟から〝竹蜻蛉〟を受けた際、≪絶対領域≫を使用した絶対的な防御であっても、ギリギリ受けきれるかどうか……という凄まじい数の斬撃を受けた。けどそれは竹竿による攻撃ではない。
暗器の達人であった〝竹竿〟の超連続暗器攻撃……これが〝竹蜻蛉〟の正体なのだ。
初撃は単なる囮でしかない。竹竿を振り上げて相手に当たる、または避けた際に、衣服・髪の毛の間・竹竿の中……あらゆる場所に隠してあった暗器を同時に投擲する。
当然相手に気づかれるようなヘマはしない。竹竿を振った遠心力を利用して高速回転をし、暗器の投擲するのだ。あまりの高速回転ゆえに、相手に暗器の投擲が見えることはない。この高速回転が秘剣〝竹蜻蛉〟の名前の由来なのだ。
「……というわけ」
「す、凄いですね……色々な意味で」
………確かに。
相手に見えないくらいの高速回転で武器を投げまくるより、相手に見えないくらいの斬撃で一発で仕留めたほうが早い。体力的にもエコだし。
「サーチみたいに無駄な動きを嫌うタイプには、敬遠される技ですよね……」
「そうね。私もそう思ってたんだけど……」
……やり方次第では必殺技になり得ると、エイミアの一言で気づかされたのだ。
だけど初代〝竹竿〟の〝竹蜻蛉〟をやろうと思うと、ビキニアーマーみたいな露出系の装備では絶対にムリ。無限の小箱に武器を隠せるけど、取り出すまでに時間がかかるから問題外。ショートカットじゃ数が限られる。
「だけど……私には≪偽物≫と≪絶対領域≫がある」
≪絶対領域≫を必要最低限の範囲に拡張し、まずは囮の初撃を放つ。初撃で極ればそれで良し。避けられた場合は≪偽物≫で大量の武器を放ち、追撃する。
「つまり、必ず相手を仕止めるための二段構え……事実上の絶対回避不能な技ってわけよ」
「それを一瞬でこなすのですか? もう人間技じゃありませんね……」
……≪石化魔眼≫を持ってる人がいうセリフか?
「先程の説明ですと≪絶対領域≫の内部では、何処からでも≪偽物≫を起動できるのですね?」
「……ま、一応は」
「でしたら、最初から≪絶対領域≫+≪偽物≫のコンボで武器の投擲をした方が早いのでは?」
できるんなら苦労はない。
「さっき試したら…………十秒でMPが尽きた。問題外よ」
「十秒ですか……それは実用性は皆無ですね。だから≪竹蜻蛉≫に留めたのですか」
≪竹蜻蛉≫くらいの時間なら、あんまりMPを消費せずにすむしね。
「でも強力な事には代わりありません。十秒間だけとはいえ、いざという時の奥の手になるのでは?」
「そ……うね。奥の手か」
≪竹蜻蛉≫以上の奥の手……それならありかも。
「よーし採用。じゃあ発案者のヴィーが名前つけてよ。私の≪絶対領域≫、よくよく考えたらまだ無名だったのよね」
「え、ええ!? 私がですか? ……何でしたら、ヒントをくれたエイミアに」
「ダメ。絶対にダメ」
エイミアのヤツ、自分の≪絶対領域≫に「めっちゃ痺れるヤツ」って名づけようとしてたのよ!? 私が≪電糸網≫って名前を強制しなかったら……恐ろしいネーミングセンスだわ。
「…………わかりました。でしたら……『私とサーチの世界』ふぎゃ!」
「……殴るわよ?」
「も、もう既に殴ってますよ! 冗談ですから、冗談」
良かった……ヴィーまでエイミアレベルだったらどうしようかと思ったわ……。
「……でしたら≪私だけの領域≫とか……」
……どっかで聞いたことがあるわね……。
「……却下」
「でしたら……|≪あなたの世界を殺す≫《キル・ユア・ワールド》で」
それも聞いたことあるわね! ていうか恐いって!
「却下!」
「でしたら……さうざんど・ちぇりーぶろ」
「待った待った! それはダメよ!」
「そうですか……でしたら≪舞闘領域≫でどうでしょう?」
………最初からそれを言ってほしかったわ。
「それじゃあ……私の≪絶対領域≫の名前は≪舞闘領域≫に決定!」
「よ、よろしいのでしょうか?」
「何が?」
「サーチの≪絶対領域≫は防御に特化していたのではなかったのですか? それで名前が≪舞闘領域≫は……」
あ、そういうこと。
「別に防御専門ってわけじゃないから、心配はいらないわよ。領域の効果を防御に応用してただけだから」
「ならいいのですが……それよりも」
ん?
「助けて頂いたのに言う事ではないのかもしれませんが……ガードナー伯爵を殺してよかったのでしょうか?」
………あ。
「エイミア、リジー! ようやく出番よ!」
『……すっかり忘れられてる、と思ってました』
「忘れるわけないじゃない。あんた達が係員に化けて内部の情報を流してくれたから、いくつかの罠を回避できたのよ」
エイミアとリジーが私達と別行動していた理由。それが実行委員会の内部調査だ。
エイミアの親父さんのことだから、実行委員会の誰かと繋がりがあるんじゃないか……という懸念もあって、エイミアとリジーを≪化かし騙し≫で外見を変えて潜り込ませたのだ。
『それより、私達を呼び出したって事は……ガードナー伯爵絡みですか?』
「絡みっていうか、まさにガードナー伯爵。ごめん、うっかり殺しちゃって」
『そうですか、うっかり……はいい!? 殺しちゃったって……!』
「ヴィーが襲われたのよ? 殺されて然るべきじゃない?」
『なら仕方ないですね。ヴィーは大丈夫ですか?』
「もう回復したから大丈夫。それより手筈についてはヴィーから説明してもらうから」
『わかりました〜』
「……ヴィーです。では説明します」
『そ、それよりも! ヴィー大丈夫!?』
「え? あ、はい。もう回復しましたから。では説明を……」
『何をされたの?』
「え? あ、はい。腹を数発殴られただけです」
『数発って……! 本当に大丈夫なんですか!?』
「はい。もう回復済みです。それでは説明を……」
『他には何をされたの!?』
「え? あ、ちょっと背中を蹴られただけです」
『背中を!? 本当に本当に大丈夫なんですか!?』
「はい、回復済みです。今度こそ説明を……」
『他にも何かあったんですか!?』
「あの……説明……」
……見てて飽きないわね、あんた達。