第十七話 ていうか、順調に走っていけるはずもなく、やっぱり敵が待ち構えていた!
エリートさんを視線で追いながらも、イメージトレーニングを重ねる。
「……理屈上はうまくいきそうなんだけど……実際にやってみないとダメか………ヴィー!」
『はい、何でしょう』
「少しだけ離れるからお願い」
『わかりました』
念話を切ると、周りに誰もいないことを確認する。
「……≪偽物≫」
金属製の竹竿を作り出し、下段に構える。目の前の木に照準を合わせて……!
「……秘剣〝竹蜻蛉〟」
つばめ返しの要領で斬り上げる!
ガヅンッ!!
「んきぃああああああ! 手が! 手がああ! ジーンと、ジーンと……」
こ、これじゃあ金属の棒で木を殴っただけじゃない! 斬る、と同時に変化も起こさないと意味ないじゃん!
「イタタ……でも竹竿からの変化ってムズいなあ……ただでさえ武器として認識しづらいのに……」
本家の〝竹竿〟が〝竹蜻蛉〟を繰り出す場合は、竹竿を使わなければならない理由があった。私の場合は……あ。
「そうか……私は武器そのモノを変化させるんだから、わざわざ竹竿の形状にこだわらなくてもいいんだ……」
ならイメージしやすい、使い慣れた武器でやれば……!
「何がいいかな……リングブレードは不向きだし……短剣だと長さに問題が……。うーん……長い武器なんて、私は使ってなかったからなあ……」
……なら、私が前世で好きだった三國志に出てくる武器とか……?
関羽の青龍偃月刀とか、張飛の蛇矛、あるいは呂布の方天画戟……どれも長すぎるかな……剣はないかな、剣剣剣……。
「……そういえば……三國志のアクションゲームで使ってた剣があったな……」
誰かが使ってたよね……あれよ、あれ。盗賊の親玉辺りが使ってそうな……あ、思い出した!
「青龍刀ならいいかも!」
正式名称は違うらしいけど、よく中国の武器として紹介される片刃の剣。あれならイメージしやすいかもしれない!
「……イメージよ、イメージ……」
手の平に魔力が集まって、形作っていく……。しばらくすると、手にズシリと手応えがくる。
「よし、完成! まさにイメージ通りの青龍刀!」
柄にドクロの装飾があるのは、盗賊の親玉のイメージが被ったと思われる。
「じゃあいくわよ…………秘剣〝竹蜻蛉〟!」
ズドドドドドドド! ザクンッ!
「いったああ……またジーンときたあ……けど……」
幹には青龍刀が刺さった跡、そして数十箇所に渡る刺し傷が残されていた。
「……よし! 完成だわ! 私の≪絶対領域≫と〝竹蜻蛉〟の合わせ技、真の≪竹蜻蛉≫!」
この瞬間に私のスキルの欄に≪竹蜻蛉≫が追加された。
鼻歌混じりで護衛に復帰する。変わったことがないか、ヴィーに念話して確かめ……ってあれ? ヴィーから着信?
『サーチ、緊急事態です! エリトさんとリルが多数の武装集団に追われています! すぐに加勢して下さい!』
……思いきった手で来たわね! もう形振り構っていられないってわけ!?
「わかったわ! ヴィーも加勢お願い!」
『わかりました、すぐに向かいます!』
私もさっき作った青龍刀を携えたまま、全速力で駆け出した。
「くっ! 父も手段を選ばなくなったな!」
「でもこんな大胆なことをしてバレたら、エリト様の親父さんの地位も危ないんじゃ!?」
「おそらく私達を亡き者にしてから、この大会の関係者を全て抹殺するつもりなのだろう」
「んなムチャな! 何人いると思ってんだよ!」
「父ならばやるさ! 手段は選ばないし、決めた事は必ず遂行するからな!」
「優秀なのかバカなのかわかんねえええっ!!」
「私にも判別がつかん! だから厄介なのだ!」
……間に合ったあああああっ! とおっ!
ごすっ!
「うべじっ!?」
「サーチか! 助かったぜ!」
「お礼は新しいビキニアーマーをオーダーメイドでお願い! さっさと片づけるわよ!」
リルが「高いよ!」 と絶叫していたが、気にしない気にしない。
「うりゃあ! ……とっと」
慣れない武器はやっぱりムズい。青龍刀の重さに身体を持っていかれ、おもいっきりバランスを崩す。
「隙あり! 死ねえ!」
その隙に敵が斬りかかってきた! やべ!
ギインッ! ドガッ!
「ぶごっ!?」
「サーチ、死にてえのか!」
た、助かった……!
「ごめんごめん、まだ使い慣れてなくって……さ!」
どすぅ!
「ぐぶぅ……!」
仕返しに腹に青龍刀を突き立てる。
「≪偽物≫!」
引き抜いた青龍刀を短剣二本に作り替え、左手だけ逆手に持つ。
「よっし、これで準備万端!」
「サーチ、これでチャラだからな!」
……ちっ。
得意な武器を手にした私に、敵が相手になるわけがなく。
「ぎゃあ!」
「は、速……ぐああ!」
「ぐぶっ……!」
次々と短剣のサビとなっていった。
「こんなムチャするくらいだから、それなりの刺客を用意してると思ったんだけど……」
「とんだ見当違いだったな! こりゃ最低ランクの冒険者だぜ!」
私達の言葉に激高した割に、あっさりとブッ飛ばされていくとこを見ると……最低ランクは間違いない。
「もう1/3を戦闘不能に……大したモノだ」
「大丈夫、もう一人来るから」
私がエリートさんに答えると同時に、電気の塊が空から落ちてきた。
バヂバヂバヂィ!
「「「ぎゃあああああああ!!」」」
「……はい、残り2/3も片づいた。遅かったわね、ヴィー」
「申し訳ありません、途中にも男達が集まってましたので」
どうやらヴィーが大掃除してきてくれたらしい。ご苦労様。
「じゃあこれで全部かな。生き残ってるのは警備隊に突き出せばいいか」
「……そううまくはいかねえみたいだぞ」
リルの声と同時に、一人の大男が出てきた。
「随分と腕利きを雇ったな、エリト・ドノヴァン」
「き、貴様は……!」
筋肉の塊みたいな戦士体型の割に、貴族的な言葉遣い……こいつは。
「……例の筋肉バカ?」
「そうだ。一応エイミアの婚約者、ガードナー伯爵だ」
「……筋肉バカだの、一応だの……貴族への礼儀をわかっておらんようだな」
「申し訳ありませんが、仲間を無理矢理娶ろうとする輩を敬う必要はありませんので」
「……俺に意見するとはいい度胸だ。少し調教してやる必要があるな」
「調教ですか。やれるモノでしたらやってみなさい!」
あらら、珍しくヴィーがやる気になってる。無限の小箱から名無しの杖を取り出すと、そのまま殴りかかっていった。
「はああああっ!」
ぶうんっ!
「ふむ……女にしては大した威力だ。だが」
ヴィーの一撃を避けると、拳を握り。
「大振りなんだよぉぉっ!!」
ズドドドッ!
「あぐぅ! くふっ」
ヴィーの腹に連続でパンチを叩き込み。
「おらあっ!」
ドゴオッ!
「きゃあああああ!」
渾身の回し蹴りを背中に叩き込んだ。吹っ飛んだヴィーは地面に叩きつけられる。
「ヴィ、ヴィー! 大丈夫か!?」
急いでリルが駆け寄るけど……ヴィーは気を失っていた。
「……リル。エリトさんと一緒に先に進みなさい」
「な、何を言ってるんだ! ヴィーをこのままに」
「お願いだから! 私に任せてくれないかしら!?」
「サ、サーチ…………わかった。ヴィーを頼む」
「い、良いのか? 仲間が怪我を」
「エリト様も急がないと! エイミアのためだろ!?」
「わ、わかった……」
「待て。貴様らを先に進める許可を出した覚えはない」
「いいのよ。私が許可を出したんだから」
「な、何……!」
突然目の前に現れた私に、おもいっきり動揺するガードナー伯爵。
「何を勘違いしてるか知らないけど、あの二人に指示を出していいのは……あんたじゃないわよ!」
ばぎぃっ!
「ぐぼ……!」
蹴飛ばされ、筋肉バカが地面に転がる。 その隙にヴィーを抱き上げた。
「き、貴様ああ!」
「五体満足でいられると思うなよ? 私のヴィーを傷つけた報い、たっぷりと受けてもらうから!」