第十六話 ていうか、護衛中に敵のアジトを発見!
結構残虐表現があります。
『さあ、上り以上に足への負担が大きい、パンドラーネの山下り! 昨日全区間を走ったばかりのエリト選手は大丈夫か!?』
ヴィーがしっかり≪回復≫しているので無問題。
『背後には新大陸選抜チームが迫ってきている! 差は縮まる一方だーー!』
……確かに……結構詰めてきたわね。
「ヴィー、遠隔で≪石化魔眼≫はイケる?」
『軽く、でしたら』
「なら筋肉バカチームの選手の靴を、一瞬だけ石化して」
『…………相変わらず悪どい……でも其処も魅力の一つです』
悪かったわね! ていうか、そこも魅力的って言われても嬉しくないわよ!
『……≪石化魔眼≫』
『……おーーっと! ここでアクシデントだ! 突然新大陸選抜チームの選手が倒れ込んだぞ!? 脱水か!? 脱水症状なのかーー!?』
『危険な倒れ方でしたねえ。心配ですね』
『係員が駆け寄るが……あ、大丈夫のようです。立ち上がりました。走行可能なようです』
『何があったんでしょうねえ。靴を不思議そうに眺めていますが……』
……あの選手、まさか靴が急に石に変わったなんて思うまい。
とりあえず、差は広げることはできたわね。
『それにしても、擦りむいた膝が痛々しいですね』
『地味に痛いですからね。走りに影響が出なければいいですが』
……ごめんよう。
……そんなこんなで無事に坂を下り切り、第六区も無事に一位通過した。
第七区に入り、住宅が増えてくると、再び弓矢による襲撃が予想される。私も高所に意識を向けながらエリートさんの近くを進む。
「……あ、敵をはっけーん」
視界に入った弓術士の背後に回り、口を塞いでから針を刺し通す。
「うぶっ! っ! ……ぅ……」
白目を剥いて倒れる。あ、女の弓術士だったか。
「……せっかく可愛い子なのに……南無」
殺した私が言うのも変かな。
「おーい、交代の時間……き、貴様! リサに何をした!」
あらら、バッドタイミング。
「敵だ! 早く来てぐぶぅ!」
再び口を塞ぎ、腹に短剣を刺した。≪偽物≫で短剣の先端を変形させ、ハリセンボン状態にする。
「ぐむううぅぅぅ………っ………」
……痙攣して、動かなくなった。
「痛かっただろうけど、ごめん。ちょっと実験してみたかったから」
一人言を呟いてから軽く合掌し、内部へと潜入した。中に複数の気配を感じたから、たぶんここが敵のアジトだ。潰しておくのに越したことはない。
「フンフンフーン♪」
階段を二階分降りた踊り場に、ヘタクソな鼻歌を歌う見張り発見。実験台になってもらいます。
自分の≪絶対領域≫を広げ、領域内に見張りを入れる。
「≪偽物≫」
それから針を伸ばし、ゆっくりと見張りの後頭部に近づけていき……。
ズブリッ
「けはあっ……ぁ」
後頭部から侵入した針は、見張りの眉間を貫通した。
「……やっぱり……」
これで確信を得た私は、≪絶対領域≫を広げたまま移動する。
何を確信したかって? それはまたあとで、ね。
一番気配を多く感じる部屋に着くまで、さらに三人ほど片づける。全員弓術士らしく、近距離戦に不慣れだったから楽勝だった。リルを見習え。
「さーて……この部屋でボス戦かな」
ここまで来たら不意討ちも不要。
ばあんっ!
ドアを蹴破って中に入る。
「はろはろ〜〜♪」
「な、何だお前は!?」
「何だって……ドアを蹴破って入ってくる友達なんていないでしょ? 敵に決まってんじゃない」
「!! ……お前ら、こいつを殺……せ……!?」
剣を抜こうとした手が不自然に止まる。室内いたヤツも全員同じ。突然動けなくなった自分自身に動揺している。
「な、何でだ!? 何で身体が……?」
「……あんた達、自分の身体に何か巻きついてるのがわかんない?」
「巻きついてって……何だこりゃ? 糸か?」
「糸が身体中に巻きついてやがる!」
「そうよ、糸。あんた達の身体は≪偽物≫で作った鋼鉄製の糸で、がんじがらめになってるのよ」
「な!? ≪偽物≫だと!? あんな使えない魔術で、これだけの人間を行動不能に!?」
「で、できるわけねえだろ! ≪偽物≫は自身から一定の範囲内でしか使えない魔術だぞ!」
そう、本来≪偽物≫は近距離でしか使えないハンパな魔術。だから使えない魔術の代名詞的な扱いをされていた。
だけど……。
「心配しなくても、あんた達がいる場所は私の≪絶対領域≫内。それはね……」
≪偽物≫でナイフを作り、敵の足元に投げる。
ナイフは地面に突き立ったまま霧散しなかった。
「……私のすぐ近くにいるのと同じことなのよ」
この間のエイミアの一言で、ふっと考えたのだ。≪絶対領域≫を持つ私の場合、≪偽物≫は一般的なモノと何か違いがあるのか、と。
一番最初の女の子で、長さの限界を再確認した。次の男で、作りだした武器の変形を試した。次の鼻歌男は、≪絶対領域≫内での≪偽物≫を試した。
結果としてわかったこと。≪絶対領域≫は、私の身体の一部に等しい。つまり、≪絶対領域≫内ではどこからでも≪偽物≫が使える……!
だから何もない空間にナイフをたくさん作り。
「ひ!」
ドスドスドスドスドスドスドスッ!
「ぎゃああああああ!」
一気に突き刺すこともできる。
また、鋼鉄の糸を操り。
「いいい痛い痛い痛い! 締め付けないでえええ! 千切れる千切れるぅぅぅ!!」
ギィゥゥゥゥ……ズバッ
「あああああああっ!」
ザシュズバズバッドシュ
ボトボトボト
……一瞬でバラバラにもできる。
「ち、チクショウがああ! 殺せ! 殺しやがれえええ!」
「……一応聞いとくけど……誰に雇われた?」
「言うかああ! 言ってたまるかああ!」
……でしょうね。なら。
「望み通りに殺してあげる。ただし、いろいろ試してからね」
男の顔が、絶望の色に変わった。
「うぐ……はあはあはあ……」
無事に使いこなせたけど……身体への負担が大きすぎる。
エイミアに貰ったポーションを飲み干しても、回復したのは六割くらい。これは実戦では使えないわね。
「せめて……一瞬だけ使うとかできれば……負担も少なくて済むんだけど……」
そうだ。一瞬の必殺技として使用すれば、あるいは……例えば〝竹蜻蛉〟みたいに………ん?
「……竹……蜻蛉……」
このとき、私の中で何かが閃いた。