第十四話 ていうか、優勝を祝してカンパーイ!
「「「「「カンパーイ!!」」」」」
これぞ勝利の美酒! あー美味しい!
私達は優勝祝いで酒場に繰り出していた。無論、全部エリートさんの奢り!
「さあ、今日は金づるがいるから飲み放題食べ放題よー!! エリートさんを破産させる勢いで飲み尽くすわよー!!」
「「「おーー!」」」
「止めてくださいね? シャレになりませんからね?」
エイミアは何をマジに受け取ってんのよ。冗談に決まってるじゃない!
「ほらほら、あんたも飲みなさいよ〜〜!!」
「え、ちょっとサーガボガボガボッ!!」
「サーチ! エイミアの口に直に一升瓶をつっこむのは止めろ!」
「何で止めるのよ〜〜? ていうか、あんたが飲みたいのか?」
「何でそうなるガボガボガボッ!!」
「……ヴィー姉、今日のサーチ姉は一段とハイテンション」
「そっとしておきましょう。サーチも今日一日何かと気苦労が絶えませんでしたから」
「そうよそうよ! 誰かさんのせいであちこち走り回されたのは、私なんだからね! 責任とって全部飲みなさい!」
「ガーボガボガボガボ! ごほごほぶべぇっ!」
「あーーーー!! 私のお酒を吐き出しやがった! 謝れ! 吐き出したお酒さんに謝れ!」
「謝る対象がおかしいだろがっ!?」
あんたね、そういうのを逆ギレって言うのよ!
「謝らんのなら許さん! そこに直れ、手打ちにしてくれる!」
「おう、殺れるもんなら殺ってみろ!」
「サーチ姉! リル姉! 殿中でござる! 殿中でござる!」
「「何で殿中!?」」
「リジー、関わらない方がいいですよ」
「わかった。ただ……」
「……ただ?」
「一度やってみたかっただけ」
「…………リジー、命懸けのボケは止めなさい」
……私、エイミア・ドノヴァンは決意しました。何度も何度もサーチに助けてもらいました。そして、今回も……。
この恩はどのような事をしても返せるモノではありません。だったら……!
「サ、サーチ! 本当にありがとうございました! お、お礼として……お礼として……私の身体を好」
ばぐんっ!
く、苦しい! 暗い! 狭い! 一体何が起きたのですか!?
「うーっ! うーっ!」
「あれ〜〜? ヴィーの蛇は、何を飲み込んでるの?」
「少しうるさい方がいらっしゃいましたので、少しだけお仕置きを」
「ふーーん……ま、ほどほどにね。そういえばエイミアは?」
「先程出ていかれましたよ。お花摘みではありませんか?」
「そっか……って、こら! リル逃げるな! まだサソリ固めが極ってないっつーの!」
「…………ふう。危なかったですね」
「うーっ! うーっ!」
「すみませんがエイミア、少し大人しくしていて下さいね」
「……ヴィー姉、恐い……」
「ギニャアアアアア! ギブギブギブアップ!!」
カンカンカン!
ヴィーが近くにあった皿を叩く。ナイスナイス!
「勝者、サーチ!」
「うぃーーーーっ!」
「……ぴーーぽーーぴーーぽーー……」
泡を吹いたリルを、リジーが引き摺っていった。どこへ連れてったかは不明。
「うっしゃあ、勝利の美酒じゃああ!」
一升瓶を掴むと、そのまま一気飲みする。
「サーチ、そんなに飲んで大丈夫ですか!?」
そういえばヴィーのヤツ、全然飲んでないわね……手招きして呼ぶ。
「何ですかサーチむぐぅっ!?」
ごくごくごくごく
一気飲みしていた一升瓶の酒を、ヴィーに無理矢理飲ませる。あ、よくよく考えたら間接キスだわ……どうでもいいけど。
ごくごくごくごく
「……ぷはあっ!」
ヴィーはお酒のせいなのか、私の飲ませ方が原因なのか、身体中が真っ赤に染まり。
「…………はう」
そのままノックアウトした。ちーーん。
するとヴィーの頭の蛇から……。
「はあはあはあ……し、死ぬかと思いました〜〜」
……エイミアが出てきた。なぜ?
「何をやってんのよ?」
「サ、サーチ! 実は、実は……私……決心したんです!」
「……何を?」
「私の身体を好」
ばぐんっ!
「うーっ! うーっ!」
……もう一度ヴィーの蛇に飲み込まれた。
「ヴィー起きたの? ……ってまだ寝てるか……」
……そして、誰もいなくなった。
ヴィーに飲み込まれたエイミアがだんだん動かなくなっていく。さっきまでモゾモゾしてたんだけど……。
「……ま、いっか。飲み直そ」
そう言って一升瓶の封を切る。そのままらっぱ飲みしようとしたら……。
「ここか。随分探したぞ」
思わず酒を吹き出しそうになった。
「エ、エリートさん!?」
「エリートではない。エリトだ。何回言わせれば気が済むのだ?」
何回言ってもムダです。わざとですから。
「すいません。それで何か御用ですか?」
「うむ。妹に確認したい事があったのだが……」
「ああ、エイミアですか…………あ」
やべえ。ヴィーの蛇に飲み込まれたまんまじゃん。
「エイミアは……いないようだな」
「は、はい。今は少し外しています」
「……どこへ行った?」
うげ。しつこい。
「え、えっと…………ディ、闇深き森へ行きました!」
「な、何だと!? たった一人で〝八つの絶望〟へ向かったというのか!?」
しまった、泥沼だあ!
「ちちち違います! エイミアはマーシャンに会いに行ったんです!」
「……マーシャン?」
「サーシャ・マーシャ陛下のことです。陛下は私達のパーティの一員でして」
「……そういえば陛下は、冒険者としても活躍されているのだったな……」
……活躍と言うより、暗躍と言ったほうが……。
「ならば陛下に念話してみるか……」
「ぐふぉっ!?」
な、何で念話水晶を持ってるのよ!? さ、さすが貴族……。
「今はマズいです! また後からの方が……」
「私も急ぎの用事なのだ」
「ええっと……あ、あれです! エイミアとマーシャンはガールズトークをしてるんです!」
「ガールズ……トーク?」
「はい。男性には絶対に聞かれたくないことを話してるんです。そんなとこに割って入るなんて、誇り高いドノヴァン家の方がなさることではありません!」
ようしっ! これなら大丈夫……。
「生憎だが、私は貴族の誇り等という下らぬモノは、一切持ち合わせておらぬ。故に無粋な真似も平気なのだ」
通じなかったあああっ! やべえ、万事休す……。
ガラッ!
「サーチてめえ! 私に何の恨みが……って、ええ!? 何でエリト様が?」
「ん? リルか、ちょうど良い。エイミアにも用事があったが、リルにも用事があったのだ。この際だ、リルへの用事を優先しよう」
助かったーーーーーー!!
「それではな、サーチ。明日も宜しく頼む」
…………………へ?
「あ、明日も?」
「? 当然だろう。明日からは復路ではないか。お前達のお陰で往路優勝は出来たが、真の勝敗は復路だ。では宜しく頼む……行こうか、リル」
「は、はい!」
ガラガラ……ピシャッ
………復路………こっちの世界にも……あるのね……がくっ。