表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
384/1883

第十二話 ていうか、無事にレースは続いているけど、疲れはててたはずのリルが急に!?

 第二区も終わり、もうすぐ第三区の半ば。マラソン(駅伝)大会も、残り半分。


『サーチ、一つ聞いていいですか?』


「何?」


 コース側の住宅街の屋根を飛び移りながら、ヴィーからの念話に応える。


『他のチームは各区間に一人ずつ選手がいるのに、何故エリトさんは交代せずに走り続けているのですか?』


「たぶんエイミアの親父さんの妨害で、選手を集められなかったんじゃないかな。それにこのマラソン大会では『人数が集まらなければ一人で複数の区間を受け持ってもいい』っていう規定があるから、ぶっちゃけ一人で全区間走っても問題ないわよ」


『いやいや、一人で全区間走るって……いくら何でも無茶なのでは』


「大丈夫大丈夫。エイミアのお兄さんだよ? 絶対に≪蓄電池≫(バッテリーチャージ)受け継いでるって」



「はっ、はっ、はっ、はっ」


「大丈夫なのか、リルは」


「は、はい。体力は、自信、あります」


「ならば良いが……無理はするなよ」


 ………。

 エ、エリト様……どんだけ体力あるんだよ!? もう50kmは走ってるぞ……。



「……≪蓄電池≫(バッテリーチャージ)の応用で、体力を回復させながら走れるはずだから」


『そうなのですか。便利なスキルですね』


 ……あんたの≪怪力≫や≪石化魔眼≫(ゴルゴン)も十分に便利だと思うわよ。


「問題はリルね。いつまで体力がもつか……」


『私が遠隔聖術で≪回復≫(リカバリー)をかけましょうか?』


 あ、その手があったか。


「うん、お願い。たまに様子見てツラそうだったら治療してあげて」


『わかりました。では一度治療しますので、一旦切ります』


「はいはーい」


 私が返事をすると、ヴィーはめっちゃ名残惜しそうに念話を切った。


「……ていうか……全部ヴィーからの念話だったよね……?」


 半分以上どうでもいい念話だった気がするけど……ま、いいか。



「はー、はー、はー」


 やべ……結構キツくなってきたな。でもエリト様の前でみっともないとこは見せられないし……。


『手早く≪回復≫(リカバリー)


 何だ? ヴィーか?

 ……と、思いきや……。


「お……おおおおおっ!?」


 や、やべえ! 今までの疲れがウソみたいに治りやがった!


「すげえすげえ! 身体が綿みたいに軽いぜ!」


 走りながらジャンプしまくる。足の痛みまで治ってるぜ!


「ひゃっほおぉぉっ!! ちょっと突っ走ってくるか!」


 昔みたいに全力でいくぜぃ!


「おい!? 待っ……」


 後ろで声がした気がするけど、気にしねえぜ!



「あ、あのバカ何やってんのよ!?」


 急にジャンプし出したかと思ったら、全速力でどっかに走ってっちゃったよ!?


「リル! 何やってるのよ! リル!?」


 ……返事がない。ただのハイ状態のようだ。


『サーチ、リルはどうしたのですか!?』


「わかんない! いきなりハイになっちゃったのよ……ねえ、≪回復≫(リカバリー)ってかけ過ぎると、深刻な禁断症状が出るようになったりしない?」


『そんな中毒性はありません! たぶん急激な回復によって精神的にハイになっているだけです!』


「じゃあ軽ーくショックを与えれば治る?」


『確かに治るでしょうけど! あんな高速で動くリルに聖術を当てるなんて不可能ですよ!』


 ……っ〜〜!! なら仕方ない!


「私がエリートさんの護衛につくわ! ヴィーはバックアップをお願い!」


『わ、わかりました!』


 舌打ちして茂みから飛び出した。



「……ん? お前はサーチだったか?」


「リルのバカがどっか行っちゃったので、しばらく私が護衛につきます」


「……わかった。しかしリルには驚かされるばかりだ……」


 でしょうね! 突然矢を手掴みしたり、それを投げ返したり。おまけに今回は飛び跳ねまくったあげくに、突然の全力疾走……ていうか失踪だし。


「リルのことは忘れてください。それより……!」

 ギインッ!

「自分自身の安全を第一に考えて!」


 瞬時に盾を作って、飛んできた矢を弾く。


「……父も今回は本気で殺しに来ているな」


「今回は?」


「少し前から実家に戻るように言われていた。どうやら傾いた財政を、私に立て直させるつもりらしい」


「もしかして……突っぱねた?」


「当たり前だ。何が悲しくて、無能な父達の援助をしなければならぬのだ!!」


 ……それで逆恨みしたってわけか。たく、質が悪い……。


「完全に相手が悪いけどさ、あんたも人との付き合い方ってのを考えなさいよ? 相手は腐っても本家なんだから、権力的には相手が上でしょ?」


「そ、それは……まあ……」


「自分より格上の相手を打ち負かすのなら、相手より格上の後ろ楯を得るか、情報を操る術を身につけておくこと。それがないのなら力を得るまではグッと耐えなきゃ」


「そう……だな。肝に銘じておく」


 ……惜しい人。

 才能もある。良識もある。他人の意見を聞ける度量もある。あと、この人を活かせる環境さえ整っていたならば……稀代の名君となったでしょうね。

 でも……私の予想通りなら、もう手遅れだ(・・・・・・)



「エリートさん、ごめんなさい!」


 どんっ


「なっ……!」


 ドス! ドスドス!


 元々エリートさんが走ろうとしていたコース上に、複数の矢が突き立つ。飛んできた方向から考えても……あの塔の上か!


「ヴィー! 右側の塔の上にいる連中」

 ズドオオオンッ!

『吹っ飛ばしておきました』


 あ、ありがと……早いわね。


「すまない、助かった」


「いえ。それよりエリートさんは無事にゴールすることに集中してください」


「わかった。しかしエリートではなくエリトなのだが……」


 エリートさんのボヤきをサクッと無視して先に進む。


『サーチ、リルが体力が尽きたらしいです。足が止まりました』


「わかったわ。ならややキツめ(・・・・・)のを一発お見舞いしてやって」

『わかりました』


「……リルを捕捉したので、少々お仕置きします」


「お仕置き?」


 ドゴオオオオン!


「……お、おい。私には少々どころには見えない爆発なんだが……」


「き、奇遇ですね……。私にもそう見えます……」


 ……ヴィー……ホントに手加減したんでしょうね?



『殺傷能力は全くありませんから、心配はいりませんよ』


「ウッソでしょ!?」


 あれ絶対に致命的な爆発よ!?


『今頃激しいくしゃみをしているだけです』


 激しい……くしゃみ?


「……一体何を爆発させたのよ……」


『聖術で集めた花粉と、近くに実っていた胡椒の実を少々』


 ……あ、そういうヤツか。



「ゲホゲホゲホ……は、離れて……ゴホゴホゴホ……すいませんでした……ぶあっくしょい!」


 ぶあっくしょいって……ずいぶん豪快なくしゃみね……。


「……顔が酷い状態だが、大丈夫か?」


「大丈夫でず……ずびーっ」


 汚いわね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ