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第十一話 ていうか、順調にマラソン大会は進んでるけど……裏では。

『しかし最初から爆破とは……大胆と言いましょうか、何も考えていないと言いましょうか……』


「まあね。あれだけ火薬の匂いをプンプンさせて走ってれば、獣人(リル)じゃなくても多少鼻が利く人にはすぐバレるわね」


 たぶんエイミアのお父さんの差し金だろうけど、依頼主に似てやり方がお粗末過ぎる。


『参考の為に聞きたいのですが、仮にサーチがエリトさんを狙うなら、どのような襲撃をしますか?』


「どのような襲撃も何も、マラソン大会前に片づけるわよ」


『え?』


「マラソン大会みたいな、人が集まる場所で狙ってる時点でアウト。私なら人目につかない深夜に、標的(ターゲット)が寝てるとこを襲うわね」


『よ、容赦ありませんね。でも合理的です』

『ちょっと待ってくれよ』


 私とヴィーの会話にリルが割り込んできた。


『人目につかないようにするなら、さっきの爆弾も有効だろ。まだこの先も爆弾が仕掛けられてる可能性があるんじゃねえか?』


『……そうですね。その可能性もあり』

「ないわね」

『……はい?』

「ごめん、割り込んで。さっきも言ったけど、人目につく場所での襲撃なんで下策中の下策。問題外だわ」


『……何でそう言い切れる?』


「いい? 暗殺の最上の方法って何だと思う?」


『えっと……先程サーチが言っていた「人目につかない深夜」に「周りに気付かれない」ように……でしょうか?』


「うーん……九十点」


『残りの十点は?』


「ヴィーが言った条件に『暗殺と気付かれない(・・・・・・・・・)』を+すれば満点ね」


『暗殺と気付かれない……か。確かにな』


 事故に見せかけるなり、病死に見せかけるなり。暗殺事件だと気づかれもしない、というのが最上の暗殺なのだ。


「暗に殺すと書いて暗殺。気づかれるようじゃ、それは暗殺じゃなくて単なる殺人なのよ」


『……なるほどな……』


「だから爆破なんてのは下策なのよ。人目につくつかない以前の問題で、問答無用で注目の的になるのは確定。しかも爆破に巻き込まれて無関係の一般人に被害が出たら、目も当てられないわ」


『やっぱり暗殺者は一般人を巻き込まないモノなのですか?』


「違うわ。警備隊の追跡が厳しくなるじゃない」


『『……は?』』


「なぜ暗殺をする必要があるのか? それはできる限り証拠を残さないようにするため。つまりは、バレないようにするためよね?」


 リルとヴィーは水晶越しに頷く。


「なのに無関係の一般人を巻き込んだら、警備隊にとっては『絶対に捕まえなければならない犯人』になっちゃうのよ。そうなったらどんな手段を用いてでも犯人を探すわよ」


『……そういう事ですか。腕利きの魔術士を雇えば、追跡魔術で追う事も出来ますからね……』


『わかった。サーチの言うことには納得できた。けどよ……』


 何よ。まだ何かあるの?


『エイミアの親父さんが雇った連中が、どうしようもないほどバカな三流暗殺者だったら……どうなる?』


 ………………しまった。


「それは考えてなかったわ……リル、前言撤回。街中でも吹っ飛ばしてくる可能性があるから、火薬の匂いには特に用心して」


『……おーけー』


「ヴィー、申し訳ないけど常にエリートさん達を≪遠視≫(テレスコープ)で追って。怪しいヤツを見かけたら、すぐに私に知らせて」


『わかりました。MP回復ポーションはエイミアからたっぷり頂きましたから、おそらく大丈夫だと思います』


「それじゃあ二人ともお願いね」


『『了解』』


 念話を切ると、木陰を飛び移った。


「……それにしても、リルのヤツ……どうやって念話してきたわけ? 走りながらやってたのかしら……」


 ……器用なヤツ。



 その後は何も起きることもなく、無事に第二走者へタスキが渡った。ていうか、タスキなんだよね。だったら潔く『駅伝』ってしなさいよ。


『怪しい人影は皆無ですね。やはり最初の爆破を阻止されたのが、相手を警戒させる事になったのでしょうか』


「そうでしょうね。リルが言うような三流暗殺者じゃなかったみたいね……」


 こちらとしては非常に助かったけど。


『直接エリトさんを襲う事を躊躇するならば……今度の襲撃は……』


 ……魔術による遠隔攻撃か、弓矢での遠距離射撃。


「ヴィー、魔術の遠隔攻撃って精度はどうなの?」


『そうですね……≪遠視≫(テレスコープ)みたいな魔術を使えば、かなり正確な遠隔魔術になると思います。ただ、MPの消費が激しいですから……連発は無理でしょうね』


「なるほど……ごめん、ちょっと調べたいことがあるから切るわね」


『わかりました』


 一旦ヴィーとの念話を切って、ニーナさんに念話し直す。


『………はい、ニーナ・ロシナンテです』


「ニーナさん? サーチだけど、大至急調べてほしいことがあるの。実は……」


 手短に事情を説明する。


『……わかりました、すぐに調べてみましょう』


「お願いします。じゃ」


 ……三分後、ニーナさんから折り返し念話が入った。早。


『サーチ、わかりましたよ』


「ありがとうございます! で、どうでした?」


『あなたが睨んだ通り、ドノヴァン家の状態はあまり良くないですね』


「やっぱり帝国の件で?」


『そうです。帝国との違法な繋がりを糾弾されて、国内での地位がかなり危うい状態だとか。領地経営に関しては、現当主も跡取りの長男も揃って無能ですね。財政は破綻寸前のようです。一方で分家のエリト・ドノヴァンがとても優秀で、領地のほんの一部、それも相当な僻地を与えられたのですが……わずか一年足らずで黒字化に成功しています』


 たった一年で!?


『現当主の反対派閥は「エリト様こそ次期当主に相応しい」として、エリト・ドノヴァンを長男の対抗馬として担ぎ上げようと画策しています』


 ……ニーナさん……短時間でよくここまで……だけど「ほとんどいらない情報です」ってことは言えない。


「じゃあ、現在のドノヴァン家では……」


『あなたが危惧していた、優秀な魔術士を大量に雇うという事は……実質、不可能です』


 ニーナさんにお礼を言って切り、再びヴィーに念話する。


『……サーチ?』


「ごめん、お待たせ。エイミアの親父さんには複数の魔術士を雇う余裕はないみたい。今さらだけど遠隔魔術が使える魔術士って、そんなにいないわよね?」


『ほとんどいないです』


 よっし、OK!


「なら遠隔魔術が飛んでくる可能性はほとんどないわ。あってもせいぜい一二発か……」


『一二発くらいでしたら私がレジスト出来ます』


「なら私が相手の魔術士を始末するわ。魔術を発動したあとなら、場所を探るのなんか簡単だし」


『でしたら、後は弓矢への対処ですね』


「あ、それは無問題。リルに任せれば大丈夫よ」


『え?』


「リルの職業は弓術士よ。弓矢に関しては専門家なの」



「……エリト様、失礼」


 ひゅん! ぱしぃ!


「!? な、何事だ!?」


「いえ、矢が一本飛んできただけです」


「矢が!? リル、お前は飛んできた矢を素手で掴んだのか?」


「私は弓術士ですので、それぐらいは簡単です」


「そ、そういう問題ではないと思うが……」


「ちゃんと反撃もしておきます……アニャアア!」


 どびゅん!


「矢を……投げ返した?」


「……当たりました」


「!?」



 ……実際に確認したら、頭に矢が刺さった死体が転がってた。投げ返すって、もう弓術じゃなくね?

長い題名になっちゃった。

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