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第十話 ていうか、駅伝……じゃなくてマラソン大会、いよいよ開始!

 ポンッ! ポポンッ!


 快晴の青い空に、爆発音と共に広がる白煙……って、こっちの世界にも花火はあるのね。


 ジャーーン♪ ジャカジャカジャカジャーーン♪


 スタート地点の近くに控えていたオーケストラが、一斉に音楽を奏で始める。流れる曲は、前世のマラソン中継の最初によくかかっていた曲……って、これまでこっちの世界にあるんかい!


『……晴れ渡る空の下、第八十七回パンドラーネ主催・ギルド対抗マラソン大会が始まろうとしています』


 オーケストラの演奏が終わると同時に、魔術式の拡声器に繋がれたマイク(みたいなモノ)に向かって一心不乱にしゃべり始める男性……って、アナウンサーまでいるのかよっ!


『……それでは今大会の解説を務めて頂きます、元アタシーギルドマラソン部監督のダルシアさんです。よろしくお願いします』


『はい〜、よろしくお願いします〜』


『ダルシアさん、今大会の見所はどの辺りでしょうか?』


『そうですね〜、昨年の優勝ギルドのブルスクに、他のギルドがどれだけ食いついていけるかが、鍵ですね〜』


『成程、ありがとうございます』


「……って解説者までいるのかよっ! ていうかブルスクって何だよブルスクって! ちょっと、ヴィー離しなさい! 何かいろいろ納得いかないのよ! コラ、離せぇぇぇっ!!」


『おっと、何事でしょうか。観客が一人何か叫びながらコース上に……?』


『いけませんねぇ〜。選手のモチベーションに影響しなければいいですが〜』


『毎年このような観客が一人はいますからね。節度を持って応援していただきたいモノです』



 ……はあはあはあ……。


「サーチ、落ち着きましたか?」


「……ご、ごめんヴィー……危うく暴走するとこだったわ……」


「いえ……それよりも。サーチがあそこまで取り乱すなんて、珍しいですね。あの司会進行が何か言ったのですか?」


「あ、いや、何も特別なことは言ってないんだけど……」


 何か納得がいかなかっただけよ。


「いかんいかん。私がしっかりしないと……」


 両手で頬っぺたをペチペチ叩き、気合いを入れる。

 よし、もう大丈夫!


「リルはエリートさんに張りついてる?」


「大丈夫です。リラックスした状態で、エリトさんの背後に控えてますよ。ただし、尻尾を常に(・・)ピーンと立てたままで」


 リラックスには程遠いな!

 エイミアとリジーも……うん、ちゃんといるわね。


「……サーチ、何故今回はエイミアにあの様な役回りを? 折角肉親も来ているのですから、エイミアもエリトさんの護衛に回ってもらえば」


「エリートさんの護衛を辞退したのはエイミア自身よ。何か事情があるんでしょ」


 エイミアが「絶っっ対にエリト兄さんには会いたくありませんっ!」 と言い張るのだ。仕方ないので裏方に近い仕事を任せたんだけど……。


「それに……。肉親と必ずしも仲が良いわけじゃない、ってヴィーにもわかるでしょ?」


「……そう……ですね」


 前世でも親子や兄弟間で骨肉の争いを繰り広げている連中がいたし。まあ肉親との関わりが一切なかった私には、一生わからないことなんだろうけど。


「エイミアの方から何か言ってくるまで、とりあえずは様子を見ましょうよ」


「……サーチがそう言うなら……」


 ヴィーとそんな会話をしていると、各ギルドの第一走者がスタート地点に集まりだした。もうスタートか。


「ヴィー、それじゃ手筈通りにお願いね」


「はい。サーチ、お気を付けて」


 ここで少しイタズラ心が疼いた私は、ヴィーのおでこに唇を触れさせた。


「ありがと。ヴィーも気をつけてね」


 そう言ってヴィーから離れた。



 ……ヴィーが腰から崩れ落ちた気がしたけと……大丈夫でしょ。



 あとから聞いたんだけど、実際にヴィーはしばらく足腰が立たなかったらしい。それでヴィーの行程は十五分遅れになったそうだ。ごめんよう。



『よーい……』

 パアアンッ!


 スタートのピストルとじゃなく、魔術による炸裂音がスタートの合図だった。各選手、一斉に走り始める。


「それにしても……鎧や盾を持ったまま走るのって、大変ねぇ……」


 総重量は10〜20㎏どころではないわね。あれで各区間、平均20㎞を走るとは……。

 選手によっては重装備すぎて「ズシン! ガチャガチャ! ズシン! ガチャガチャ!」 という騒音を響かせている。あれ絶対にリタイアするわ。


「……建物を飛び移って移動してる私の方が速いってのも……」


 大丈夫かよ、こいつら……とか考えていると。


「お、護衛対象(エリートさん)発見」


 革製品で統一した比較的軽い装備で、軽快に走るエリートさん。その背後には、目をハートマークにして走るリルがいた。大丈夫かよ、おい。


『サーチ、聞こえるか』


 すると、念話水晶からリルの声が聞こえてきた。念話水晶をソレイユが改造してくれたので、トランシーバーと同じ使い方ができるのだ。


「聞こえるわよ。どうしたのよ」


『ちょっとエリト様を見てもらえるか?』


 な、何? まだ何も起きてないはずだけど……。


「……何も変化はないと思うけど……」


『ちげえよ! ……カッコいいよな?』


「着信拒否作動」


『お、おい! ちょ……ブツッ』


 ……あのバカは何を考えてるのよ……。


『もしもし、サーチ聞こえますか?』


 今度はヴィーか。


「聞こえるわよ。どうしたの?」


『リルが妙な事を言ってきまして……』


「無視して着信拒否で」


『いえ、サーチに言いたい事があるので伝えてほしいと』


 言いたいこと?


「……まさか『エリト様の横顔、カッコいいよな?』とか言ってきたとか?」


『言ってきましたけど、その事ではありません』


 言ってきたのかよ!


『エリトさんから50m程離れて走っている一団から、火薬の匂いがするそうです』


 火薬!?


「……一人異様に着膨れてるヤツがいる集団?」


『そうです。どうしますか?』


 マラソンに火薬が必要なわけがない。間違いなくクロね。


「この先の林の中で仕留めるわ。ヴィーは音を遮断する聖術をお願い」


≪静寂≫(サイレント)ですね、わかりました』



「……おい、そろそろ仕掛けるか?」


「構わないが……ドノヴァンの坊っちゃんは来てるのか?」


「すぐ後ろにいる」


「よし。そこの茂みに仕掛けておくか」


 ……ビンゴ。


「なーにを仕掛けるつもりなのかしら?」


 そう言ってから、よく燃える燃料の入った瓶を投げつける。


 ガシャアン!


「な、何だ!? 敵か!?」


 マッチを一本擦って落とし、離脱。


「!? 火が!」

「危な」

 ドドオオオオン!



 ……男は最後まで言葉を紡ぐことなく、木っ端微塵になった。



「……む? 何だこの煤は? それに妙に焦げ臭い気がするな……」


「エリト様、気のせいでしょう。先を急ぎましょう」


「……そうだな。私は奴に……そして父に、絶対に負ける訳にはいかない」


 ……よし、リルがうまくフォローしてくれたみたいね。


「ヴィー、OKよ。それにしても≪静寂≫(サイレント)はスゴいわね。ホントに音が聞こえなかったわよ」


『お褒め頂き光栄です』


 ……とりあえず、第一関門は突破。


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